このまま日本銀行や岸田政権が、国債の発行残高や日銀のバランスシートの拡大に頓着せず、現在の金利を維持した場合、日本はどうなるでしょう。
1000兆円を超える財政赤字をチャラにする方法のひとつとして、凄まじいインフレを意図的に起こして、実質的に貨幣価値を転換させてしまう方法があります。
想定を超えるインフレを政府や日銀が意図しているかどうかはわかりませんが、現時点で想定できる範囲でピックアップしてみます。
①日本経済の信用が失墜し、円、債券、株式の日本売りが始まる
日本だけが金融緩和を続けていた場合、当然ながらヘッジファンドなどの機関投資家や個人投資家は、円を売り、日本国債や日本の株式にも売りを仕掛けてくる可能性があります。
岸田政権が「財政規律に取り組む」というアナウンスを怠れば、イギリスのようにマーケットに牙をむかれる可能性があります。
このまま日銀がイールド・カーブ・コントロールで金利を抑え込もうとすると、いずれ限界がくることを投資家は見抜いています。
さまざまな形で「日本売り」を仕掛けてくるはずです。
もっとも、日銀が債務超過に陥り、日本政府がデフォルトを起こすといった事態は、外貨準備や経常収支の状況からゼロではないが可能性はかなり低いです。
ただし、金融市場が発達している現在では、イギリスのケースなどをインプットされたAI(人工知能)によって売買が行われています。
AIを駆使する投資家が日本円、日本国債、そして日本株がそろって大暴落する「トリプル安」になる日本売りを仕掛けてくる可能性はあります。
その場合は、円はさらに下落し、日本国債の売り浴びせで金利が急騰します。
日銀が日本政府の発行する国債の大半を買い入れる羽目に陥るかもしれません。
②1ドル=200円を超す超円安で輸入インフレに
日本円は今後も着実に売られ、円安が進むという見方が強まっています。日本政府は断続的に国内外の市場で為替介入の効果は一時的と見られています。
実際に、介入を認めた1回目は145円台で介入したものの、結局151円台まで円安が戻ってしまい、現在は覆面介入を続けています。
円安時の介入の場合、政府が保有している外貨を売却して円高にするわけですが、財務省の発表によると9月の1回目の為替介入時には2兆8382億円分の外貨が使われました。
日本の外資準備自体は1兆2380億ドル、179兆円(財務省、2022年9月末現在)ありますが、そのうち為替介入に使いやすい「預金」は1361億ドル、19兆7300億円。1回あたり、3兆円の資金を使うとすれば6~7回程度しか為替介入できません。
外貨準備の大半を占める「外為特会(外国為替資金特別会計)」のアメリカ国債を売却すればいい、といった報道もありますが、世界の債券市場への影響を考えれば現実的ではありません。
そもそも為替介入は、実施すればするほど次の介入を求めて、市場は意図的に円安に進めようとします。政府が介入すればするほど円安が進むわけです。1ドル=200円超もあながち不自然ではありません。
円安なら輸出産業は潤う、と思われがちですが、日本企業の多くは工場を海外に移してしまったために、日本で販売される日本製品の価格は2倍以上に跳ね上がる可能性も出てきます。
日本での売り上げに依存している家電メーカーや自動車産業などは、円安メリットを十分に生かせません。
そして、何よりも日本の物価上昇は深刻さを増すでしょう。
自民党政権では、インフレ対策費として国民に税金をばらまくから、ますます国の借金は増えていきます。
③インフレで景気が大きく落ち込む
超円安によって輸入インフレが起こるため、人々の生活は苦しくなります。日銀が指摘するように、日本はまだ供給に比べて需要が不足しており、その額は15兆円(需給ギャップ、内閣府、2022年4~6月期)になります。
円安によるインフレが進めば需要がさらに減少し、日本は不況に陥ることになります。
現在のインフレは、円安によるものだけではなく気候変動や食料不足、エネルギー危機など「グリーン革命」の進行によって加速されている部分があります。
社会構造の転換がもたらしている部分があり、短期的に解決されるものでもありません。
つまり、日本のインフレはこれからもずっと継続していく種類のものです。
④企業倒産、自己破産が蔓延する社会に
日銀が、このまま金融緩和を継続した場合、しばらくの間は日本経済も超円安や景気後退に耐えられるかもしれません。
しかし、いずれは限界がやってきます。
ギリギリまで引き延ばした後の急激な金利高は、日本社会に相当な混乱をもたらすはずだ。企業倒産や自己破産が蔓延するかもしれません。
年金生活者の生活も、一変する可能性があります。
最近になって、年金を運用している「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)」の運用成績が下がっていることが注目を集めたが、日本の金融緩和が続いた場合、半分は円ベースで運用しているためインフレに対応しきれるのか不安になります。
円キャリートレードの巻き戻しが起きるかもしれません。今がその状況かもしれません。
1998年に起きた1ドル=147円台までの円安相場は、その後に円キャリートレードの巻き戻しなどによって、わずか3か月後には110円前後まで円高が進んだことがありました。
当時は1997年にアジア通貨危機が起こり、1998年にはルーブル・ショックが起きています。
国内でも、北海道拓殖銀行や山一証券、日本長期信用銀行が破綻していた時です。
ただ、現在と決定的に異なるのは、アメリカが今回はインフレと戦っており、ドル安にしにくい状況があることです。
金利の低い通貨(円)を借りて外国の債券や株式、不動産などに投資する円キャリートレードがひそかに進行しているかもしれません。
IMF(国際通貨基金)が試算した2023年の世界の経済成長率によると、日本は1.6%(先進国平均は1.1%)になりました。
金利を上げない日本の成長率がG7のなかでもトップとなり、少なくとも短期的には、激しいインフレや急激な株安に見舞われていない中では、日本経済が健全に見えます。
しかし、かつてイギリスの中央銀行であるイングランド銀行がヘッジファンドに負けた「ポンド危機」や韓国がIMFの支援を受けた「アジア通貨危機」、そしてロシアのルーブルが暴落して世界最先端のヘッジファンドが経営破綻するなど、国や中央銀行がコントロールできなくなる危機に直面するケースは数多くありました。
マーケットが中央銀行に牙をむいた時、時として中央銀行が負けることがあることを歴史は証明しています。