心臓疾患を患っても生き延びる人と生き延びられない人がいるのかを突き止めるため、心筋梗塞、不整脈、心不全の患者や心臓弁に損傷を負った1300人に対し、「孤独を感じてはいないか」や「必要な時に話せる相手がいるか」という調査が行われました。
2年後に被験者のその後を調べたところ、大量の喫煙と飲酒をしていた患者は死亡するリスクが高かったのですが、孤独を感じていた人たちについても同様でした。
心臓疾患の種類にかかわらず、孤独な人が死亡するリスクは倍近くも高かったのです。
「禁煙して運動したほうがいい」とか「ジャンクフードは減らしたほうがいい」と言ってくれる人がいないのかもしれません。
研究者たちはそこで、運動、喫煙、食生活という要素を省いて再計算したら、それでも孤独は寿命を縮める要因として残ったそうです。
つまり孤独自体が危険だということがわかったのです。
同じような陰鬱なパターンが3000人近い乳癌の女性にも見られました。孤独を感じていて社会的に孤立している人は癌で死亡する確率が高かったのです。
計30万人を対象にした148件の研究をまとめると、脳卒中や心筋梗塞で死ぬリスクにおいて、友人の存在や社会的サポートは明らかな防御要因となっていて、つまりよく言われる手堅い助言、「禁煙」や「定期的な運動」と同じレベルで寄与していることがわかりました。
孤独は喫煙と比較になるくらい、西洋で最も多い死因(心筋梗塞)と4番目に多い死因(脳卒中)で死ぬリスクを高めるのです。
孤独は1日に15本タバコを吸うくらいに危険だという結論を出している研究者もいます。
脳は多数の神経を通じて身体の各器官を制御しています。その大部分はコントロール不可能なものです。
普段、自分の心臓や腸、肝臓にどのように働いてもらおうかなどと考えません。
意識せずとも動く神経系には2種類あり、交感神経と副交感神経がそれにあたります。
交感神経は「闘争か逃走か」に関わっていて、あなたが恐怖を感じたり、腹を立てたり、神経がたかぶったりすると起動し、心拍数と血圧を上げ、血液を筋肉に送って行動を起こさせます。
もう1つが副交感神経で、消化や心の落ち着きに関係しています。副交感神経は、ゆっくりと息を吐き出すことでも起動させられます。
この副交感神経は心拍数を下げ、血液を胃腸に送って食べ物を消化できるようにします。
自律神経は2種類とも、今この瞬間もあなたの体内で活動していて、どちらが優位かは常に変わっていきます。
バスまで走ったり、重要なプレゼンの前に緊張している時は交感神経が優位になり、プレゼンが終わってのんびりランチを食べている最中は副交感神経が優位になっています。
孤独でいると副交感神経が活発になるだろうと思いがちです。
心を落ち着けられる時間があるのだし、闘ったり逃げたりしなければいけない相手もいません。
しかし不思議なことにまったく逆で、孤独は交感神経を活発にするのです。
これは孤独に関して一見矛盾したように思える発見の1つにすぎません。
他にも、孤独な時は周りや他人に脅かされているように感じるということがわかっています。
他人の表情に神経質になり、普段とは違った解釈をするようになるのです。
無感情な顔は少し恐ろしく見え、少し恐ろしい顔は非常に恐ろしく感じます。
脳は他人が自分に対して否定的であるという兆候に非常に敏感で、周囲にいる人たちのことを競争心が強く非協力的だと解釈します。
すると、知人が知らない人のように思えてきます。
孤独だと世界全体が脅かしてくるように、自分は歓迎されていないように感じられるのです。
孤独がうつのリスクを高め、うつと孤独がどれほど密接に関係しているかはあまり知られていません。
調査によれば、うつの人が孤独を感じている確率は10倍でした。
集団は生存を意味し、社会的な絆を大切にしたいという強い欲求をもっていれば命をつないでいける確率が高いのです。
脳はつまり集団に属すと幸福感という報酬を与えてくれますが、それはまったく自己中心的な理由によるもので、集団でいれば自分の命を守れる可能性が高いからというだけです。
つまり孤独によって感じる不快さは、脳が自分に「社交欲求を満たせ」と語りかけてきているのです。自分は脳にとっては死ぬリスクの高まった状態にいます。
何しろ人間の歴史のほとんどの間、孤独は死を意味してきたのです。
そう考えると、なぜ孤独が「消化や心の落ち着き」ではなく、「闘争か逃走か」につながっていることがわかります。
独りでいると、脳はこれが誰にも助けてもらえない状態だと解釈し、危険に対して警戒しておかなくてはと考えます。
すると身体は軽度ではありますが長期的なストレスを抱えたままいつでも警報を鳴らせる状態、つまり交感神経が優位な状態で暮らし続けることになります。
長期的なストレスは血圧を上昇させ、炎症の度合いを上げます。孤独のせいで例えば心血管疾患の患者の予後が悪くなるというわけです。また、社会的な孤立は認知症にかかる要因にもなっています。
孤独はつまり脳に警戒態勢の段階を引き上げさせ、周囲には脅威が溢れていると感じさせます。
他の人が自分に敵対心を抱いていると勘違いして社交生活が楽になることはありません。
むしろ無礼で傲慢な人だと思われてしまうリスクがあります。
それに他人を否定的に解釈していると長期的な孤立にもつながります。
最後には負のスパイラルにはまり、なおさら引きこもるようになり、ますます周囲が否定的に見えてきます。
長く孤独でいると睡眠も途切れがちになります。睡眠時間が短くなるわけではありませんが、眠りが浅くなり、目が覚める回数も増えます。
誰も横で寝返りを打ったりしていないのに、独りで眠る人のほうが深い眠りが短くなるのです。
これは動物の本能で、独りで寝ている人は危険が近づいても誰にも教えてもらえないので、深く眠りすぎず、すぐ目が覚めることが重要だったのです。