早期退職、希望退職を募る企業が増えていまっす。昨今の人手不足で、「辞めても次の仕事がある」という背景もあり、世相に悲壮感は漂っていません。
“仕事はある”と言っても、希望の職種に就けるかどうかは、別問題。気持ちだけは若く、「まだまだ働ける」と思っていても、実際に転職してみると、今までのように結果を残すことができない人も少なくありません。
妥協した職場を選んでしまい「こんな仕事はしたくなかった」と後悔する人や、想定以上のストレスで心が病んでしまう人など、早期退職の“その後”でしくじるケースは思いのほか多いのです。
50代以降のサラリーマンが転職する際、早期、希望退職者の「この仕事は回避したほうがいい」という職種を考察していきたいと思います。
まず、お勧めしないのが「IT関連」です。
多くの業務でデジタル化が進み、業界の経験者以外でも、比較的、給与が割高なIT企業への転職を考える人が多いです。
しかし、IT関連の仕事は変化のスピードが早く、経験者でも新しい情報をキャッチアップすることが難しいのです。
生成AIを使う業務も増えており、中途半端なスキルでこの業界に飛び込んでしまうと、トレンドについていけず、思うように成果をあげられなくなってしまうことも考えられます。
積み重ねてきた経験が逆に足枷になってしまうのも、この業界特有の問題といえます。
実践してきたネットマーケティングが突然通用しなくなったり、学んできたプログラミングの知識が古くなってしまったり、身に付けたスキルの劣化が早いことも、中高年がこれらの仕事をしづらくなってしまう理由のひとつと言える。 職場環境にストレスを感じる場合も… もうひとつお勧めできないのは、「接客業」です。
50歳を過ぎると徐々に反射神経が鈍くなり、若い頃に比べて気配りができなくなるシーンが目立つようになります。
以前は気づいていたことも見落としてしまう機会が増えて、必要以上に老いを感じやすいのも、接客業の特徴といえます。
職場にいる年下の店長やパートやアルバイトと、仕事に対する考え方や姿勢にギャップを感じたり、若いスタッフと同じように機敏に動けない自分に気落ちしたり、中高年がストレスを感じやすい職場環境のひとつといえます。
三つ目にお勧めできないのは、「事務」の仕事である。座ったままでできる仕事なので、体力が落ちてきている中高年にはお勧めの業務です。
しかし、身体を酷使しない仕事は、若い人や女性にも人気の職種でもあり、よほど総務や人事の経験が豊富な人でなければ、高い求人倍率をくぐり抜けることは難しいです。
仮に採用されたとしても、老眼でパソコンや書類の文字が見えにくくてストレスを感じたり、座りっぱなしの仕事で肩凝りや腰痛が悪化したり、思いのほか身体の丈夫さが問われる業務といえます。
四つ目にお勧めしたくないのは、「業界全体の給与水準が低い職種」です。
待遇面にこだわらず、自宅からの近さや、知人の紹介などの理由で、安易に職場を選んでしまう人は少なくありません。
しかし、低賃金のイメージが強く残る職種に就いてしまうと、働き手が集まらない事情から、業務のオペレーションが回らなくなっている可能性が高いです。
給与水準が低い職場は、対人関係でも問題を抱えているケースが多い。体験入社などを通じて、事前に職場環境や働いている人の様子を把握したほうがいいでしょう。
最後に「営業関連」の仕事も、あまりお勧めしません。
50歳を過ぎると若い頃に比べて出世欲やお金に対する執着心が乏しくなり、モチベーションを上げることが難しくなります。
子育てや住宅ローンでお金が必要な状況下での転職であれば、まだ踏ん張って仕事をすることができます。
しかし、生活費にそこまでお金がかからず、数年働ければ年金生活が待っているような環境の場合、営業ノルマを達成する意欲そのものがなくなってしまうからです。
会社の期待に応えられず、若い社員に営業成績が抜かれてしまう環境は、やはり中高年にとって居心地の悪い職場になってしまいます。
老いる身体をどんなに上手に管理したとしても、全盛期だった頃に比べれば、50代の体力と精神力は落ちています。
理想と現実のギャップが最も感じやすい年齢なので、「今」の自分よりも、10年、20年先の自分をイメージしながら転職活動をする必要があります。
また、本人が自覚をしていなくても、仕事に対するプライドは、拭い去ることができない。頭を使う仕事や、気を使う仕事をした際、老いによる「できない」「遅い」という現実を突きつけられてしまい、以前の職場で働いていた頃よりも、心に深い傷を負うことになります。
特に前職と同じような仕事を選んで転職した場合、似たような業務になるために、自分の老いにも気づきやすく、プライドも傷つきやすくなります。
キャリアを生かした転職という点でいえば正解かもしれないが、人生後半の仕事選びとして正解かどうかは、慎重に検討したほうがいいでしょう。
ストレスフリーの仕事の選び方 よほど自分自身の人柄を買ってくれて、今まで培ってきたスキルを存分に発揮できる職場であれば、迷うことなく、転職したほうがいいでしょ。
しかし、「仕事に対するこだわりがない」「多くの収入を望んでいない」という、セカンドライフの仕事に対して強い思い入れがなければ、以下の3つの仕事探しの視点で、転職を検討してみるといいでしょう。
ひとつは、「教える仕事」である。指導員やコンサルタント、教室の先生など、人に教える仕事は、年齢相応のプライドを保たせてくれます。やりがいもある仕事なので、人生のフィナーレを飾る仕事としては、相応しいといえます。
もうひとつは、「配送業」。常に上司や部下がそばにいる仕事ではないので、一般的な企業で働く社員に比べれば、対人関係のストレスは少ないです。
前職で人付き合いに悩まされた苦い経験のある人には、おすすめの職種といえます。
最後にお勧めするのは、「万人ができる仕事」です。
高いスキルや経験を必要としない、流れ作業やルーティンの業務であれば、仕事に対するプライドを持つ必要がなくなります。
トラブルがあっても思い入れが少ない分、精神的な落ち込み具合は最小限で済みます。
へたに経験やプライドがあるから、老いと向かい合わなくてはいけないのであって、今まで無縁だった仕事をあえて選ぶほうが、ストレスフリーの仕事に就くことができます。
定年退職と早期、希望退職には「もう働かなくていい」と「まだ働かなくてはいけない」という大きな違いがあります。
前者は株の投資でもしながら、悠々自適に暮らすことが許されますが、後者は貯蓄もままならない年齢なので、もうひと踏ん張り働く必要があります。
50歳前後で早期、希望退職の道を選んだ場合は、できるだけ長く、そして着実な仕事に就かなければ、人生の後半で転職を繰り返すことになり、収入面で想定外の老後を迎えることになります。
映画でも小説でも、ラストシーンの心地よさによって、物語全体のイメージが大きく変わってくる。それと同じで、人生のラストシーンをできるだけ心地よく迎えたほうが、人生を振り返った時の満足度は高いです。
その点も含めて、早期、希望退職後の仕事選びは、より慎重に行ったほうがいいでしょう。