活況を呈している転職者市場。転職者の待遇面に異変が起きています。
受け入れる企業はこれまでは既存社員との給与を調整するため、同世代社員の平均的給与か『中の下』からスタートするのが一般的でした。
ところが近年は、既存社員より破格の待遇で転職する人が増えています。
DODAの「転職求人倍率レポート」によると、2023年1月の求人倍率は2.34倍。求人数は2020年9月から29カ月連続で増加し、過去最高値を更新しています。
転職希望者数も2021年12月以降、増加基調にあり、転職意欲も高まっています。
企業の中途採用意欲も高く、日立製作所の2024年度の中途採用は、大卒・大学院生の新卒600人と同数の採用を計画していると報じられています。
これは前年の中途採用数を100人上回ります。
ある大手食品業も中途を積極的に採用し、10年前は生え抜きの社員が圧倒的に多かったのですが、今では中途採用者が2~3割を占めるようになっているようです。
しかも若手に限らず、35歳以上、40歳前後のミドルもけっこう採用しています。
昔は大企業から中小企業に転職する人が多かったですが、今では大企業から大企業への転職もごく普通の光景になっています。
実際にミドルの転職も増加し、日本人材紹介事業協会の「人材紹介大手3社転職紹介実績の集計結果」によると、全年齢に占める41歳以上の割合は2009年度6%にすぎませんでしたが、22年度上半期は15%にまで上昇しています。
ミドル・シニア世代も含めて、年齢に関係なく転職できるようになったことは喜ばしいことですが、必ずしも前職よりも年収が上がるわけではありません。
厚生労働省の2021年「雇用動向調査結果」によると、賃金が増加した人は34.6%にすぎず、むしろ下がった人は35.2%、変わらない人も29.0%もいます。
多くの人が、下がるか現状維持にとどまっており、転職者を受け入れる企業は既存の社員との給与を調整する必要があり、同世代社員の平均的給与ないしは「中の下」あたりからスタートするのが一般的です。
しかし、近年は既存社員より破格の待遇で転職する人が徐々に増えています。
ある大手建設業では、社内の人間が持っていないスキル、あるいは持っている社員が少ないスキルの持ち主を特別枠で募集しているようです。
一般の求人広告や転職サイトでも募集しても、その多くは建築や営業などの補充要員です。
特別枠の募集職種の典型はDX人材で、スキルレベルで給与を決めており、場合によっては同世代の年収を大きく超えることもあるようです。
特にIT人材はそれほど経験がなくても1000万円以上を要求してくることもあります。
実際に30代でも1000万円超の年収を払い、迎え入れているケースもあるといいます。
しかし、年収1000万円は同社の課長クラスの年収に相当し、既存社員との整合性は、給与規程の中に入れるのではなく、入社1年目は年俸制社員として1000万円超を支払うそうです。
また、1年間働いてもらい、2年目で期待する成果を発揮しているかを評価し、課長になってもらうことを事前に内諾を得て入社してもらうようです。
とはいっても30代半ばで年収1200万円というのは在籍社員の年収を大きく上回ります。
既存の社員の嫉妬や妬みなど社員間でハレーションの発生の有無については、新規のプロジェクトの部署に配置するなど、既存の部署で働くことはないのでハレーションが起こることはないとのことです。
従来の年功賃金を廃止し、いわゆるジョブ型の賃金に変えたので、その会社にいないスキルを持っていれば、年齢に関係なく高い給与で処遇することができるようになりました。
例えばDX人材は課長や部長並みの給与で迎え入れています。
実際に破格の待遇で迎え入れている企業について、他の社員と違う支払い方をしている特別採用枠を設けている企業はそれほど多くありませんが、現行の給与制度の枠内で高い等級の給与を出すところもあれば、給与の高い役職で迎え入れるケースはよくあります。
あるいは外資系企業のようにジョブ型の仕組みを導入している企業は特別枠を設けなくても、高いスキルを持っていれば、高いポジションに位置づけて多く支払っているケースもあります。
それでも普通のメーカーで30代前半に年収1000万円を出すとなると、うらやむ社員も出てくるかもしれません。
工夫の一つとして会社や職場を分けているところもあり、新規事業や戦略的な子会社をつくり、高い給与の社員を集めます。
あるいは社内に別の部署をつくり、お互いに顔を合わせない場所で仕事をするようにしている企業もよくあるようです。
では好待遇で迎え入れる社員はどんなスキルの持ち主かというと、IT・デジタル人材です。
普通の人は400万~1500万円、高い人は2000万~2500万円。普通の人というのは特にマネジメントを行っているわけでもなく、著しく希少な人材というわけでもない人で、けっこうな額で転職していくことがこの業界の転職市場の特徴です。
あるいは大規模なシステム開発のプロジェクトマネージャーができる人は2000万円台でも全然珍しくありません。
一般的な大手メーカーの場合、35歳の非管理職だと年収600万円程度が相場です。
また、課長で800万~900万円、部長で1000万円超になります。
まさに部長並みの待遇で転職することになります。
IT系やデジタル人材以外の職種では、旧来型の個人向けの営業職は経験者が多く、手数料が発生する人材紹介会社経由での採用は少ないです。
雇っても実際に売れるのかわからないところもあり、一人ひとりにお金をかけるより、とりあえず採用して売れる人を残そうという発想が大きいのです。
ただし、同じ営業系でもメールやWeb会議ツールを使って非対面の営業を行うインサイドセールス、ネット上で商品を販売するデジタルマーケティング、クラウド上のソフトをネット経由で利用するSaaSの営業は別格です。
年収相場は
・インサイドセールス 400万~900万円
・デジタルマーケティング 600万~1200万円、高い人は1500万~2000万円
・SaaSの営業 800万~1500万円
インサイドセールスができる人は、これまで待遇が良くなかった人が転職すると、若手でも年収が一気に200万円アップしたという話があります。
デジタルマーケティングの経験者になぜ高い金額を払えるかといえば、従来は紙媒体など昔ながらの広告を出稿しても売り上げとの関係は間接的にしか把握できませんでした。
デジタルマーケティングは、クリック数がどれだけあり、売り上げなどの成果が明確にわかり、高い金額を払っても見合います。
営業系に限らず、新エネルギーの開発に着手しる会社では、風力発電や太陽光発電の経験者を積極的に採用し、転職者をいきなり、課長や部長に抜擢するケースもあります。
以前は転職しても生え抜きのプロパー社員と比べて昇進・昇格するのは不利と言われたので、時代は確実に変化していることがわかります。
一般の求人募集で非管理職の担当者レベルで中途採用された人は、プロパーの社員と出世競争をすることになりますが、著しい成果を出すなど、よほどのパワーがないと出世をするのは難しいのが現実です。
それに対して今の会社にとって希少価値のスキルを持つ人は、同じ年代でも最初から“課長含み”でくるので出世も早いのです。
中途採用者の2割は高い処遇と役職が約束されて入ってきます。40歳で“部長含み”で来た人もいますが、将来は役員も夢ではないようです。
同じ転職者でも給与が下がる人もいる反面、高い報酬と役職も約束される人もおり、転職の二極化傾向が拡大しています。