氷河期セミリタイア日記

就職氷河期世代ですが、資産運用でなんとかセミリタイアできました。残りの人生は、好きなことをしながら自由に生きていきます。

物価高でも賃金が上がらない「ひとつの理由」

2023年は値上げに振り回された1年でしたが、相変わらず賃金が物価に追いつかない状況です。物価が上がっているのに、なぜ賃金が上がらないのかという理由ははっきりしています。現実から目をそらしていては、いつまで経っても日本人は豊かになれません。

日本の物価は継続的に上昇を続けており、日本経済が、長期にわたって物価が低迷する、いわゆる「デフレ経済」から、物価が上がり続ける「インフレ経済」に転換したのはほぼ確実です。

こうした中、物価が上がっているにもかかわらず賃金が上昇しないため、多くの国民の生活が苦しくなっています。  

物価が上がっているのに、なぜ賃金が上がらないのかという悲鳴にも似た声があちこちから聞こえていますが、現状の日本経済で賃金が上がらないのはある意味で当たり前のことです。  

政府関係者や一部の専門家は、物価が上れば、自然に賃金も上がるかのような説明を行っていたが、そのようなことは基本的にありえません。

賃金の上昇を実現するには企業の経営改革が必須要件であり、今の日本企業の経営状況では、そのレベルに至っていないというのが悲しい現実です。  

物価が上がっても、それ以上に賃金が上がらないというメカニズムは、ごく簡単なモデルで説明できます。  

例えば物価上昇率が10%だったとすると、100円だった商品の価格は1年後には110円になっている一方で、その商品を仕入れたり、開発するために70円のコストがかかっていたのだとすると、コストも同じように10%上がるので、物価上昇後のコストは77円となります。

価格が100円の場合、当該企業の売上総利益(いわゆる粗利益)は、仕入れコストの70円を差し引いた30円となる一方、価格上昇後の粗利益は、110円から77円を差し引くので33円になります。

利益の絶対値は3円増えていますが、利益率という点では、100円の時も110円の時も同じく30%なので、実質的には何も変わっていません。

利益率が上がったわけではないので、多くの経営者は増えた利益の3円分を従業員の賃金には回しません。 

単純に物価が上がっただけでは何も変わらないということです。

このケースでは、状況に変化がないだけマシですが、現実はそうでないことも多いのです。  

製品やサービスにもよりますが、コスト増加分をそのまま価格に転化できる企業はそれほど多くありません。

たとえば米アップルが提供するiPhoneのように、多くの人が「他の支出を犠牲にしても買いたい」「ないと困る」と考えるような魅力的な商品ならば、企業側は容易に価格を引き上げられるでしょう。  

だが、それほど魅力的ではない商品の場合、企業はコスト増加分を価格に十分に転嫁できません。

さらに言えば、大手企業の下請け的な仕事をしている中小企業の場合、大手企業が買い叩きなどを行うため、コスト増加分をまったくといってよいほど価格に転嫁できないこともあります。

そうなると、先ほどのケースにおいて物価が10%上がっても、価格が据え置かれた場合、価格は100円のままで、コストだけが70円から77円に上がるということが十分にあり得ます。

このままでは利益が減ってしまうため、企業の中には従業員の賃金を減らすところさえ出てくるのです。 

ストレートに言ってしまえば、一部を除いて日本企業の多くは、こうした状況に陥っており、物価が上がっても賃金を上げることができず、賃金を上げるためには、企業がより魅力的な製品やサービスを開発し、物価上昇分以上に価格を引き上げる必要があります。

この話を経済学的に説明すると、従業員の賃金というのは企業の生産性に比例するものであり、(コスト削減を行わずに)企業の生産性を引き上げるには、企業が生み出す「付加価値」を増やすことが絶対要件です。

したがって、ただ物価が上がっているだけでは、賃金は上がりようがないのです。  

意図的なのか、無意識なのかは不明だが、政府や一部の専門家はこの重要な事実を国民に説明していません。

このため、多くの国民は物価が上がれば賃金は上がると誤解し、いまだに一部の国民は状況を理解できずにいるのです。  

このような本質から目を背けた説明が行われた背景はハッキリしています。

企業の業績を拡大するためには、企業の経営や経済全体の仕組みを変革していく必要があるが、多くの関係者がそれを望んでいないからです。  

物価が上昇しても、それを上回る価格を企業が提示するためには、製品開発やマーケティングのあり方を変えなければなりません。

そのためには優秀な人材を積極的に抜擢する必要があり、従来型の横並び、年功序列の組織は維持できなくなります。

こうした変化を嫌う企業は多く、従来型組織からの脱却ができないまま現在に至っており、付加価値を上げることができずにいます。  

仮に企業の経営改革が不十分であったとしても、デジタル化だけでもある程度、進めていれば付加価値向上にそれなりに貢献したはずです。

企業の付加価値を増大させる最も手っ取り早い方法が、経営のデジタル化であることは、ほぼ全世界的な共通認識となっており、そうであればこそ諸外国の企業はIT化に邁進しています。  

ところが日本企業はデジタル化についても異様なまでに消極的であり、このままでは企業の付加価値など上がりようがありません。  

今年の春闘は、昨年に引き続き、政府が経済界に対して賃上げを強く要請していることもあり、5%程度の賃上げが実現すると予想されますがこの数字には定期昇給分が含まれており、本当の意味での賃上げに相当するベア(ベースアップ)は3%程度にとどまると考えられ、これでは物価上昇にはまったく追い付いていません。

さらに言えば、これらの数字はあくまで大企業のものであり、中小企業にはその恩恵はまだ十分に及んでいるとはいえません。  

国民の実感として生活がラクになるためには、継続的に賃金が物価を超える必要があり、これを実現するためには、単なる金融政策や財政政策だけでは不十分です。  

企業の経営を本質的に転換する政策を実施しない限り、日本人の賃金が継続的に上がっていくことはなく、この現実をあえて説明してこなかった政府や一部専門家の責任は重いと言わざるを得ません。  

企業の経営改革の多くが苦労を伴うものであり、そうであればこそ得られる成果も大きいのです。  

まずは上場企業の経営者に大きな責任があるのは当然のことですが、そこで働く従業員にも責任の一端があります。

企業が提示した安い賃金を唯々諾々と受け入れているだけでは、いつまでたっても従業員は企業にナメられたままです。

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