岸田首相が日本売りの流れから「インベスト・イン・キシダ」とロンドンで訴え、さらに「資産所得倍増プラン」がいきなり飛び出しました。
岸田首相といえば就任当時に掲げていたのが「所得倍増」です。その演説は、単純に「日本に投資を」と訴えた流れで出てきたものです。
ただ、所得倍増がほぼ無理なことは誰の目に見てもわかるはずです。今後日本人の所得が大幅に増えないことを想定しての政策変更です。
そもそも資産所得とは、株式などの金融商品や不動産などによって得られる利益のことです。
2018年の調査では、1世帯当たり、1年で15万円ほどの資産所得があるそうです。それを倍増というわけですから、1世帯当たり30万円にするということでしょう。
給与に置き換えると、月2~3万円程度の給与アップということになりますから、家計的には大助かるといったところでしょうか。
資産所得倍増は、日本にある個人金融資産は2,000兆円を活用したいという思惑もあるのでしょう。
この2,000兆円、その大部分が預貯金で「ただ預けられているだけのお金」といわれていますから、その一部分が動くだけでも大きな効果が見込めます。
金融広報中央委員会による『家計の金融行動に関する世論調査』によると、1世帯当たりの金融資産は平均1,563万円、中央値で450万円です。
日本の世帯数は5,572万世帯なので、平均値で計算すると、870兆円となります。
一般世帯で持っている資産の合計は、報道でよく目にする2,000兆円の半分にも満たないといえそうです。 そもそも金融資産の平均値と中央値の差に注目すると、その差は3倍程度にもなります。
つまり一部の富裕層が平均値を押し上げているというのが現実で、一般層の感覚としては中央値のほうが近いのではないでしょうか。
そう考えると、個人金融資産は2,000兆円という数字から、「日本人、預貯金はもっている」というイメージは、本当にイメージでしかない、といえるでしょう。
どちらにせよ、資産所得倍増というからには、投資が前提です。
それには投資をするための元金が必要です。
そのような話をすると、「そもそも投資するお金なんてない!」という本音が聞こえてきそうです。
国税庁『令和2年分 民間給与実態統計調査』によると、日本人の平均給与は433万1,000円。男女別にみると、男性532万2,000円、女性292万6,000円。雇用形態別にみると、正社員495万7,000円、非正社員は176万2,000円でした。
よく「日本人の給与は30年間上がっていない」といわれていますが、確かに、1990年の平均給与は425万2,000円ですから、まさにその通りです。
バブル崩壊以降、経済は下降線を辿っていきましたが、その余韻から給与は上がり続け、ピークに達したのは1997年で467万3,000円です。
以降、2020年までの23年間。その間、前年比プラスを記録したのは8回、前年比マイナスを記録したのは15回です。
1990年代の不良債権問題からITバブル崩壊、リーマンショック、2000年代は2007年を除き、毎年給与は下がっていきました。
しかし2013年以降、アベノミクス効果で、給与はプラスに転じます。「もしかしたら、平均給与の最高値を超えるのでは」と期待されていましたが息切れしました。
そしてコロナ禍、さらには昨今の物価高や円安によって、そんな甘い期待は消え去ったといえるでしょう。
浮上のきっかけも見えてこないなか、「資産所得倍増」といわれても、誰もピンとこないのは仕方がありません。給与が上がらない中、投資にまわすほどの余裕がないのも事実です。
少子高齢化が深刻化する日本では国が面倒をみることはできなくなるから、各個人、資産形成に邁進するように言われています。
給与を上げることはできない、国も支えてあげることはできない。それでも投資をして資産を築いてもらうほかないということでしょう。
「資産所得倍増」は、お手上げ状態の日本で生きるための、唯一の道なのかもしれません。