氷河期セミリタイア日記

就職氷河期世代ですが、資産運用でなんとかセミリタイアできました。残りの人生は、好きなことをしながら自由に生きていきます。

労働人口の減少が新たなインフレにもつながる

現在、日本人の28パーセントが65歳以上で、この割合は世界でも群を抜いて高いですが国連の予測を信じるなら、イタリアは2030年、ドイツは2035年ごろ、中国は今世紀なかば、アメリカは2100年にこの水準に達します。  

これほどの高齢化社会は誰も経験したことがなく、どのようなものになるのか知りたければ日本を見るのがいちばんです。  

一時は経済の輝く星だった日本だが、1990年ごろに生産年齢人口がピークに達すると、ほぼ同時に経済の勢いも止まり、そこからすぐに立ち直れなかったのは、明らかにある人口動態の要素と関係があります。

それは、日本が漸進的な人口減少という足枷をずっと引きずってきたことです。  

日本の株式市場は1980年代末に到達した目がくらむような高値を、30年たっても更新できていません。

過去30年間で、日本のGDP(国内総生産)成長率が年率2パーセントを超えたのは5回だけだったが、その前の30年間には2パーセントを超えなかったのが2回だけでした。  

経済学者が言う「長期停滞」、すなわち先進国世界における経済成長の長期的な鈍化について考えるとき、この状態に陥っている国々のなかで日本が長くリーダー的存在であることを忘れてはならないですが、もうひとつ注目に値するのは、日本が高齢化のリーダーでもあり、それが長期停滞と無関係ではないということです。

経済成長の鈍化は持続的な低インフレを伴う。日本の年間インフレ率が2パーセントを超えたのは、過去30年間で二度だけです。

経済は、物価上昇と失業のトレードオフに翻弄されながら進んでいくものですが、そのような経済は若い人口の増加を前提にしていたと言っていいのです。

その前提が崩れると、よくても経済は伸び悩み持続的な低インフレと相まって、低金利にも大規模な景気刺激策にもあまり反応しなくなるようです。

実際に高齢化社会は、景気刺激策が打たれても、それで不景気とデフレを防ぐのがやっとという状態になっています。  

高齢化が進むイギリスでは労働争議の件数が減っていて、1970年代や80年代前半に比べると数分の1でしかありません。

多くの経済国で完全雇用がほぼ達成されているにもかかわらず、労働争議は減っており、かつて高雇用は労働の戦闘性を保証すると思われていたのではなかったでしょうか。

どうやら世界経済も、世界人口と同じく、老化しつつあり、高齢化社会で経済が伸び悩む最大の原因は、労働人口の減少です。

日本はその最たる例で、アメリカのように以前は人口増加と経済増加が調和していた国々にもあてはまります。  

経済生産高を一人ひとりの生産高を足したものだと考えると、人が多ければ多いほど、より多くのモノとサービスを生産でき、人の技能や教育水準が高ければ高いほど、より多くのものを生産できます。

経済成長は人口増加と生産性向上の両方によってもたらされ、このふたつが合わさったものが「人的資本」であす。  

アメリカの現状を分析すると、21世紀に入ってからの労働人口増加率の鈍化による影響が、労働人口の教育と経験の増加による影響を上回っていて、その結果、人的資本が経済成長の足を引っ張っています。

1970~80年代に、人的資本の増加が年率1.5パーセント以上の経済成長に寄与していたのとは対照的です。

じつは中高年労働者には利点がある。生産性と収益力のピークはキャリアの後期に訪れるので、中高年労働者のほうが活力は劣るかもしれないが経験は豊富です。

また本質的に要求における挑戦性が低いと考えられるので、賃金上昇圧力を、ひいては物価上昇圧力を抑えることにつながります。

労働人口の増加が止まれば、職を得るのも維持するのも容易になり、経済理論に反して、完全雇用はもはや職場での権利主張につながらないようです。

中高年労働者は対立を求めたがらず、危険を冒したがらないのです。フランスの黄色いベスト運動は、この国のデモや街頭行動の伝統を存続させる役には立つかもしれません。

また高齢化社会は社会全体の嗜好や要求の変化を伴うので、課題もあるますが、起業家や企業に明確な機会をもたらします。たとえばラベル表示の文字を大きくするといった簡単なことで、特定の商品を差別化できます。  

