高度成長期に、会社員は安定した身分で幸せの象徴とされていました。
会社と社員との間に共通してあったのが「今よりもいい暮らしをしたい」という願いです。
当時の日本企業の繁栄は、社員との心理的契約によって支えられていました。
終身雇用に代表される人事制度と、社員の「会社のため」という組織へのコミットメントがかけ合わされた結果、「働きがい」という共通の目標が生まれ、心理的契約が成立していたのです。
こうした会社と社員との関係を一変させたのが、バブル経済の崩壊です。
会社は、文化も習慣も成り立ちも違うアメリカ型経営を導入し、成果主義とリストラでコストを削減しました。
これは、会社からの心理的契約の一方的な放棄に等しいのです。こうして雇用のパラダイム・シフトが起きたということです。
そして今、非正規雇用者を雇い止めし、正社員の希望退職の年齢を下げ、募集人数を拡大させています。黒字リストラが広がり、45歳定年制もにわかに現実味をおびてきています。
まさに「会社員崩壊」の瀬戸際です。にもかかわらず、能力主義社会を勝ち抜いてきたエリート会社員の多くが、このパラダイム・シフトから目を背けています。
多くの会社員の足元が崩れ始めている中、家族との関わり、職場における人と人との温もりのある関わり、地域社会で共に暮らす人々と良好な関係を構築できれば、大きな壁にぶつかっても、それを乗り越えやすくなります。
これらの関係性は、効率や利益がいっさい関係ない無駄なことに価値があるゆるいつながりです。ゆるいつながりは利己ではなく利他によるもので、そこには誠実さや優しさ、思いやりといった感情が存在します。
基本は、おはよう、ありがとう、ごめんなさいといった言葉を元気よく声にすることで多くの人とゆるくつながることができます。
しかし、階層意識の強い組織で長年過ごしていると、目上から挨拶をすることに抵抗が生じます。こうした思考がゆるいつながりを遠ざけています。
すると人は次第に孤独にさいなまれていくことになります。健康社会学では、どんな時代や環境に生きようとも、人には幸せを作り出し、前を向いて歩いていく力があることが明らかになっています。
人生の危機でこそ強化されるポジティブな思考です。そしてその中核にあるのが、困難やストレスに遭遇したときに、それを正確に把握し、うまく乗り越えるための有効な道筋を見極める感覚です。
心理的ウェルビーイングが高い人は、困難や危機にうまく対処できます。
また、そうした環境下でも成長し、精神的にも肉体的にも社会的にも、健康で幸せな人生を歩むことができます。
(1)自己受容=自分と共存する
(2)人格的成長=自分の可能性を信じる
(3)自律性=自分の行動や考え方を自己決定できる
(4)人生の目的=どんな人生を送りたいかはっきりしている
(5)環境制御力=どんな環境でもやっていけるという確信
(6)積極的な他者関係=温かく信頼できる人間関係を築いているという確信
6つの思考のなかでもっとも大切で難しいのが「自己受容」です。これは、自分と対話しながら、自分の弱さ、不甲斐なさと正面から向き合い、共存しようとする態度、過程を意味します。
具体的には、私はこういう人間なのだから、とりあえず折り合いをつけて付き合っていこうと、上手にあきらめることです。これは「今のままでいい」という意味ではなく、能動的に受け入れる意思や態度という意味が含まれています。
40代以上で自己受容ができている人の多くは、厳しい状況をなんとか乗り切った経験をしています。
左遷が独立を決断するチャンスになった、また病気をしたことで家族の絆が深まったと、危機をバネにして人間としての成長を遂げています。
自己受容とは自分の不完全さを受け入れることと他人にも完璧を求めなくなることです。つまり、自己受容は他者の受容も促します。
そうした姿勢は、周囲との良好な関係を育むため、他者からいっそう受け入れられるようになる。
幸せへの思考は「人格的成長」です。
これは、成長し続けている感覚がある状態を意味します。そのエンジンになるのが「自分に内在する力への信頼」です。目指すのは人格の成熟です。
人格の成熟には、他者との関わりが欠かせませんし、社会的役割をきちんと演じなくてはなりません。
6つの思考は30代、40代前半のうちから意識しておくことで、幸せを引き寄せる力を高められるはずです。