白熱した議論が続いた、最低賃金の引き上げです。 物価高の影響により、生活苦を訴える低所得者を救うためにも、継続的な賃上げが望まれますが、それでも低所得者の未来は、希望に溢れているとは言えないようです。
物価上昇を背景に、最低賃金の引き上げについて議論され、今年度の最低賃金について、全国平均の時給で、過去最大の41円引き上げとする目安をとりまとめました。
最低賃金は、企業が労働者に最低限支払わなければならない賃金として、地域ごとに決められていますが、現在全国平均は時給961円です。
それが全国平均、時給1002円となり、初めて1,000円を超えました。 最低賃金は、企業が労働者に支払わなければならない下限額で、物価や賃金の上昇率などを参考に都道府県ごとに毎年決められます。
中央最低賃金審議会(厚生労働しょうの諮問機関)の小委員会は、都道府県をA(東京など6都府県)、B(京都など28道府県)、C(沖縄など13県)の3グループに分けて、引き上げ額の目安を提示しました。 各地の経済状況も踏まえ、Aで41円、Bで40円、Cで39円としました。
実際の引き上げ額は今後、この目安をもとに各都道府県の審議会で議論されて決まり、10月ごろから適用される見通しです。
目安通りに引き上げられれば、東京都と神奈川県で初めて1100円を超え、京都や埼玉など5府県で初の1000円以上となります。 最低賃金の議論では「格差是正」がセットで語られます。
フルタイムの正社員と、最低賃金がひとつの基準となる、パートタイマーなどの非正規社員との給与差です。 これこそが、格差拡大を助長しているという指摘がされています。
OECDによる世界主要国の最低賃金水準についてみていくと、調査対象31ヵ国ちゅう、フルタイム従業員と最低賃金との格差が最も少ないのは「コロンビア」でフルタイム従業員の給与水準を100としたとき、法定最低賃金は92.31。
以下、コスタリカ、チリ、トルコ、ニュージーランドと続きます。
「日本」は全体26位です。 世界主要国の中でも、格差の大きな国といえるでしょう。 日本の最低賃金は、先進こくと比較すると、日本は最低レベルです。
最も高いオーストラリアは1000円どころか2000円を超えています。
ドイツ、イギリス、フランスなどG7の国も1700円前後という高水準です。 韓国も1023円と、日本は韓国にも抜かれてしまっています。 世界の基準でみると、確かに、最低賃金の引き上げは必要かもしれません。
また日本では、最低賃金に近い低賃金で働く人の割合が、最近10年ほどで倍増していることも分かっています。 最低賃金の全国平均の1.1倍以下で働く人の割合は、2020年に14.2%となり、2009年の7.5%から急伸しました。 つまりギリギリ生活を余儀なくされている人が増えたということです。
さらに昨今の物価高により、その生活はますます厳しいものになっています。 ネット上で、自身をスーパー貧乏の非正規と例える40代の男性です。
やはり、昨今の物価高には頭を悩ませているといいます。
――腹が減るのは慣れた ――我慢できなければ、公園で水をがぶ飲みすればいい。 水さえ飲んでいれば死なねぇよ そんなつぶやきを繰り返しますが、最近の炎天かにはまいっているようです。
昼間は仕事で留守にしているからいいけれど、夜は暑くて、節約のためエアコンは使わないので、自宅にいられないといいます。
しかし冷房代がもったいない、そこで、何かを買うわけでもなく、冷房の効いたコンビニをはしごしたり、休みの日はいちにちじゅう、図書館で涼をとっているそうです。 仮に男性が最低賃金で働いているとしたら、時給961円です。
一般的な会社員と同様、月に167時間働いたとしたら、月収は16万円ほどになります。 手取りでは12.5万円程度です。 学卒以来、夢を追って非正規社員で働いているものの、正社員に登用されることなく現在に至るという男性です。
「夢を追えるだけ幸せ」と強がっていいますが、昨今の物価高の影響は、そうも言っていられないほどの厳しさです。 仮に現在45歳、このような生活を20歳から始め、60歳まで続けるとしましょう。
仕事を始めた20歳、1998年の最低賃金は全国平均649円です。 年間2,000時間働いたとして、月収は10.8万円、年収は130万円ほどになります。 25年で給与は1.5倍になった計算です。
このままの上昇率で60歳まで働いたとしたら、最終的には月収は20万円に迫ることになります。 しかし問題は老後の生活でしょう。
公園の水で空腹をごまかすほどですから貯蓄があるとは考えにくく、今後も資産形成を進められるとは思えません。 また、国民年金の保険料のみをきちんと払っているとしても、65歳から受け取れるのは、現状、月6.6万円ほどしかありません。
2022年10月から短時間労働者として働く従業員の厚生年金保険への加入義務が拡大されたので、15年ほど厚生年金に加入したとしましょう。 65歳から手にする厚生年金は月1.7万円、国民年金と合わせて8.3万円ほどになる計算です。
もちろん、だいぶ前から厚生年金に加入しているかもしれませんし、いままでもこれからも国民年金だけかもしれません。
さらに年金保険料を滞納していて、国民年金すら受給できないそんなこともあるかもしれません。
どちらにせよ、十分な年金を手にする未来は考えにくく、生きていくために一生働き続けることが確定というなんとも絶望的な未来しか描くことができないのです。 このようなワーキングプアを根絶し格差是正を図ろうとする最低賃金の引き上げです。
ただ企業、特に中小企業としては厳しい状況です。
今後、深刻化する人手不足の問題からも、最低賃金を引き上げるのは自然な流れになるでしょう。 ただ、体力のある大企業であれば、賃金増分を吸収できるでしょうが、中小企業としては経営を圧迫する死活問題になります。
しかもこの物価高で、価格転嫁が進まない中、最低賃金の引き上げとなると途端に経営破綻する中小企業が増えると、専門家は警鐘を鳴らします。
ただ上げればいいという単純なものではない最低賃金です。 あらゆる問題が改善の方向へと進めることができるかという点でも目が離せません。