氷河期セミリタイア日記

就職氷河期世代ですが、資産運用でなんとかセミリタイアできました。残りの人生は、好きなことをしながら自由に生きていきます。

介護業界からの人材流出に歯止めをかけられるか?

政府・与党は11月6日、2024年2月から介護職員等の賃金を月6,000円引き上げる措置を行う方向で調整に入りました。介護業界からの人材流出を重くみてのことです。

しかし、同日に厚生労働省が発表した「毎月勤労統計調査」によると「実質賃金」が18ヵ月連続でマイナスになっています。

この状況下での月6,000円の賃上げにはどのような意味があるのでしょうか。

まず、介護職員の給与の実情についてデータを基に説明します。 介護職員の給与は、事業所に毎月支給される「介護報酬」のなかから支給されます。

つまり、原則として介護報酬の増減に連動することになります。 介護報酬の改定は3年ごとに行われることになっていますが、近年では、2021年に行われた3年ごとの改定に加え、翌年の2022年に、介護職員等の処遇改善のため「臨時の報酬改定」が行われました。

これは同年10月以降、介護職員の給与を3%程度(月9,000円)引き上げること等を内容とするものです(介護職員等ベースアップ等支援加算)。

なお、この2022年の報酬改定に先立ち、同年2月から9月まで「つなぎ」として介護職員の給与を月平均9,000円引き上げるための「介護職員処遇改善支援補助金」が実施されました。

今回行われる見通しの「月6,000円の賃上げ」もこれと同様、2024年に予定されている報酬改定に先だって「つなぎ」として補助金を支給するものとみられます。

2022年10月の介護報酬改定により、同年12月の介護職員の平均給与額は31万8,230円となりました(厚生労働省「令和4年(2022年)度介護従事者処遇状況等調査結果」参照)。

しかし、厚生労働省の「民間給与実態統計調査」によれば2022年の労働者全体の平均給与は年457万6,000円、つまり月換算38万1,333円です。

介護職員の平均給与は、報酬改定が行われたにもかかわらず、全体の平均より月6万円以上低いことになります。

しかも、2023年の春闘での平均賃上げ率は3.58%であるのに対し(連合の調査)、介護職員の賃上げ率は1.42%にとどまっています(全国老人保健施設協会等11団体の調査)。

もし、月6,000円の賃上げが行われたとしても、全労働者の平均と比べると依然として大きな差があります。 全国⽼⼈保健施設協会等の11団体の調査によれば、2022年の介護現場の離職者数は2021年より5.2%増加し、特に正社員の異業種への離職者数が28.6%増加しています。

なお、正社員のうち介護職だけでみても26.3%増加しています。 1年という短期の間に、介護現場から急激に人材が流出していることがうかがわれます。

賃金上昇率が他の業種より低いうえ、昨今の物価高のため、従来の給与で生活していくのが難しくなっているということも影響している可能性が考えられます。

物価高のために従来の給与で暮らしていけなくなることを、「実質賃金の低下」といいます。実質賃金とは、労働者の賃金(名目賃金)の額に、物価上昇率を加味して計算される数値です。

厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によって毎月算出されます。 名目賃金が上昇しても、その上昇率が物価の上昇率に追いつかなければ、実質賃金は下がります。

そして、日本では2022年4月以降、2023年9月まで、18ヵ月連続で前年同月比「マイナス」となっています。これに対し、消費者物価指数は一貫して前年同月比「プラス」です。

全労働者の平均の実質賃金が「マイナス」になっていることからすれば、名目賃金が低い介護職員は、さらに経済的に苦しい状況にあることがうかがわれます。

実質賃金が低下する要因としてよく指摘されるのが、以下の3つです。

・物価の高騰

労働生産性が低い

労働生産性が向上しても直ちに賃上げにつながらない

まず、物価の高騰は、ロシアのウクライナ侵攻による世界的な燃料価格・食料価格の上昇に加え、日本の金利が諸外国より低いことによる「円安」が影響しています。

これに対し、労働生産性が低いこと、労働生産性が向上しても直ちに賃上げにつながらないことについては、IT化等の技術革新が進んでいないこと、中小事業者が多いこと、長時間労働が横行していること等、様々な原因が指摘されています。

ただし、業種によっては労働生産性の向上に限界があるものもあります。また、お金が儲かるかどうかと、社会に必要とされている仕事かどうかは一応別の問題であることにも留意する必要があります。

結局は「政治的決断」にかかっている 介護職員の給与は、介護報酬の中から支給されるので、介護報酬の増減に連動せざるをえません。

しかし、介護報酬の改定は基本的に3年に1回なので、それだけでは物価上昇等の要因に対応できないことがあります。

昨今の急激な物価上昇とそれに起因する実質賃金の減少はまさに、介護報酬の改定では対応しきれないケースです。 また、介護の仕事は生身の人間の世話をする仕事であり、労働生産性を向上させるにしても限界があります。さらに、社会に必要とされていながら、いわゆる「儲かる仕事」でもありません。

これらのことからすれば、介護職員の待遇をどうするかは、ひとえに、介護報酬をいくらに設定するのかという政府の政治的決断にかかっています。

そして、それは、政府が介護の仕事をどの程度重要なものととらえているかによります。高齢化・少子化が進行し、ただでさえ働き手が少なくなっていくなかで、もし、介護の担い手が減少すれば、遠くない将来に「介護難民」を多数生み出してしまう可能性すらあります。

もちろん、介護報酬の引上げは公費負担と介護保険料の増大につながる面があることにも留意しなければなりません。しかし、介護の担い手の確保は、介護保険制度、ひいては社会保障制度自体の維持・存続にかかわる問題です。

今回の「月6,000円」の賃上げが、介護業界での人材流出を食い止めることにつながりうるのか。政府・国会には、現実を踏まえたうえでの効果的な施策が求められます。

にほんブログ村 ライフスタイルブログ セミリタイア生活へ
にほんブログ村