高齢化の経済への影響は日本で始まり、急速に世界に広がりつつあります。欧米の金利がこれほど長く低水準で推移しているのも、人口変動の影響かもしれません。

労働市場に新たに参入する若者の数は減少し、イタリアの25歳未満の人口は、2050年には1980年の半分になり、韓国でも20代前半の人口が10年前にピークに達し、2050年までには半減するでしょう。  

その一方で、わたしたちの経済モデルは自由貨幣〔経済学者シルビオ・ゲゼルが提唱した貨幣制度。時間の経過とともに価値が減るのが特徴〕に近いものを使った延命装置で維持されています。

以前は高齢者が老後の資金のために債権を売るので金利が上がると期待することもできましたが、今では金利の低下を促すほかの力のほうが強いことが明らかになっています。

最近「ポスト現代貨幣理論(PMMT)」という言葉をよく耳にしますが、この理論によると、公的部門の役割は民間部門が不安定な場合に投資するだけではなく、恒常的に完全雇用に必要なレベルまで需要を増加させることにあります。  

民間部門はあまりにも硬直していて、もはや国の支援がなければ経済を引っ張ることができないからだというのですが、この点は少なくとも部分的に人口動態に起因しています。

労働市場に入ってくる若者が少なく、出ていく退職者は多く、人口は高齢化している──この3つが重なる環境においては、投資家も労働者も市場が提供する機会ではなく、国が提供する安全に目を向けるようになります。  

ゼロ金利あるいはマイナス金利が長く続いた結果、住宅、債券、株式の価格が上昇し、これらを保有している高齢者の富がさらに増加しています。

高齢者人口は投資に際してより短期で安全な回収を求める傾向にあります。

高齢者が新事業を始めたり新会社を設立したりすることはあまりなく、ベンチャー・キャピタル・ファンド〔未上場の新興企業への投資〕や株式市場に投資せずに安全な社債国債を求めるので、その価格が上昇し、利回りは下がります。  

資金調達が容易なので政府は財政赤字を出しても前ほどコストがかからず、政府が財政赤字を出さざるをえない必要性も増していきます。人口の高齢化とともに人々は保守的になり、需要も投資も不十分で、国の介入なしには完全雇用を維持できなくなるからだ。新型コロナウイルス感染症の危機はこうした圧力をさらに強めました。  

高齢者人口はリスクの低いプロジェクトにより多くの資本を投じるので、経済はますます失速します。

これは日本とドイツで実際に起こっていることで、どちらも世界のものづくりセンターとしての評判を失い、低成長に甘んじています。

一方、経済学者のチャールズ・グッドハートとマノジ・プラダンは、高齢化の経済への影響について最近別の見方を提唱し、労働力の減少により賃上げ要求が可能になり、それがきっかけとなって新たなインフレスパイラルに向かうとする見方です。

日本がそうならずにデフレのまま推移したのは、1990年ごろから中国と東欧が世界経済に参加したことによって世界の労働供給が著しく増加し、日本がそれをうまく活用できたからだといいます。  

インドとアフリカの人口動態は健全だが、中国のように世界の工場になることは難しいと思われ、数億人規模の新しい労働力によるデフレ効果は終わりを告げます。

そして世界は労働力不足に陥り、労働者は賃金の引き上げを要求し、それが物価上昇へとつながっていきます。  

繰り返すまでもなく、人口減少に伴い景気が減速することは間違いないと思われますが、その景気減速がデフレではなくインフレを伴います。

たしかに世界各地でインフレ率上昇の兆しが見えていますが、それが新型コロナウイルス感染症からの立ち直りによる一時的なものなのか、もっと根の深いものなのかを判断するのは時期尚早です。

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