「フリーランス」として働きたい個人も、ここ数年でだいぶ増えてきましたが、企業の側もまた、「フリーランス」人材を活用したい機運が徐々に高まってきています。
それは、従来課題としてあった「フリーランスにどう発注していいか分からない」問題が、解消されつつあることと関係しています。
そうした根深い日本企業の課題にメスを入れたのは、意外にも、新型コロナウイルスの存在でした。
企業が「アウトプットベース」で業務を切り分けるようになってきたからです。
企業が外部の副業・フリーランス人材に仕事を発注する際、最大の課題として立ちはだかってきたのは、契約内容や金銭にまつわるやり取り以上に、「業務のどこを切り取って、外部発注すればいいのか分からない」という問題でした。
その課題が2020年の新型コロナウイルスの感染拡大以降、大きく改善されました。
ステイホーム時期には、多くのオフィスから人が消え、いつもなら目の前に座っている部下たちが、各々自宅に散らばり、オンラインでつながるようになったのです。
当然、口頭で気軽に仕事を頼むことや、進捗状況を確認することもできなくなり、やりとりはすべてオンラインとなり、従来の仕事のやり方とは随分と勝手が異なる環境に、会社も上司も試行錯誤するようになりました。
その結果、「誰に・何の業務を・いつまでに・どのレベルまで」やってもらうのかを上司やチームが、明確に把握しておくノウハウが蓄積されていったのです。
そして部下に業務を「発注」できるならば、外部人材にも「発注」できることに気づいた現場が続出しました。
日々の業務は部下に発注しても、「この業務のここは外部のプロ人材に発注するか」など、業務の切り出しが可能になり、「この期間だけ専門家が必要だが、常在かつ恒久的には必要でない」場合もあります。
専門知識を持つプロ人材が欲しいなら、期間を決めて外部人材に依頼するのがもっとも効率的です。
生半可な知識しか持たない社員が、見よう見まねで試行錯誤するより、百戦錬磨の外部プロ人材に教えを請うたほうが、はるかに効率的に進む場合は多々あります。
実はこうした働き方・仕事の発注の仕方は、これまでもコンサルティング業界やシステム業界、広告代理店業界などではよく見られたものでした。
クライアントごとにプロジェクトを組み、そこに各個人が集いチームとして協働する彼らは、対象のプロジェクトが完了すれば、チームを解散させ、新規のプロジェクト先に再び集っていく働き方をこれまでも重ねてきました。
「ジョブ型雇用」という発想も、最近ますます浸透してきましたよね。これまで「会社に座って働くこと」に対して支払われてきた報酬が、「アウトプット」に対して支払われるようになります。
そうなれば、何も「この会社の、このプロジェクト」でなくても、「あの会社の、あのプロジェクト」に参加したっていいわけです。
この働き方に慣れてくると、正直なところ、自分はどこの企業に属しているのかという所属意識が曖昧になってきます。
「会社って、何のためにあるんだっけ?」 「企業に雇用され続ける意味ってあったっけ?」そんな疑問が胸に湧き起こった人も少なくなかったはずです。
だったら、フリーランスになってもやっていけるのではないか?
