転職によるキャリアアップが当たり前になった昨今です。
一方で、ひとつの会社に定年まで勤め上がる会社員の姿も見られます。
ただ以前は当たり前だったスタイルも、いまはリスクのある働き方だと言わざるを得ない状況です。
総務省『平成29年就業構造基本調査』によると、定年退職を迎えた男性会社員は138万4,300人です。
定年年齢は会社によって異なりますが、60代前半で定年になったのは55万0,900人、60代後半で定年になったのは57万1,100人です。
多くのサラリーマンが60代で定年を迎えています。 定年年齢については、高年齢者雇用安定法の8条で「事業主がその雇用する労働者の定年の定めをする場合には、60歳を下回ることができない」とされています。
また高年齢者雇用確保措置として65歳未満の定年制を定めている企業は、65歳までの安定した雇用を確保するために
(1)65歳までの定年の引上げ
(2)定年の定めの廃止
(3)65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度等)の導入
のいずれかの措置を実施することが義務付けられています。
継続雇用制度は65歳未満の定年を定めた場合に、その定年後に本人の希望があれば引き続き雇用するものです。
継続雇用制度は、労使協定により制度の適用対象者の基準を設けていれば、本人が希望する場合であっても、その基準に達しない者の継続雇用を行わないことが、2013年3月31日まで可能でした。
現在経過措置がとられ、基準を適用できる年齢が段階的に引き上げられている最中で、2025年3月31日までは64歳以上の人に基準が適用できるとされています。
つまり、64歳未満は希望者全員を継続雇用しなければなりませんが、64歳以上は労使協定の基準に適合する人に継続雇用は限定することができます。
さらに2021年4月には「70歳までの就業確保」の努力義務が始まりました。
着々と高齢者でも働ける土台は整いつつあります。
一方で日本特有の雇用制度である終身雇用は崩れつつあり、転職も珍しいものではなくなりました。
しかし上の世代になるほど「ひとつの会社を勤めあげる=定年までひとつの会社で働き続ける」ことを美徳とするような意識が根強く残っているのも事実です。
どこか転職は後ろめたいと思ってしまうのは、そのような意識が日本人に沁みついているからでしょう。
頑張って定年まで勤めあげること、それは確かに、ひとつの会社で働き続けることは忍耐が必要なことですし、素晴らしいことです。
しかし、いまやひとつの会社にこだわることはリスクといえる状況です。
国税庁『民間給与実態統計調査』によると、日本人の平均給与は433万円。男性に限ると532万2,000円です。
戦後、日本のサラリーマンの給与は右肩上がりでしたが、バブル崩壊後の1993年、初めて給与減を経験しました。
その後、低成長ながらも前年比プラスが続くも、再び1998年に給与減を記録しています。
以降2020年までの23年間、給与減となったのは14年です。
日本のサラリーマンは、すっかり給与が減ることに慣れ切ってしまいました。
さらに同調査で定年退職者も多く含まれているだろう、「勤続35年以上」の男性会社員の平均給与に注目してみると、2020年の平均給与は651万4,000円です。
「勤続20~24年」で663万6,000円、「勤続25~29年」で725万1,000円、「勤続30~34年」で743万1,000円とピークを迎え、「勤続35年以上」では給与はダウンします。
定年前に役職定年を取り入れる企業も多く、そのため勤続年数が長いにも関わらず、給与減となると考えられます。
とはいえ35年以上もひとつの会社に居続けるのは、立派です。そんな「勤続35年以上」の平均給与、ピークは1998年で807万8,000円です。
以降は、年によって上下はあるものの右肩下がりで、現在は当時の7割を下回る給与となっています。
さらに厚生労働省『就労条件総合調査』によると、退職金はこの20年で1,000万円近くも減少しています。
【平均退職金の推移】 1998年:2,871万円、2003年:2,499万円、2008年:2,323万円、2013年:1,941万円、2018年:1,788万円(出所:厚生労働省『就労条件総合調査』)
長い間、会社のために頑張ってきたのに、給与ばかりか退職金までも減額の一途です。
今の日本は「ひとつの会社で働き続けることは良いこと」とはとても言える状況ではなく、むしろ「ひとつの会社に働き続けることはリスク」と言える状況なのです。
徐々に人材の流動化が進んでおり、給与を上げるための転職が当たり前になっています。その流れに取り残される人たちは、明るい未来を描けなくなっています。