世界の投資家から見て、日本企業は投資先としてどれほどの魅力を持っているでしょうか。また、日米の企業を比較すると、成長率ではどのぐらいの差があるのでしょうか。
“伸び盛りの富裕層”の多くは、日本株への投資はほどほどに、グローバル株への国際分散投資に軸足を置いているのです。
そうした背景にあるのは、日本の“国力低下”です。
日本は、1980年代後半のバブル期には「ジャパン・アズ・ナンバーワン」ともてはやされ、米国に次ぐ「世界第2位の経済大国」と胸を張ってきました。
バブルがピークを迎えた1989年の世界企業の時価総額ランキングトップ10には、日本企業が7社もランクイン(1位は日本電信電話[NTT、9432])。
それが2022年ではトップ10には1社もランクインしておらず、最上位のトヨタ自動車(7203)がようやく31位に顔を見せているというのが現状です。
1991年のバブル経済崩壊以降の「失われた30年」により、日本の国際的な地位は低下の一途をたどっています。
現在、GDP(国内総生産)では、中国に抜かれて世界第3位に後退。2012年から2021年の10年間で、日本のGDPは1.1倍しか成長していません。
1人あたりのGDPでは、主要7か国(G7)中の最下位をイタリアと争っています。
また、日本の賃金水準は、バブル崩壊後の約30年間、ほとんど変わっていません。
OECD(経済協力開発機構)によると、2020年の日本の平均賃金は1990年と比べてたった4%しか伸びていないのです。
この間、韓国、英国、フランス、スウェーデン、アイルランドなどに追い越され、34か国中24位まで後退しました。
世界競争力ランキングでも、かつては世界1位の座にいたこともありましたが、いまでは63か国・地域のうち、2020年と同じく過去最低の34位にまで低下しており、アジアでは10番目となっています。
今後、急速に進展する少子高齢化による人口減少により、国力の衰退にはいっそう拍車がかかる恐れもあります。
2050年前後には、日本の人口は1億人を割り込むとされています。
2020年には7400万人を超えていた15~64歳の生産年齢人口は、2040年には6000万人を割り込むという予測もあります。
働き手が減れば、GDPも右肩下がりになりますから、日本にバラ色の未来を描くのは、相当困難でしょう。
2022年に放映されたNHKのSFテレビドラマ『17才の帝国』(吉田玲子作)では、世界から「サンセット・ジャパン」と斜陽国の烙印を押されて、G7からも除外される日本の近未来の姿が描かれており、大きな話題となりました。
それが、現実のものになる日は、案外近いのかもしれません。
ここで説明している投資とは、短期売買(トレード)ではなく、長い目で見た中長期保有を前提にしています。日本の国力の低下は、それを前提とした日本株の世界的な評価にも如実に表れています。
グローバル化する世界経済で存在感を高め、国際的に評価されて株価を上げる日本株を発掘したいのですが、長期的な資産形成の観点で自信を持っておすすめできる日本株を挙げるのは難しいというのが正直なところです。
いま長期的な視点から日本株を買うべき指数に基づく理由があれば、教えてほしいくらいです。
2020年には、GAFAM5社の時価総額だけで、東証一部(当時)の全2170社の時価総額を上回りました。そこで、全体的な株価の傾向を踏まえるため、米国のS&P500・ナスダック総合指数と、日本の日経平均株価を比較してみましょう。
日経平均株価は、2012年のアベノミクス以降、上昇に転じていますが、いまだにバブル期の最高値(3万8957円)を一度も更新していません。
それに対して米国株は、2009年のリーマンショックの落ち込みをカバーして、最高値を更新しています。
「バブル崩壊後、1992年の最安値からの株価成長」
「リーマンショック夜明け前からの株価成長」
「新型コロナショック夜明け前からの株価成長」において、いずれも米国株に対する日本株の低調ぶりが際立っています。
日本のほとんどの個人投資家が、韓国株やニュージーランド株に興味を示さないように、世界の投資家はほとんど日本株に関心を払っていないといっても過言ではないのです。
もちろん、外国人持ち株比率が50%を超えるような東証上場企業も50社近くありますが、それでも日本市場離れは否めません。
米国でグローバル株への投資が盛んになってきたといっても、日本株への成長期待を背景とした投資を考える投資家は、おそらく少数派でしょう。
そんな厳しい現実を如実に表しているのが、国際分散投資を行う機関投資家の多くがベンチマーク(運用指数)としているMSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)の指数構成銘柄の変化です。
20年ほど前には時価総額で日本株が10%近くを占めていましたが、現在では6%ほどにまで落ち込んでいます。日本企業の時価総額の増加は他国に遅れをとっており、指数における構成比率が年々低下しているのです。
そして、有名企業が続々と除外されています。
ここ数年だけでも、MSCIから除外された日本の銘柄には、次のようなものが挙げられ、日本からの資金流出が懸念されています。
【2020年】川崎重工業(7012)、ニコン(7731)、三菱自動車工業(7211)、セブン銀行(8410)、J-POWER(9513)などが除外
【2021年】中国電力(9504)、九州電力(9508)、新生銀行(8303)、九州旅客鉄道(9142)、帝人(3401)、東急不動産ホールディングス(3289)、イオンモール(8905)などが除外
【2022年5月】ベネフィット・ワン(2412)、日野自動車(7205)、良品計画(7453)、メルカリ(4385)、ローソン(2651)、コスモス薬品(3349)など22銘柄が除外、新規採用はゼロ(除外超過数は世界最多)
このように日本人になじみのある銘柄が、容赦なく除外されているのです。年々除外される銘柄が増えてくるにつれて、外国の機関投資家は日本株からグローバル株や米国株へと資金をシフトさせています。
「グローバル株や米国株はよくわからないから、なじみのある日本株に投資したい」という話を聞くこともあります。
ですが、よく知っている日本株は、これから中長期的に見て上がる株なのでしょうか? 日本株以外はよくわからないという人も、日々使っているスマホは米アップル(AAPL)のiPhoneだったり、趣味のジョギングで履いているのは米ナイキ(NKE)の厚底シューズだったりするのではないでしょうか?
仕事で日本製のパソコンを使っているとしても、その心臓部であるCPUやOSは海外製。新型コロナで接種したワクチンも米ファイザー(PFE)と独ビオンテック(BNTX)が作ったものと、米モデルナ(MRNA)が作ったものがメイン。国内外の旅行で乗る旅客機も海外製(大半は欧州のエアバス[EADSY]か米ボーイング[BA])です。
私たちは「知らない、縁遠い」と思い込んでいるだけで、じつはグローバル企業や米国企業の商品やサービスを、知らない間に日常使いしています。
その気になればグローバル株の情報は日本語でも十分に集められるのです。
もちろん、日本株は一切買わないほうがいいといっているわけではありません。
日本企業にも、グローバルな舞台で活躍しており、潜在的な成長性を秘め、業績が急拡大して株価が上昇する余地を残している銘柄もあるでしょう。
いわば日本株の皮をかぶったグローバル株を見つけるのも、株式投資の醍醐味です。
でも、より視野を広げて、視線を海外に移してみれば、グローバルではもっと成長性 と株価の上昇余地を残している有望銘柄がたくさん見つかるのです。