そう気づき始めた人が出てきたということです。
「会社に“いる”ことで発生する業務への報酬」を得られるのが会社員、「仕事の成果物・アウトプットに対する報酬」を得られるのが、フリーランス人材です。
コロナ禍では、「立場は前者なのに、中身は後者」という錯綜した働き方を、多くの人が経験しました。
比較的若い層は、「仕事でアウトプットさえしっかり出せば、空いた時間は自由に過ごしてもいいのでは?」と感じていた一方で、シニア層は、遠隔でも“いる”ことを重視して、「きちんとパソコンの前に座っているか」を監視するようなケースも散見されました。
しかし、オンラインでの業務が普通になってくれば、その業務を行う場所は必ずしも会社である必要はなくなってきます。
もちろん、リアルに人と人が対面することで生まれる価値は軽視できません。画面越しで初対面の人と話しても、なかなか話は盛り上がりませんし、営業だってしにくいでしょう。
日々の雑談から生まれるアイデアもありますし、会議やミーティングでも、リアル対面でこそ生まれる相手への共感や相互理解もあるはずです。
逆にリアルで話しているからこそ、わずかな違和感をキャッチできたというケースもあるでしょう。
ただ、“作業”の多くは、実は会社で行わなくてもいいことも多いはずです。作業だけなら、自宅やシェアオフィス、カフェでもいいし、「むしろそちらのほうが集中できる」「自分なりの仕事環境を整えられる」という声も生まれます。
空間的制約に限らず、時間的制約にも同じことが言えます。「成果さえしっかり出せば、必ずしも9時~5時で働く必要もないのでは?」と考える人も増えました。
仕事の合間に散歩や昼寝をしたり、夕飯の仕込みをしたり、効率よくワークバランスをとることも可能になるのです。
では、実際に「フリーランスとして働いてみたい」「この会社以外で働いてみたい」となった場合、その選択は実現可能なのか、労働人材市場の観点から見てみましょう。
かつて「転職は38歳が限界」が定説の時代がありました。「フリーランスになる」「業務委託で仕事を受ける」場合も、「30代が旬、40代はギリギリ、50代は論外」が通説の時代もあったのです。
しかし、ここ10年間で、そうした転職・フリーランスマーケットに変化が現れました。30代、40代はおろか、「50代のフリーランス」と業務委託契約を結ぶ企業が、右肩上がりで増加しているのです。
背景にはいくつかの理由が隠れています。
①人手不足
どこの企業も優秀な人材が不足気味です。優秀なフリーランス人材は多様な業界で引く手あまたです。
②社会の価値観の変化
「フリーランス」=「会社で働けない人」という固定観念が薄れ、優秀なフリーランス人材の価値を、企業も認め始めています。
③フリーランス人材の増加
「フリーランス」としての働き方を選択する人が増えていることで、フリーランスマーケットが形成され始めています。
2000年頃は就職氷河期と呼ばれ、バブルがはじけて経済は不況でした。ならば「どうせなら好きなことを仕事にしたい」と、フリーターとして生きる人や派遣の道を選ぶ人も、この頃から急増しました。
「会社という組織」に頼らず、独立独歩の道を歩むことが、初めて世間に認知された世代かもしれません。
もちろんその反面で、派遣制度には課題点も多く、生涯契約社員という立場から抜け出せなかったり、リスキリングの機会を得られなかったり、派遣の雇い止め問題が発生したりなど、社会的課題も生まれました。
また、この時期は大学時代にパソコンが普及し、卒業と同時にPCを活用した仕事がメインとなりました。
子どもの頃にはなかったデジタルデバイスの扱いも、就職に必須となれば必死で覚えます。コロナ禍での半ば強制的なオンライン業務でも、比較的スムーズに移行できたのは、この世代以降なのではないでしょうか。
一方、これより少し上、現在50代後半から60代の若かりし頃を振り返ると、バブル経済の真っ盛りでした。どこの企業も羽振りがよく、「組織に属して働く」ことが最大のメリットだった時代です。
さらに現在の70代は高度経済成長期に会社人生を歩んできた世代です。終身雇用が当たり前の価値観を持ち、組織に属することで生活の基盤を築き、年々給料やボーナスが上昇していくのを実感できた世代でもあります。
サラリーマンとして働くことで、マイホームやマイカーも持てた彼らにとって、「組織で働くこと」=「人生が豊かになること」は不可分だったと言えるでしょう。
こうして振り返ると、「転職・フリーランスマーケット」での年齢の壁が、現在50代前半あたりであることもうなずけます。
「企業に頼らず生きる」「フリーで働く」ことに価値を見出し、かつ仕事で必須のデジタル知識も持つ世代。これが現在の50代半ばより下の世代であるからです。
ただ、この年齢の壁は、今後徐々に上がっていくはずです。
仕事に不可欠なデジタルスキルを持ち、かつ知識のアップデートを怠らず、多様な働き方に対応できる柔軟な思考力を持ち続ければ、副業・転職・起業・独立・フリーランス・業務委託のいずれにおいても働いていくことは可能なのです。
また、そういう社会をみんなで目指していくべきだと、改めて思っています。