長寿とそれに必要なタンパク質摂取の話です。なぜ、タンパク質が大切かというと、大部分タンパク質でできている筋肉が足りないと寝たきりになる可能性が非常に高いためです。
高齢者になっても筋肉を付けることが必要なのです。それにはどういう形でタンパク質を食べないといけないのか、その食べるタンパク質の話をします。
からだはいろいろなものでできています。水が半分以上を占めていて、その次に多いのがタンパク質です。その他には、脂肪や糖分もあります。栄養学では「たんぱく質」、医学では「蛋白質」を使うことが多く、厚生労働省では「たんぱく質」が使われています。
本当にどちらでもいい話ですが、専門用語にはこのようなものが多く、「筋線維」(医学)と「筋繊維」(理学)など用語が統一されていないことも多いのです。もちろん、狭い村社会同士の意地の張り合いのためです。カッコつけて「プロテイン」と英語読みするのは、筋肉をつけるための栄養剤メーカーが使っている呼び名です。
タンパク質は、からだを作る構成成分で、筋肉がその代表です。髪の毛、目、腱、皮膚、爪、骨などもタンパク質でできています。またこの他に、からだの中の化学反応をつかさどる酵素もタンパク質です。発酵食品で使われている「○○酵素」というのは、だいたいアミノ酸のことですから間違いないように。
タンパク質はアミノ酸が長く連なったものの名称です。別名ポリペプチドとも言います。アミノ酸の数が50個以下くらいのものを通常ペプチドと呼びます。数個から10個くらいの小さなものをオリゴペプチドと呼ぶ場合もあります。それらがバラバラになって1個1個になると、アミノ酸と呼ばれます。
そこで、タンパク質はどのように作られて分解されているか、ご紹介します。食べ物、例えば牛肉を食べたとします。牛肉のタンパク質は、消化管の中でいろいろな酵素によって消化されて、最後にアミノ酸になります。胃ではペプシンという酵素によって、その後、腸へ運ばれますと、すい臓から分泌されるトリプシンとかキモトリプシンという酵素によって分解されてだんだん小さくなっていき、最後に腸でペプチダーゼという酵素によりアミノ酸に変換されます。
作られたアミノ酸は小腸から吸収されて、栄養分として肝臓に蓄えられるのです。その後、各臓器に送られ、人間特有のタンパク質が作られます。同様に、魚や米の中にもタンパク質が入っています。これらのタンパク質は人間のからだの中で消化されて、いったんアミノ酸になります。
このアミノ酸から私たち人間のタンパク質が作り直されているために、何を食べても人間のからだができあがるのです。皆さんのからだは食べたタンパク質でできているので、皆さんのからだを丈夫にしたいと思うときには、ちゃんとしたタンパク質を食べなければいけないことが分かりますね。良質なタンパク質の摂取、これが非常に大事なことなのです。
ところが厚生労働省が数年前に、日本人のタンパク質摂取量には不安があると報告しました。特に、30歳から64歳の働き盛りの人の2割以上が、タンパク質の摂取に問題があるというのです。どういうことかというと、良質のタンパク質を食べていないというのが第一点。もう1つは、タンパク質の総摂取量が少ないという点です。
筋肉をずっと長い間、維持するためにはどうしたらいいかというと、皆さんの体重1キログラム当たり1グラムのタンパク質を食べなさい、と言われているのです。これは、大人も子どもも同じです。特に高齢者になったときに筋肉が減ってくるサルコペニアという症状が顕著になり、その後フレイル(虚弱)という状態になります。そうならないように、どうしたらいいのでしょうか。
日本サルコペニア・フレイル学会からは、1日、体重1キログラム当たり1グラムのタンパク質を食べなさいと言われているのですが、最近、この1.3倍くらい必要だとも言われているのです。つまり、体重1キログラムにつき1.3グラムのタンパク質を食べなさい、と。
肉は100gあたり10~20g、 魚は20g程度のタンパク質が含まれると覚えよう そうすると、皆さんが食べているものの中にタンパク質がどれくらい含まれているか、気になります。例えば、お昼におそばを食べるとします。
普通のざるそば1人分に15.9グラムのタンパク質が入っていると思ってください。そうすると、50キロの人は1日50グラムのタンパク質を食べなければいけませんから、ざるそば3杯ちょっと分のタンパク質を食べればいい、ということになります。
朝昼晩とざるそばを食べている人はいないと思うので、そうすると、ご飯やパンにタンパク質がどれくらい含まれているかが気になりますね。こういうふうに、タンパク質を計算する癖を付けておくことは非常に大切です。
例えば、昼にサンドイッチを食べるとします。サンドイッチの中にはハムが挟まっていたり、バターが入っていたりします。その中のタンパク質は、平均12.7グラムです。大体の数値を覚えておくといいですね。タンパク質が足りない場合は、缶詰が手っ取り早いのです。サバのみそ煮を食べなさいとか、よく言われます。
サバのみそ煮の缶詰には25グラムのタンパク質が入っています。昼間、ふかふかしたあんまんとか肉まんを食べると9.5グラムのタンパク質が摂れる、というふうにタンパク質の量を大体、覚えておきましょう。
朝急いでいて、ご飯に納豆をかけて食べる。納豆にも8グラムくらいのタンパク質が入っています。ご飯1杯は5グラムから10グラムの間くらいとすると、納豆ご飯、卵かけで結構な量のタンパク質が摂れることが分かります。ところが面倒だからと言って、朝ご飯を抜くとそれがゼロになってしまいます。やはりタンパク質は毎食摂るという習慣を付けておかないといけません。
もう一つ覚えていてほしいのは、肉や魚の中にどれくらい入っているかという点です。例えば、100グラムの鶏の胸肉だと23.3グラムのタンパク質、豚バラ肉だと14.1グラム、豚肩ロースだと19.7グラム、牛バラ肉だと12.1というふうに、10グラムから20グラムの間くらいだということが分かります。
なぜ値がばらついているかというと、重さの中にタンパク質だけではなくて脂肪が入っている場合があるのです。鶏の胸肉には脂肪がほとんどありませんが、おいしい牛肉の中には脂肪がたくさん入っています。
それでは魚のタンパク質はどうかというと、例えば、マグロ100グラムは26.4グラム、サケだと22.5グラム、ブリだと21.4グラムというふうに、大体20グラム程度入っています。先ほど出てきたサバ缶やツナ缶などでは大体20グラムくらい入っている、と覚えておきます。
そうすると、タンパク質を毎日、
体重に匹敵するだけ食べているかどうか、ということが予測できます。このようなことは考えたこともない、という方はいませんか。皆さん、死ぬまで必ず行うことと言えば、食べることと運動です。運動だけに気をつけていて、食に気が回らない人が意外に多いのです。
食べることにもっと注意しないといけません。