誰でもリスクを取るよりも、安定した人生を歩みたいと思うものです。
しかし、そのリスク回避思考が、自分の給与を上げる妨げとなっている可能性もあります。その最たるものが保険であり、終身雇用という人生の保険に知らぬうちに加入していることに、気が付いていない人が多いのです。
安定を重視する保険思考的な発想のデメリットは、
「投資はしたいが、元本が減ったら嫌だ」
「もしもの時には優先的にお金が返ってきたほうがいい」
「会社の業績が悪化しても変わらず給料がもらえるほうがいい」など考える守りの姿勢です。
人間なら誰しも持っている将来への不安で、その不安を解消するビジネスが「保険」です。
生命保険は死の恐怖を解消し、損害保険が事故の不安を解消するのと同じく、今見てきた「保険」はお金の不安を解消します。
ただ、「保険」といっても、安心のための保証料と言い換えてもいいです。リスク回避的な行動をする人はこの「保険」に簡単に食いついてしまうのです。
例えば、その究極にあるのが普通預金で、現在、金利はほぼゼロです。現金で置いておくのと全く変わらないのに、2021年末現在、585兆円もの資金が普通預金(日銀資金循環統計では「流動性預金」に分類)として眠ってます。
もちろん、世の中がデフレであるなら、金利がゼロでも実質的に預金は増えていることになります。
現在はインフレ傾向で普通預金に預けておく経済合理性はないように思えますが、やはり将来が不安なのでしょう。
物価上昇の分だけ預金が目減りしても、それは「保険」を掛けたコストとして許容しているのかもしれません。
ちなみに、日本人の保険好きは異常です。公益財団法人生命保険文化センターの調べによると、2021年度の生命保険の世帯加入率は89.8%(約9割)に達しているとのことです。
さらに、国民皆保険で公的な高額医療養費助成制度があるにもかかわらず、医療保険がバカ売れしています。同センターの調べで世帯加入率は93.6%に上ります。
年間の払込保険料は平均で37.1万円です。実際にこれは国際的に見ても極めて高い水準と言えます。
各家庭が加入している生命保険のほとんどが、死亡があれば遺族に保険金が支払われるという形の死亡保険であることや、各人が保険会社との間で契約を取り交わした形の個人契約がほとんどであることです。
これに対し、米国の生命保険(個人年金は含まない)世帯普及率は78%です。個人契約だけに限った場合の普及率は50%であり、団体生命保険への加入が全体としての普及率を底上げしています。
英国の世帯普及率はさらに低く、約40%です。しかも英国の場合には、生命保険は死亡保険というよりも、貯蓄・投資商品としての色合いが濃いです。
日本人は元本保証も大好きですし、株よりも債券大好きとなるのは当然です。
そして、これを働き方に置き換えれば、ハイリスク、ハイリターンな非正規雇用より、安定確実な終身雇用、正社員を好むのもまた当然と言えます。
一昔前は起業する人間は日本では頭がおかしい人間だと思われていたのかもしれません。
ただ、問題はその「保険」には相応のコストがかかっているのに、それを提供する側があたかもノーコストであるかのように偽装している点です。
働いている側は終身雇用を保証する会社に就職した時点で「保険」に入っていたことを知らないのです。
終身雇用を維持するためには、軽々に給料を上げられません。売上が仮に2倍になっても、給料は上がりません。
それは「保険」料として徴収され、いざという時にあなたの雇用を保証するからです。
給料を上げたいならリスクを取るしかないわけです。終身雇用という安定雇用「保険」のおかげでクビにならずに勤め続けられているわけです。
正社員として雇用されているにもかかわらず、「この20年間給料が全然上がらない」とか文句を言っている人がいるそうですが、それは終身雇用だからそうなっているのかもしれません。
今は昔と違って30-40代でも、まだまだリスクを取ってチャレンジできると思います。
起業する人に対する社会の目も優しくなりました。本当にうらやましい限りです。
いずれにしても決断は早いほうがいいでしょう。本当に給料が上がって欲しいと思うなら、元本変動のリスクを取るしかありません。厳しいようですがこれが経済の掟なのです。