2021年卒業予定の就活生を対象に行ったアンケート調査で、就活中に「学歴フィルター」を感じたことがあると回答した人の割合は39%でした。
就活生の10人中4人が何かしらの形で就活中に「学歴によって優劣をつけられた」と感じているようです。
学生側の立場としては「学歴だけで評価しないでほしい」という不満があると思いますが、果たして企業の採用活動において学歴フィルターはどこまで「合理的」なのでしょうか。
「出身大学」は、「相性の良い人材」を見つける1つの手段です。
企業の採用活動に携わってきた立場から言えることは、「学歴」のみを評価し採用を決める企業は存在しないということです。
企業に行われるアンケートで「採用時に重視する能力」のトップは毎年「コミュニケーション能力」であり、「学力」と答える企業は少ないです。
ただし大学名を見ていないかというとそんなことはなく、多くの企業で「ターゲット大学」というものは存在します。
それだけで学生や世の中は「ほら!やはり学歴で人を選んでいるではないか!」と言いたくなるのだが、企業もそんな安易な選考をしているわけではありません。
企業が求めているのは「学歴の高い人材」ではなく、その企業に入社してから仕事で「活躍できる人材」です。
では「どんな人材が自社で活躍できる人材なのか?」というのは企業にとって永遠の問いなのですが、それは能力的にも性格的にもその企業と「相性の良い人材」だといえます。
その「相性の良い人材」を見つける1つの手段が「出身大学を参考にする」ということなのです。
実は採用活動における大学の見方には、「横軸」と「縦軸」があります。
「横軸」は地域や学部、その大学の校風などの「環境面」です。
それは学生の「性格や人柄」に影響します。
例えば関西圏の大学であれば、全体的に話し好きで人との距離感も近い学生が多かったり、看護系や心理系の学部は面倒見の良い学生が多かったりします。
当然企業によっても社員の雰囲気や人柄は異なるため、大学を横軸で見ることで相性の良い人材を見つけるヒントになるのす。
「縦軸」は、世の中的な“学歴”という表現に近く完全に「偏差値」である。偏差値によって入学難易度と知名度が変わるので、偏差値の高い大学ほど難関大学であり有名大学であることが多いです。
そのため「有名大学であれば就活でより評価される」というイメージが持たれやすいです。
偏差値の高い大学に入学した実績を評価する企業も当然あり、その企業にとってはその学生が「相性の良い人材」ということになります。
ではなぜ偏差値の高い大学への入学は実績として評価されるのでしょうか?
それは、「受験勉強」という1つの長期にわたる大変な仕事で成果を出したと認識されるからです。
受験勉強は本当に大変な作業だ。興味のある・なしに関わらず、指定された教科の膨大な情報を暗記、問題を解く力をつけて、それを本番のテストで点数という形で結果を出さなければいけません。
そのためには自分で計画を立て、意志を持ってやり遂げる必要があります。
実は社会での仕事も同様で、与えられた仕事は自分の興味関心とは関係なくやり遂げなければいけないし、その期間は数週間のものもあれば年単位のものもあります。
偏差値の高い大学に入学した学生は、そのような能力や経験を受験を通じて培ってきたであろうと評価され、その評価はあながち間違ってはいません。
スポーツでも勉強でも、努力して一定の成果を出したことは評価されるべきです。
では、そんな「企業と相性の良い人材」を見つける方法としてある程度機能している「学歴フィルター」は、なぜここまで毎年のように世間から叩かれるのでしょうか?
それは日本の「学歴」に対する評価の仕方に、“イマイチな点”が多いからです。
厳しい受験競争を勝ち抜いて難易度の高い大学に入れたことは評価すべきだが、それは高校卒業時の18歳の能力と実績です。
企業が学生を採用する22歳とは4年も差があり、その間の学力の向上はほとんど評価されないのが実態です。
現に企業の採用面接で、大学で学んだ授業や卒論、成績などについて質問されることは少ないです。
それは在学中、そこまで勉強で努力しなくても卒業できることを企業も分かっているので、学生の本業である勉強ではなく、アルバイトやサークルなどのそれ以外の課外活動に対する質問が中心になってしまいます(学生自身もあまり勉強を頑張ったと言い切る学生は少ない)。
この、入学時の18歳の時の努力が評価対象(=入口評価)となりすぎているのが、日本の「学歴フィルター」の最もイマイチなところです。
海外の大学では全く状況が異なり、文部科学省が2014年に行った調査では、日本の大学の中退率が4年間で10.6%。対してアメリカ・ハーバード大学による調査では、入学後6年間で4年制大学を卒業できない学生の割合が56%です。
2人に1人は大学に入ったは良いものの卒業できないというのが実態です。
海外の企業でも出身大学は当然評価対象にはなりますが、それは「4年間かけてよく頑張って卒業できましたね!」というもの(=出口評価)で、日本の「高校時代に勉強頑張ったんですね!」とは違います。
海外のように、大学時代の頑張りや能力向上で評価され、合否を決められるのであればある程度納得ができますが、日本の学歴フィルターの場合は高校卒業時の結果で合否を決められているように感じてしまうから、どうにも“イマイチさ”が残ります。
大学入学時で卒業後の人生が決まってしまうかのような印象を持ってしまいますが、就活や採用活動はそんな単純なものではありません。
企業がなぜ採用活動の中で、勉強以外のことを聞こうとしているのかというと、入学時だけではなく大学入学後の4年間で培った経験や能力を評価したいと思っているからです。
それらを大学での研究や卒業論文で培う人もいるし、留学やアルバイトなどの課外活動に力を入れる人もいるでしょう。
実は学歴フィルターに文句を言う学生の多くは、大学生活で取り組んだ活動に自信がなく、入った大学も特に有名大学ではありません。
その状態で志望企業の選考に落ちた場合、あたかも「学歴」で落とされてしまったかのような印象を持っている人が多いです。
学生の評価への大学名の影響は、ゼロではありません。
それは、その大学に入る上での努力は正当に評価されるべきだからです。
しかし、少しくらい名のある大学に入ったからといって安心しないでほしいです。
企業が本当に知りたいのは4年間での経験や培った能力であり、それがあれば大学名に関係なく評価して採用したいと思っている企業はたくさんあるのです。