今回の円安の原因を、専門家もメディアも日米の金利差に求めていますが、その真因は、日本の国力の長期衰退にあります。
これが続く限り、日本は量的緩和を止められません。
もし緩和を止めれば、金利が跳ね上がり、日銀は債務超過に陥り、国家財政は逼迫して予算が組めなくなります。
国債を際限なく発行するということは、おカネをいくらでも刷り続けるということなので、マネーストックは膨張し続け、おカネが市場に溢れ、インフレが亢進します。
インフレ亢進に歯止めが利かなくなると、物価が短期間で倍々になるハイパーインフレになります。
このように、現在の円安とインフレを招いたのは、国力の衰退を国債の大量発行で埋め合わせようとしたことです。
たしかに、ウクライナ戦争などの影響により、エネルギー価格や農産物価格が上がり、それに円安が拍車をかけたのは事実です。しかし、仮に円安がなかったとしても、インフレは起こったでしょう。
コロナ禍前まで、デフレが続いてきたのは、緩和マネーがあまり市場に出ず、日銀内の当座預金にブタ積みされてきたからです。
日銀はこれに0.1%の不利を付けているので、インフレは抑えられ、デフレが続いてきたのです。
しかし、コロナ禍で世界各国が、膨大な財政出動を行い、その財源のほとんどは、日本と同じように国債発行でまかなわれました。
日本の場合は、2020年度、2021年度に補正予算を含めてそれぞれ175兆円、142兆円という巨額の財政支出が行われました。
そのなかには、全国民を対象とした総額約12兆9000億円の特別定額給付金がありましたが、休業補償、雇用調整助成金などの不正受給などの問題もあぶりだされています。
アメリカの場合は、納税額制限が設けられ、大半の国民がこれまで3回の現金給付を受けました。1回目は1人最大1200ドル、2回目は同600ドル、3回目は同1400ドルで、計 3200ドル(約46万円)です。
これらのマネーとこれまでの緩和マネーが合わさって、コロナ禍が終息し始めると、記録的なインフレが起きたのです。
この国民生活を圧迫するインフレを止めるため、FRBは量的緩和を手仕舞いし、景気悪化の懸念はあっても、断固として利上げを継続しています。
とはいえ、インフレは物価が上がるので、それが何%であろうと、税金を払っているのと同じことになります。
インフレとは通貨の価値が下がることと同義なので、インフレが起こると借金を持っている人間はトクをします。つまり、膨大な借金を抱えた政府は、インフレにより債務を軽減させることができます。
政府債務は、そのほとんどが国債を発行して民間から調達したものです。つまり、インフレになると、貸し手である民間から政府に購買力が移転します。
そのため、「税」を付けて、インフレによる負担を俗に「インフレ税」と呼んでいます。
じつは、日本のような巨額の財政赤字を抱える政府にとって、インフレは恵みの雨で、金利を押さえ込んだまま、インフレが亢進すれば、国債の利払い費の価値は実質低下すします。
これまで抱え込んだ債務も軽減され、物価上昇によって自動的に税収も増加します。
しかし、インフレ税を払うのは国民なので、政府は助かっても、国民は助かりません。
インフレ率と同じに賃金が上がらなければ、多くの国民の生活は成り立たなくなります。
現在の日本の状況はまさにこれで、スタグフレーションが日々刻々進んでいます。
今後、生活必需品の値上げラッシュが続けば、国民生活はますます苦しくなっていくでしょう。
インフレ率が高いほどインフレ税も増え、もしハイパーインフレなどということになれば、もはや暮らしは成り立たず、経済は破綻します。
インフレ税は、実際の税金とは異なり、誰一人として逃れることができない「見えない税金」です。
実際の税金のように、所得が増えるにつれて税率も上昇する「累進性」などないので、低所得層ほど負担がより重くなる「逆進性」を持っています。
「見えない税金」と言われるだけに、インフレ税は国民に税を取られている意識を持たせないのです。
また、メディアも識者も、このような面からインフレを論じることはほとんどない。メディアは、物価が上がって大変だと騒ぎ、生活防衛を訴えるだけです。
コロナ禍後の現在は2020年の主要先進国の政府債務の名目GDP比は127%で、第2次世界大戦後の1946年の126%を上回っています。
現在、アメリカ経済はコロナ禍後の需要復活で景気は上向いてはいるものの、それほどでもない。日本は、いまだコロナ規制を引きずり、インフレによる個人消費の落ち込みもあって、完全に低迷しています。
インフレによる通貨価値の低下は、国民の購買力が弱まることを意味し、消費が落ち込むなかで、インフレがさらに進むと、ハイパーインフレの恐れが出てきます。
現在の日本の政府債務残高(2021年)の対GDP比は263%で、ベネズエラに次いで世界第2位です。200%を超える水準は、第2次世界大戦の末期と同じです。
すでにベネズエラは経済破綻しています。
終戦後、ハイパーインフレが起き、戦時に発行された国債は紙切れになりました。そうして行われたのが、「預金封鎖」「新円切替」「財産税」という3点セットによる国民財産の没収でした。
この政策を岸田政権は「新しい資本主義」という名のもとに突き進めていこうとしています。
インフレが度を超えてハイパーインフレになってしまえば、ほとんどの国民は困窮化します。
インフレ税からは誰も逃れられず、富裕層も低所得層も実質的に負担させられます。
しかし、低所得層の負担を減らし、富裕層から財産を取り上げるという政府債務の圧縮方法もあります。
それが、「財産税」です。日本で第2次世界大戦後に行われた財産税は、「預金封鎖」「新円切替」と同時に実施され、最高税率は90%(財産額1500万円超)でした。
現在の日本人の個々の財産状況で、このような最高課税を課すのは無理があるので、予想としては、財産額4000万円以上の層から段階的に課税するのが妥当ではないかと考えられます。実際、こうした案は一部で検討されています。
たとえば財産税の課税率が100億円超で40%なら、40億円の没収です。これはかなりの負担ですが、ハイパーインフレよりはマシです。
なぜなら、もし100倍のハイパーインフレになれば、100億円は実質的に1億円の価値にしかならなくなってしまうからです。これに対して財産税40%なら、40億円を納めて60億円は手元に残ります。
つまり、富裕層にとっても、もちろん、一般層、低所得層にとっても、ハイパーインフレよりは財産税のほうがマシです。
よって、ハイパーインフレの兆しが顕在化したとき、政府は財産税を課してくる可能性があります。ただし、それによってインフレが止まるかどうかはわかりません。
現在、政府が恐れる投機筋だけが、円売りをやっているわけではなく、日本人自身が円を売っており、「ドル転」による「資産フライト」を進めています。
いずれにしても、インフレを放置すればするほど、政府は助かるのです。