老化とは生物が成熟期を迎えた後、加齢とともに体と心の生理的機能が不可逆的に低下していくことです。進み具合や病状には個人差があります。
いくつもの要因が重なり合って老化は進行しますが、大きく分けると6割は遺伝的な要因、4割が環境要因によるものです。つまり、生まれつきの性質で6割は決まりますが、残り4割は個々人の行動様式や考え方で変化するということです。
高GI食品は控えめに 多様な食習慣を では、老化が早い人と遅い人ではどのような生活習慣の差があるのでしょうか。
まずは食事です。国立がん研究センターと東京大学が45〜74才の7万人以上を対象として行った共同研究から、血糖値を上げる高GI食品(※食後血糖値を急激に上昇させる食品)をよく食べる人の死亡リスクが高いことが明らかになりました。脳血管疾患にいたっては32%も高かった。それだけ脳や血管の老化を進めてしまうということです。
また、老化が遅い人の食事には“多様な食習慣”が挙げられます。国立がん研究センターが約4万人を対象に行った追跡調査でも、女性において1日に摂る食品の種類がもっとも多いグループではそうでないグループに比べて認知症発症リスクが33%も低かった。何が食べたいかを考え、自分で選ぶことは脳の老化を防ぐうえで重要ということです。
細胞の炎症を抑えることが、脳だけでなく全身の老化を遅らせます。
細胞が炎症を起こすと体が酸化して老化が進行します。それを防ぐには、緑黄色野菜やナッツなど抗酸化作用のある食べ物を積極的に摂ること。年を取ると食べる量が減って栄養を摂りきれない人は多いですが、その場合はサプリメントで補ってもいいでしょう。
運動習慣も若々しさを保つためには大事ですが、バランス感覚を鍛えることを重要視します。
人間の二足歩行はかなり高度な機能で、ロボットにやらせようとすると膨大な計算が必要になります。それを瞬時にやりながら歩いているわけですが、老いてくるとそれができなくなるから転んでしまいます。
階段の上り下りや、ダンス、バスケットボールのドリブル、お手玉などバランス感覚を鍛えるコーディネーション運動はウオーキングの2倍の効果が期待されています。
逆に体に負荷をかけすぎると、かえって老化が進行してしまうことにつながります。
激しい運動は血流や呼吸が増え、体が酸素を多く必要とするため活性酸素を多く発生させ、体が酸化し、老化を促進させてしまいます。“いまより少しでも運動量を増やす”くらいの目標がいちばんです。
運動をしたら休息をとることも、老化進行のカギになる。年を取ると睡眠習慣が若い頃とは変わってきて、眠りが浅くなったり、寝つきが悪くなったりと不具合が生じる人が多いが、「睡眠」については、実は老化に“影響しない”ともいえそうです。
健康のためにはある程度の睡眠時間が必要ともいわれており、これまでの研究から、短時間睡眠は脳の老化に影響するとか、逆に9時間以上だと認知症リスクを上げるとかいろいろなデータが出ています。
でも、一方で睡眠にはかなりの個人差があることがわかってきて、定義づけすることは非常に難しいんです。100才以上で10時間寝ているかたもいますから。 ただひとつ、数々の研究データから世界的に“正しい”とされているのが30分の昼寝です。
ある研究では30分の昼寝で認知症リスクが半減したという結果が出ました。ストレスが減ることで心筋梗塞のリスクも下がることがわかっています。
長寿遺伝子が細胞の老化を防ぐ ストレス軽減は老化を遅らせるうえで強く意識してほしいのです。
高ストレス状態にあると、自律神経が活性化しやすく、血管が収縮しやすくなります。すると、高血圧になり脳や心臓に血栓ができてしまいます。これは脳の老化に直結します。
強いストレスが免疫力を低下させます。
自律神経が過度に働くと、副交感神経がうまく作用せず内臓機能が低下し、免疫力が低下します。感染症にかかりやすくなったり、がんリスクが上がるだけでなく、肌のバリア機能も弱まってシミやしわ、乾燥など見た目の老化にも影響を与えます。
社会的つながりで幸福力を高めることもストレス軽減につながるという。
いろいろな人と話したり、信頼できる友人がいることはストレスを感じにくくします。一方で、孤独感が強い人は死亡リスクが高まることがわかってきています。社会に出て、新しいことにチャレンジすることは老化を遅らせるといっていいでしょう。
それは大きなチャレンジである必要はなく、意識的にでも無意識的にでも、いつもと違うことを心がけている人は老化が遅いのです。
いつもとは違うメーカーの牛乳を飲むとか、たまには花を飾ってみるとかそんなことでいいのです。脳には場所を認知する場所細胞というものがあり、新しい場所ではそれが活性化して認知機能を高めます。同じ道を通る場合でも、右側を歩くか左側を歩くかだけで変化が出ます。
こうした生活習慣改善は、近年注目されている「長寿遺伝子」の働きにも作用が期待されています。
いわゆるサーチュイン遺伝子と呼ばれる遺伝子です。これが多く発現するほど老化が緩やかになり、長生きできる。バランスのいい食事や、適度な運動が活性化させるといわれています。
長寿遺伝子が活性化すれば、細胞の老化を防ぐことになります。
老化の鍵を握るのがDNAにあるテロメアで、細胞が分裂するたびにどんどん短くなります。ヒトの細胞はどんなに多くても50回程度しか分裂できず、テロメアがなくなれば分裂は止まり死ぬか老化細胞になり老化が進むということです。
長寿遺伝子にはこのテロメアを守る働きがあるとされており、見た目も体内も若くいられることが期待されています。
老化の研究が進むにつれ、「老化細胞」の正体が明らかになり、それを除去する研究開発に注目が集まっています。
老化細胞は体内に蓄積されて、さまざまな疾患の発症や進行に影響を及ぼすと考えられています。老化細胞を減らすことができれば、生活習慣病や認知症など加齢に関する疾患を予防できる可能性が期待されます。 現在、さまざまな組織に出現する老化細胞の除去を目指す研究が進められています。
実際、6月には東京大学などの研究チームが老化細胞を取り除く医薬品の研究を進めていることを発表。2030年頃までに、加齢が影響する慢性腎臓病への臨床試験の準備をするという。3月には健康食品メーカー・ファンケルが「老化細胞を除去する成分を世界で初めて特定した」と発表し、その成分を入れたサプリメント(機能性表示食品)を4月に販売開始しました。
直後から想定を超える売れ行きだったとして、現在は出荷停止の状況です。 老化細胞が除去できれば老化を遅らせるどころか、“不老不死”も夢ではなくなるかもしれません。
