氷河期セミリタイア日記

就職氷河期世代ですが、資産運用でなんとかセミリタイアできました。残りの人生は、好きなことをしながら自由に生きていきます。

倒産急増「日本のパン屋」が抱える特殊な問題

倒産が増える要因としてよく指摘されるのは、物価高やロシア-ウクライナ戦争による小麦価格の高騰、原油高、人手不足や人件費の上昇といったコスト高です。  

パン屋はもともと、薄利多売の商売で、よく聞くのは、「儲けようと思ってこの商売を始めても続かない」という言葉です。  

大量生産が前提のメーカーですら、手作業の要素を残す場合があるなど、製造に手がかかるほか、発酵食品ゆえの手間もあります。

もちろん、冷蔵庫で長時間発酵させるなど、労働時間を短縮する努力を進めてきた個人店も多いが、基本的に煩雑で体力が必要な仕事であることは変わりません。  

そのうえ、近年は、インストアベーカリーを始めるスーパーが増え、焼き立てパンを売りにするなど、ライバルが増えています。  

加えてパンはロス率が高い食品でもあります。近年は、古くなったがまだ食べられるパンを扱うビジネスも増えましたが、全体から見ればごくわずかです。前述の各種要因のほか、実はこのロス率の高さに、倒産が増える要因があります。

そしてもう1つ、考えられる別の理由があります。

ロス率が高くなる背景に、日本特有の事情があり、パンを中心的食糧にしてきたヨーロッパでは、古くなったパンの再利用方法が発達しています。

フレンチトーストやパン粉、クルトン、ラスクのほか、日本ではあまり見かけないですが、国によって「クネル」「クネーデル」などと呼ばれる団子に加工し、食べる料理もあります。

それができるのは、再利用されるパンがシンプルな食事パンだからです。  

しかし、日本では菓子パン・総菜パンの人気が非常に高く、特に町のパン屋では数十、100といったバラエティを誇る店が多いのです。セルフサービスの店では、レジ待ちの行列に、トレイいっぱいに菓子パン・総菜パンを並べている人をよく見かけます。  

菓子パン・総菜パンの人気の高さは、総務省の家計調査からわかります。2人以上世帯における2023年のパン消費金額は、1位が神戸市で4万1183円でしたが、そのうち食パンは1万3468円、と約3分の1に過ぎません。

朝食にパンを選ぶ、ハード系パンを好む人が多いなどパン好きで知られる神戸市民ですら、菓子パン・総菜パンにより多くのお金を使っています。  

食パンなどの食事パンは、2~3日食べられるものが多いし、冷凍保存すれば何日も持ちます。しかし、菓子パン・総菜パンは中の具材によって冷凍に向かないものも多く、基本的にその日に食べ切る必要があるものがほとんどです。

食事パンはラスクにする店もあるが、売れ残った菓子パン・総菜パンは捨てざるを得なません。  

また、菓子パン・総菜パンは製造にも、より手間やコストがかかります。

具材製造を専業メーカーに外注するパン屋もあるし、地元の飲食店とコラボして人気店のカレーを入れたカレーパンにするなどと、あえて外注を売りにする店もあります。

一方で、店内での「手作り」を売りにするパン屋もある。こちらは、具材作りの負担も大きいのです。  

本来、パン屋はパン生地の質が売りになるはずですが、菓子パン・総菜パンについては具が目当てで、パン生地の味を気にしない客もいるのではないでしょうか。

それは、誇るべきパンの味が二の次になってしまうことにつながり、本来伸ばすべき技術を伸ばせずにいるパン屋もありそうです。

本来の仕事でないはずの、菓子パン・総菜パンの開発と製造の負担が大き過ぎ、パン屋を苦しめているようにも見えます。

パンブームが始まって約15年。そろそろブーム自体が収束している可能性も高いです。実際、高級食パンブームの火付け役の1つ、「乃が美」のフランチャイズ店が2023年末時点で、最盛期の半分以下になるなど、チェーン店でも閉店が目立ちます。  

高級パンのブームは2013年に始まりましたが、急速に広がり異業種からの参入も多かったせいか、必ずしも質が高いとは言えないという声もあります。多くなり過ぎたこともあり、10年も経てば飽きられても不思議ではありません。  

また、小麦価格が上昇したここ1~2年はコメ回帰現象も目立ちます。ハンバーグ専門店などご飯のおいしさを前に出す定食屋が増え、おにぎりブームも加速し、パンではなくご飯を使った食べ物を選ぶ人も多いのではないでしょうか。  

一方で、若手オーナーや新規参入者が、時代のニーズをつかんだ商品構成や店の構えで人気になる店を作る、あるいは、ロス率を減らす工夫を凝らす店が出てきています。

ブームにあやかろうとした新規参入者や、変化することで失敗を恐れる老舗が、時代から取り残された可能性も否めません。  

ここに、パン屋倒産が相次ぐもう1つの理由が見えます。老舗にせよ、新規出店にせよ、町に愛される努力をし続けない個人店は定着が難しいのです。

商品の質はもちろん、ハード・ソフトのどちらかあるいは両方の問題で店の雰囲気が悪くても、客離れは起こりやすいです。  

客離れを恐れ、コストの上昇を価格転嫁できない店も多いと思われますが、それでは持続可能な商売になりません。

例えば店頭に張り紙をして説明するなど、価格上昇を認めてもらう努力はしているでしょうか。ふだんから客とコミュニケーションをしていてファンが多い店なら、コストに見合った販売価格のアップはできるはずです。  

こうして分析してみると、パン屋の倒産ラッシュは、変化に対応できない店が淘汰されている現象と言えなくもありません。

総務省家計調査による2人以上世帯のパンの消費金額自体は、2010年以降上昇傾向にあり、パン自体の人気は今もあるからです。

消費者の目は厳しいですが、インフレが必要な時代になったことも理解されてきています。

インフレは、消費者であると同時に働く人でもある皆が、必要としているからです。  

時代に合った質と価格を提供すべく、パン屋も発想の転換を求められています。

そして、消費者である私たちも、価格上昇を受け入れなければならないでしょう。

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