(3)判断がぶれる
さてもうひとつ違うタイプのNISA貧乏の話をしたいと思います。
NISA投資は、マイホームをローンで買うことに似ていると思っています。
どちらも一度決めたら、本質的には30年ぐらいの長期戦になるつもりで続けるものだということです。
25年前に今住んでいるマンションを購入して、25年間、毎月20万円ほどの住宅ローンを払い続けていれば、この住宅ローンはあと5年間、満期まで払い続けるでしょう。そしてそれが人生の戦略的に正しいと思います。
もうゴールが近いのでその判断がぶれることはないと思いますが、こうやって払い続けることで5年後の満期には今住んでいる家が私の持ち家としての資産になります。ただ途中、苦しかった時期には別の選択もあったと思います。家を売却してローンを完済するという別の判断です。
たとえばリーマンショックでコンサルの仕事がまったくなくなってしまったときに、自宅を売ってローンの負担を無くしてしまうという選択肢は現実には魅力的でした。それをやっていたら老後は違ったものになっていたでしょう。
そうしなかった判断の根拠は、「老後のために家を買った」という人生の戦略の目的でした。老後に楽をするために、若くて働けるうちは働けるだけ働こうというのが、文字に書いてはいませんが私の人生戦略でした。
だったらリーマンショックごときですぐにその判断をぶらすのは愚策だと考えたのです。
株式投資もそれと同じで、個人投資家は長期的に株式市場に居続けることが重要です。
例えば世界が注目する半導体株のNVIDIAを例にとりましょう。
本当に株価が大きく動くのは1年の中でもどこか30日程度の話です。昨年6月に422ドルまで上昇したNVIDIA株はその後、ずっと400ドル台で半年間、ほとんど動きませんでした。
その状況になると多くの投資家は、「もうNVIDIA株は割高な水準かもしれない」と考えが変わり始めます。
その半年間で二度、四半期決算の発表があって、毎回物凄く良い業績が発表されたのですが、それでも株価は大きくは動かない。
それでNVIDIA株を手放した人も多かったようです。
ところが今年1月にNVIDIAの株価はじりじりと上がり始め、2月下旬に三度目の物凄く良い四半期決算の発表があった直後の30日で爆発しました。もちろん途中で売った人もそこそこ儲けたとは思いますが、本当に儲けた人は考えがぶれなかった人だったのです。
そこで考えてほしいのは皆さんが新NISAをどのような人生戦略の観点からやっているのかということです。
たとえば35歳の人が「30年後、65歳までに老後資金2000万円をつくる」と決めたのだとします。ひとつの計算では35歳で120万円(これは新NISAのつみたて枠の年間の上限と同じです)をS&P500に投資をして、ずっと30年間持ち続けたとした場合に、年率10%で増えていったとしたら(理論的には)到達できるゴールです。
それが戦略の目的だとしたら、やってはいけないことは途中で降りることです。
もちろん自分の人生だから途中で降りるのも自由ですよ。
どうしても助けてあげたい誰かがいて、「おぢ」の立場としてなけなしの120万円を現金化して手渡そうというのも、それはそれでその人の人生です。
ただ住宅ローンの話と同じで、降りたらその瞬間に老後の人生は変わります。
あくまでわかりやすい表現として申し上げれば、老後貧乏を選ぶか、NISA貧乏を今選ぶかの判断をその瞬間にしていることになるのです。
現実には、ここが一番憂うべき点ですが、実際に多くの投資初心者は2~3年でこの判断がぶれて超長期投資をやめて、投資資金を現金化してしまいます。
わかったうえでやっているのであれば止めませんが、ただ「ちょっと儲かったから焼き肉を食べに行こう」ぐらいの判断だったとしたら、それは投資貧乏につながる道を歩んでいるのだと気づいてほしいと私は思います。
人生、何かを得ようと思ったときは、それを得るための努力の時期は必ず必要なものです。お金を得るためのNISA貧乏がそのようなポジティブなものだった場合はそれほど気にすることはないと思います。
一方でNISA貧乏が心理的な誤りから起きているのでしたら、それは早く修正したほうがいい。もし皆さんがNISA貧乏感をおぼえていらっしゃるとしたら、この記事を参考に、自分に何が起きているのかを考えてみてはどうでしょうか?