コンビニで弁当と飲み物を買うとこれだけで800円を超え、ホットスナックを買うと1000円オーバーになります。
コンビニでランチを買って1000円オーバーは高すぎで、日本でも着実に物価が上昇していることを実感した。
1月27日に総務省が発表した1月の東京都区部消費者物価指数の速報値は前年同月比+4.4%と、1981年6月以来の大きな伸びとなりました。
同指標は全国版の消費者物価指数の先行指標です。全国版の1月の消費者物価指数の発表は2月24日ですが、そのタイミングで国内の物価上昇に改めて注目が集まるでしょう。
この「前年同月比+4.4%」という数字を見て、「体感の物価上昇はもっと厳しい」と感じた方もいるのではないでしょうか。
料理のために頻繫にスーパーに行きますが、やはり実際のインフレはもっと激しいと感じます。
ちなみに2022年12月の全国版の消費者物価指数では、生活必需品を意味する「基礎的支出項目」の物価上昇率が同+6.1%、「毎月1回程度購入するもの」の物価上昇率が同+11.0%と、家計に影響する品目の物価上昇率が大きくなっています。
もちろん、物価上昇以上に賃金が上昇すれば問題ありません。
実際、春闘を前に、メディアでは賃上げのニュースがいくつも報じられています。
ユニクロを運営するファーストリテイリングは、今年3月から国内の従業員の年収を平均15%増やします。
同社のプレスリリースによれば、新卒の年収は約18%アップ、入社1~2年目で就任する新人店長は年収で約36%アップするといいます。
また、任天堂は4月から全社員の基本給を10%引き上げる方針だ。正社員だけでなく、嘱託社員やアルバイトも同様に増額するというから太っ腹です。
こうしてみると、今年の春闘は期待できそうに思えます。
しかしながら、現実はそうそう甘くはないでしょう。
前述の2社は上場企業、しかも売り上げの半分以上を日本国外で稼ぐグローバル企業です。
同じレベルの賃上げを中小零細企業に期待するのは無理があるでしょう。
事実、城南信用金庫が東京・神奈川の中小企業738社に今後の賃上げについて尋ねたところ、約7割が「賃上げの予定なし」と回答したといいます。
日本の労働者の約7割は中小企業に雇用されています。
つまり、ほとんどの労働者は物価上昇率を上回る賃上げを期待できないということです。
賃上げが期待できない以上、家計は節約に走らざるを得ません。
既に日本国民の家計防衛は始まっています。
総務省が発表した2022年12月の家計調査によれば、2人以上の世帯の実質消費支出は前年同月比-1.3%と2カ月連続でマイナスとなりました。
まだ2カ月しかマイナスになっていない、という指摘もあるかもしれません。
ただ、それは前年同月比という「統計マジック」に引っかかっています。
2022年6月から9月まで実質消費支出はプラスでしたが、それはちょうど前年に「まん延防止等重点措置」が発出されていたため、反動でプラスになっただけです。
2022年10月の実質消費支出もプラスでしたが、それは「全国旅行支援制度」によって、交通・宿泊支出が大幅に増加した影響だと考えられます。
これらの影響を除くと、2022年6月以降、ずっと消費支出が下振れしている可能性もあります。
個別企業の決算や業界紙を見ると、いま多くの消費者が低価格なプライベートブランドを選好している傾向が確認できます。
マイボイスコム社が2022年12月に発表した「プライベートブランド商品に関する調査」によると、2017年時点で「プライベートブランド商品を購入したいと思いますか?」という問いに対して「購入したいと思う」と回答した割合が20.8%だったのに対して、2022年は29.9%に増加しています。
物価上昇を抑える方策としてすぐに思い浮かぶのが政策金利の引き上げに代表される金融引き締めです。
既に欧米をはじめ各国は異例なハイペースでの利上げを実施しています。
黒田総裁の後任には植田和男氏ということですが、新体制に黒田路線からの脱却を望む声もあります。
しかし、欧米が利上げをしているから日本もすべきだ、という発想はあまりにも稚拙だと言わざるを得ません。
国民が体感する物価は高いですが、金融政策を決める際に参照すべき物価水準はまだ低位のままです。
米国でコアCPIとして利用されている「食料(酒類を除く)とエネルギーを除く総合」のデータでは、前年同月比+1.6%。つまり日本の「(米国基準の)コアCPI」はまだ2%に届いていないのです。
また、国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは、2022年10~12月期のデータが前年同期比+1.1%と、ようやく3四半期ぶりにプラスになったというレベルです。
海外起因のインフレ要因が剝落すれば、GDPデフレーターは再びデフレ水準に低下するでしょう。
いまの日本経済が安定的に2%の物価上昇率を維持する段階にないことは容易に理解できます。
既に米国ではインフレがピークアウトしており、欧州各国もいよいよピークアウトの兆候も見られます。
そんな中、日銀が新体制下で拙速な出口戦略をとれば、日本経済には逆風となるでしょう。
そもそも景気対策とは日銀だけの責任ではなく、むしろ政府にこそ景気対策が求められるはずです。
黒田総裁は異次元の金融緩和を維持してきたが、その間も政府は2度にわたる消費増税を実施し、財政政策サイドでブレーキを踏み、結果として日本経済を停滞させてしまいました。
岸田政権は現時点で増税を実施していませんが、報じられるのは増税案ばかりです。
企業は主に海外起因の物価上昇圧力に晒され、原材料価格や電気代の高騰に苦しんでいます。
そのような中、多くの企業では物価上昇を上回る賃上げは難しいでしょう。
そうなると、家計は自己防衛として節約をするようになり、人々の財布のひもが固くなると、企業の売上高は増えなくなります。
すると利益を捻出するために更に人件費を下げれば、再び家計は節約に走ります。
このような負の連鎖、いわゆるデフレスパイラルに突入する危険性があるのです。
このような話をすると、「人々はいま物価上昇に苦しんでいるのだから、デフレになり物価が下がるなら歓迎だ」という意見をもらうことがあります。
たしかに、この世があと数週間で終わるというのであれば、デフレを歓迎すべきでしょう。
しかし、実際には経済活動は今後もずっと続くので、物価下落はその後の賃金下落を招くため、デフレを喜ぶことはできません。
デフレになると物価が下がる以上に労働者が受け取る報酬が下がります。
これは、不名誉ながら我が国が世界において初めて実証した事実です。
給料が下がると、職を失う人や命を落とす人も増えてしまいます。
デフレスパイラルは一度突入すると脱却が非常に難しいです。
なぜなら、デフレとは企業も家計も与えられた条件の下で合理的に動いた結果として発生する現象だからです。 これを合成の誤謬(ごびゅう)といいます。
この合成の誤謬を脱却するには、残る国内経済の主体である政府・日銀が適切な政策をとる必要があります。
新しい日銀体制と政府は同じ方向を見て、アクセルを踏み日本経済を再浮上させることを期待します。