コロナ禍で店舗を増やした「から揚げ専門店」ですが、ここにきて倒産が止まりません。帝国データバンクによると、から揚げ専門店の倒産が、前年の7倍規模に達したという。
から揚げ専門店がブームになったワケは、小規模な敷地面積で出店できるうえに、高い技術を必要としないからです。
コロナ禍のテイクアウト需要とともに増加していましたが、ブームは急速にしぼんでいます。
もともと、私たちの生活に密着したおかずのから揚げですが、近年は『からあげグランプリ』の開催などにより、ブランディングが進みました。
加えて、景気が悪くなると専門店やテイクアウトが流行する、という業界の流れがあります。専門性を高めるとバズりやすく、小資本でも始めやすいのです。
から揚げは万人受けするメニューですし、調理に特別なスキルも必要なく、スペースも取らないから、個人事業主や中小事業主にとって『自分でもやれそう』という気になりやすかったのです。そのような要素によって、から揚げ専門店は増加していきました。
しかし、そもそも、から揚げは家で作れます。自宅で揚げるのが面倒だとしても、今やスーパーや惣菜屋、コンビニでもから揚げは売られ、冷凍食品も山ほどあります。
から揚げ専門店より安い商品も多いなかで『わざわざから揚げ専門店で買う必要があるのか?』と思われるのは時間の問題でした。
顧客は基本的に、“自宅では調理が難しいもの”を外食に求めますので、から揚げ専門店のブームは、ほかの飲食業と比較すると短命に終わるのではないかな、と。
また、『からあげグランプリ』などグルメ賞レースの受賞歴などは一見目を引きますが、出品するだけでなんらかの賞をもらえるケースも。
次第に消費者もその事実に気づき、ブランディングという点でも早々に下火になってしまいました。
消費者行動のほかにも、参入者が増えて飽和状態になったこともブーム終焉の一因だといいます。
なかでも、大手飲食企業の参入は完全に悪手でした。
ワタミは『から揚げの天才』というお店でから揚げ専門店市場に乗り込みましたが、中小事業主の主戦場に大手が参入しても、ほとんど勝ち目がないのです。
そもそも、飲食業界は約8割が個人ならびに中小事業主です。
個人で経営する場合は人件費が浮くという大手にはない戦い方ができます。
一方大手は、資本力はあるかもしれませんが、現場に配置する社員やアルバイトの人件費、本部の管理コストなどなどを考えると、どんなに小さなテイクアウト店でも損益分岐点(※事業において売上と費用がまったく同じ金額になるポイント)が高くなってしまいます。
大手が中小事業主が参入しやすい業態に乗り込んで成功するのは、なかなか難しいのです。
一方でワタミは同時期に大型居酒屋を焼肉店へ業態転換させましたが、これぞ大手の仕事といえるでしょう。
焼肉のダクトやロースターなどへの大がかりな設備投資は中小事業主には難しいからです」 大手やその他個人事業主が大勢ブームに合わせて参入したことで、から揚げ専門店の市場はあっという間に飽和状態になりました。
さらに、消費者が「わざわざ、専門店じゃなくていいのでは?」と思い始めたことでブームが去っていったのだ。 「から揚げ専門店ブームの終焉については、コロナや物価高など色々な分析がありますが、それはあくまで理由の一部にすぎないと思います。
これまでお話したことは、時代に左右されない、飲食業界のセオリーとも言えるからです。
ブーム終焉後も生き残るには… では、ブームが去ったあとも生き残るためには、専門店での出店を考える場合は、二の矢三の矢を用意することが定石です。
ブームが去ることを予想して、他社に先んじて専門性を広げていく仕掛けが必要です。
から揚げと関連性があるものだと、やはり揚げ物です。から揚げ以外にコロッケやカツなどの揚げ物にウィングを広げることを最初から念頭に置くなどでしょうか。あらかじめ焼き鳥を焼けるような設備を入れておくというのも手だと思います。
今後も専門店は定期的にバズりそうです。
それに乗じて一儲け狙うという人も出てくるでしょうが、専門店の流行は大体2年ほどで終焉しますので、次の展開を見据えていない人は立ち去るしかありません。
ブームに乗って儲け逃げできるんじゃないかと軽はずみで参入してしまうことは、ただのギャンブルです。
『流行っているらしい』と飛びつき、FCに加盟して自己破産した人も少なくありません。
見通しを立てぬままスタートを切ってしまえば、ほとんどが失敗に終わってしまうので要注意です。
今後から揚げ専門店は、から揚げ以外の付加価値を見つけ、生き残る道を模索することになりそうです。