急激な金利上昇は起こらないので、不動産はまだ大丈夫だというような声も聞こえますが、本当でしょうか。
すでに庶民には手が出ない水準にまで膨れ上がった不動産バブルは、ほんの些細なきっかけで破裂します。
東京・湾岸地域に「異変」が起こっているようです。
これまで飛ぶように売れてきた人気のタワーマンションが、ここにきて売れなくなっているのです。
財閥系不動産会社が分譲した豊洲のタワマンの一室(約58㎡・築14年)が3ヵ月前に7180万円で売り出されたのですが、その後、2度の価格改定を経て、現在は6800万円に値下げしても売れていません。
晴海にある別の財閥系不動産会社のタワマンの1室(約61㎡・築7年)は年末に7500万円で売り出されました。
41階の高層階ながら、坪単価410万円程度です。昨年の成約事例だと、同等のスペックで坪単価450万円程度が多かったので、1割程度も安くなっていますが、内覧はあっても、成約には時間がかかりそうです。
12月20日、日本銀行の黒田東彦総裁が会見し、「事実上の利上げ」に踏み切りました。
誰も予想しなかった「黒田ショック」にマーケットは混乱し、長期金利は上限である0・5%まで上昇しました。
これを受けて大手銀行は軒並み住宅ローンの固定金利を引き上げた。変動金利は据え置かれたものの、日銀が短期金利も引き上げれば、こちらも上昇していくはずです。
不動産価格は、この10年間で急激に上昇してきました。
国土交通省が12月28日に公表した不動産価格指数(マンション)は、'22年9月時点で'10年時に比べて約1・9倍に上昇し、住宅総合で見ても、1・3倍を超える水準で高止まりしています。
新型コロナの影響で景気が悪化し、不動産価格が暴落すると言われた時でさえ、逆に上昇しました。
不動産情報サービスの東京カンテイによれば、11月の東京都心6区(千代田、中央、港、新宿、文京、渋谷)の中古マンションの平均希望売り出し価格(70㎡換算)は1億円の大台に乗りました。
これはバブル期以来の水準だといわれていますが、その背景にあったのが、日銀の「異次元の金融緩和」による超低金利政策です
'90年代や'00年代前半はサラリーマンが購入できる物件価格の上限は6000万円程度とされていました。金利が3%で35年ローンを組むと、月々の返済額は23万円で、総支払額が1億円になります。
要は1億円支払って、6000万円の物件を手に入れたわけです。
これが今の変動金利の最低水準0・3%の35年ローンで試算すると、さきほどの例とあまり変わらない月々25万円の支払いで、1億円の物件が買えてしまうのです。
今の日本の住宅ローン金利は極めて低いと言えます。
その超低金利策を進めてきた黒田総裁が4月にいよいよ退任し、日銀の政策変更により、この3月に「不動産バブル」の大崩壊がやって来る可能性が高いです。
「黒田ショック」以前から、不動産市況は息切れし始めていたのです。
相場を支えてきたコアであるファミリー層が都心のマンション購入に手を出せなくなってきました。
昨年、東京・日本橋で、築10年程度の新築時売り出し価格が6000万円だった物件を9200万円で売り出したところ、結局、高齢者の方が住み替えのために現金で購入されまたようです。
中央区は子育て世帯に手厚く、これまではファミリー層にもこの程度の相場で売れていました。しかし、家族連れが内覧には来るものの、購入しなかったのです。
これは日銀の『実質利上げ』前の取引でしたが、今後、金利上昇の影響が反映されると果たしてどうなるでしょうか。
すでに、日銀の発表後、キャンセルになった取引もあると聞いています。
コロナ下のリモートワーク需要で活況を呈してきた東京近郊でも異変が生じています。
つくばエクスプレスの快速停車駅である流山おおたかの森駅周辺は、駅前の開発や在宅勤務の増加もあって、地価がうなぎのぼりでした。
ここに物件を買えない人が、東武野田線の初石駅や江戸川台駅など周辺の土地に流れて、一帯の地価も上昇してきました。
ところが、金利上昇の局面となり、周辺から崩れていくと地元の不動産会社では警戒感が広がっています。
地方都市も例外ではなく、この10年でマンション価格が8割程度上昇してきた大阪市でも、マンションの売れ行きが止まりつつあります。
大阪でも湾岸に建てられたマンションから下落が始まっています。
コスモスクエア駅徒歩2分で、大阪メトロ中央線に乗れば大阪のビジネス街、本町まで14分の好立地です。
20階建ての11階部分(約77㎡・築17年)を10ヵ月も前に3480万円で売り出しましたが、当初は内覧の問い合わせすら入りませんでした。
今は200万円値引きして、ようやく内覧が少し増えたかなという印象です。まだ売れていないようです。
居住用の住宅価格に先駆けて、投資用物件の価格下落を示す明らかな兆候があります。
東証に上場する不動産投資信託(リート)全体の値動きを表す東証リート指数です。
日銀が実質的な金利上昇を発表した日、東証リート指数は100ポイント(5%)以上下がりました。
その後、戻していますが、政策変更前の水準に届いていません。
金利上昇はそれほどセンシティブに不動産投資に影響を与えるものなのです。
金利上昇を受けて、不動産業界では、投資用マンションの開発・販売を専業とする企業の先行きが不安視されています。
東証プライム上場のある投資用不動産販売会社は、セミナーを活発に開き、サラリーマンなどにマンション投資を促してきました。
しかし、'21年途中から始まった米国のインフレで金利が上がり始めてから、日本国内の不動産投資熱が冷めて、同社の株価は半値以下まで暴落しています。
そこに日銀の『利上げ』で、さらに不動産市況が冷え込むと予想されます。
投資用不動産販売会社が在庫を抱えたままで、新規投資が細っていくと、当然、不動産価格は下落していきます。