物価高が続くなか、苦しい家計を助けようと、実質値下げのキャンペーンなどを展開する小売店やメーカーの存在。そんな光景を苦々しくみている、氷河期世代の男性の姿がありました。
そんな男性の背景には、時代に翻弄されてきた苦労がありました。
2月の東京都区部の消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比で2.5%上昇と、伸び率は1月の1.8%から拡大しており、全国も同様に拡大していました。
一方で、生鮮食品を除く食料は5.3%上昇と、前月の伸び率5.9%を下回った。伸び率の縮小は6カ月連続でした。
いよいよ物価高もここまでか 物価高の苦しみからもおさらばかといえば、この低下は2022年から2023年にかけて行われていた全国旅行支援の影響によるものとされ、依然として物価高の状況は続いているというのが大方の見方です。
今回の物価高は2年近くにも及び、もはや値上げのニュースに鈍感になってきましたが、振り返ってみると、まさに歴史的な物価高、といえそうです。
たとえばマヨネーズ。昨今の卵の出荷減もあり、大きく値を上げました。
2021年6月、マヨネーズ(ポリ容器入り/450g入り)の全国平均価格は232円。1ヵ月後には254円と9%の値上がりです。
その後、段階的に値上げは続き、2023年12月には362円になりました。この1年半でマヨネーズの価格は1.5倍になったのです。子どもから大人まで大好きなポテトサラダも、思わず作るのを躊躇してしまうほどの値上げです。
あらゆるものが値上がりして誰もがため息をつくなか、メーカーやスーパーでは、さまざまな方法で消費者をバックアップしています。たとえば、都内のあるスーパー。単価的には値下げになるよう、ファミリー対応の大容量パックの品揃えを充実。子育て世帯には嬉しいキャンペーンで家計を応援しています。
そんななか、 誰がこんなに使い切れんだよ! そんな愚痴を投稿したのは、いわゆる氷河期世代真っ只中という、都内在住の40代男性です。
マヨネーズを買いに来ましたが、そこにあるのは、大容量のファミリーパックだけです。いつもは置いてある一人暮らしに嬉しい少量パックはどこかに追いやれれてしまったことに、独身の男性は思わずイラっとしてしまったといいます。
男性が独身、40代にして非正規社員の理由を紐解いていくと、時代に翻弄された氷河期世代の苦労が凝縮されています。 男性が大学を卒業したのは2000年。厚生労働省『厚生労働白書』によると、就職氷河期のなかでも2000年は底の底でした。
大卒就職率は91.1%まで落ち込みました。
9割は就職できているのだから問題ないじゃない と思うかもしれませんが、希望しない職業にも関わらず「就職できるだけまし」と進路を決めた人が多数でした。
正社員になれたとしても、超がつくほどの買い手市場に加え、いまのように従業環境が良い時代ではなく「嫌なら辞めてしまえ!」とパワハラも横行。耐えきれずに退職を選ぶ人も大勢いました。
男性も希望する職ではなく、就職浪人したかったものの就職せざるを得なかった状況にあったといいます。その理由のひとつが「奨学金の返還」。大学を卒業とともに始まる返済に、働かざるを得なかった、というわけです。
労働者福祉中央協議会『奨学金や教育費負担に関するアンケート』によると、借入額の平均は300万円強、月々の返済額は1.5万円ほどです。
平均返済期間は平均14.5年です。2000年当時の最低賃金額(全国平均)は659円でした。
時給1,000円を超えるアルバイトは珍しく、とてもフリーターをしながら奨学金の返済はできなかったと振り返ります。
また同アンケート調査でも指摘している通り、奨学金の返済負担は、ライフイベントにも大きく影響。「結婚」では37.5%、「出産」では31.1%、「持ち家取得」では32.8%が、奨学金の返済が影響したと回答しています。
40代・独身の男性も「奨学金の返済がなければ……」と振り返り、思わず、ファミリーパックだけが並ぶスーパーの陳列棚にイラっときてしまったわけです。
奨学金を払い終えたのは40歳を目前にしたとき。ちょうど心身ともに壊れ、退職を決意したといいます。それ以来、非正規社員として生計を立てています。
厚生労働省『令和4年 賃金構造基本統計調査』によると、男性・40代後半の非正規社員の平均月収は24.4万円、手取りにしたら18万円ほどです。
一方、正社員であれば月収39.5万円。1.6倍ほどの給与差が生じています。
男性の場合、正社員としてのキャリアもあるので、希望すればどこかしらの正社員になれる可能性は高いといえます。
問題は、新卒時に就職できずに、非正規社員として社会人生活をスタート。一度もチャンスを掴めずにいる人たちです。
就職氷河期世代における非正規社員は約400万人です。そのなかには、一度も浮上できずに、苦汁をなめてきた人たちが多くいます。
このような人たちを支援する動きがここ数年で始まっていますが、その支援も十分とはいえない状況です。
そんななか新卒者は売り手市場状態、子育て世代への異次元の少子化対策に関心は集まり、若者への追い風に何も恩恵を受けておらず、このまま支援も尻つぼみになっています。
一度も浮上できずにいる氷河期世代は、再び忘れられた存在になりつつあります。