世界がグローバルにつながったことで、さまざまな危機が頻繁に起きるようになってきています。
2020年には、新型コロナウイルスが世界中に伝播し、それが収まらないうちに、資源高、エネルギー価格の高騰、穀物高などで、インフレに火がつきました。
こうした予測不可能な状況下で、株価も為替も債券も、乱高下しています。
ただ、こうした中でも価値を保っているのが現金です。
日本は1991年のバブル崩壊からずっとデフレという状況が続いてきました。そして、デフレの中で価値が相対的に上がっていたのが「現金」なのです。
コロナ禍で、日本の貯蓄率が急激に上がっています。
2020年の貯蓄額は、前年の5倍の35.8兆円にも達しました。一律に配られた10万円も、消費には回らずに貯蓄に回ったようです。
なかでも、世帯主が65歳以上の世帯の貯蓄率は高く、平均が2324万円で、なんと2500万円以上の世帯が3分の1となっています。
これは、至って正常な動きだったと言えます。
なぜなら、不安定な経済状況の中で、現金の価値が上がっていたからです。
現在、食料品やエネルギー価格が上がって、世界的に「インフレ」と言われていますが、インフレになったら上がっていくはずの給料が、日本ではまったく上がっていない状況です。
給料が上がっていないだけでなく、この給料に連動して決まる公的年金の支給額が2021年度は0.1%のマイナスとなり、2022年度も0.4%のマイナスとなりました。
年金の額は、3年間の給料の平均で決まるので、来年度の年金額も下がることでしょう。
これまで日本は、給料も下がれば物価も下がるというデフレという状況でしたが、この先は、給料が上がらない不況の中で物価だけが上がっていくスタグフレーションという状況に陥っていく可能性があります。
こうした中では、投資環境も不安定になっていく危険性もあります。
だとしたら、それほど余裕がない普通の家庭では、いざという時のために、住宅ローンなどの借金があるなら返し、なるべく多く現金を持っておくことです。
新しい資本主義で1億総株主も良いですが、「投資」をする前に、考えなくてはいけないことがあります。それは、住宅ローンなどの「借金」がないかということです。
コロナ禍で、多くの人が生活の不安を感じているはずです。この不安を払拭するためには、投資でお金を増やそうと考える前に、住宅ローンなどの借金を減らすことを考えるべきです。
今、多くの人が、住宅ローンを35年で組んでいます。しかも、2021年には、融資期間40年という住宅ローンも出てきました。
35年返済の場合、35歳で借りれば返済が終わるのは70歳。40年返済なら、75歳になります。
現在、年金支給年齢は65歳からですから、年金生活の中で住宅ローンを払っていく場合、夫婦2人で20万円程度の年金の中から10万円の住宅ローンを払ってしまっては、生活できません。
退職金で住宅ローンの残債を返そうとする場合も、老後に使える退職金が減ってしまって老後が不安になります。
住宅ローンは、少なくとも年金生活になる前に払い終えておくべきです。 そのためには、「繰上げ返済」で、残りのローンの期間を短縮することが必須です。
もし住宅ローンが残っているなら、投資などには使わずに、住宅ローンの「繰上げ返済」をしたほうがよいです。
たとえば、10年前に、金利1.5%、35年返済で3000万円を借りた人が、今、100万円を繰上げ返済に回すとします。
そうすると、約44万円の利息を支払わなくてもよくなります。
住宅ローンの繰上げ返済には、期間を短縮する方法と返済額を減らす方法がありますが、約44万円の利息を支払わなくてよくなるのは、期間を短縮した場合です。
期間にすると、住宅ローンの返済が、予定よりも1年3カ月早く終わります。
今、100万円支払って、確実に44万円も儲かる投資などありません。ところが、住宅ローンの繰上げ返済なら、このケースでは100万円払うと144万円の返済するべきローンが消えるのです。
そもそも新築信仰の強い日本でマイホームを買うこと自体が投資機会を逃しているとも言えます。
余分のお金をたくさん持っているなら、投資を勧めます。
今のような先がわからない時こそ、大失敗することもありますが、大儲けできるチャンスもあるからです。
ただこれは、投資でお金を失っても、失敗に耐えることができる人の話です。
投資に必要なのは、潤沢な資金と時間と情報です。
たとえば、100万円で株を買って、値上がりすれば誰もが儲かりますが、値下がりして、仮に50万円になった時に、なけなしのお金で買った人はそれが100万円に戻るまで待ち続けないと損をしてしまいます。
けれど、50万円になった時にさらに100万円分買える人は、株価が70万円に戻れば儲けが出ます。
つまり、潤沢な資金がある人なら、儲かる確率も高いのです。
だから、給料が増えないなか、将来が不安で貯金を増やしているという人は、投資などしないほうがよいかもしれません。
儲かればいいですが、それでなけなしの貯金を失ってしまったら、スタグフレーションの中ではなかなかそれを取り戻すことができないからです。