米国債のイールドカーブはここ1年3カ月にわたり逆転しています。
つまり、10年物米国債の利回りが2年物の利回りを下回っています。
この逆イールドは広く知られているように、強力な景気後退指標の一つです。
逆イールドが長期化するということは、深刻な問題が進行中であることを意味します。
しかし、ここ数週間の長期債利回り上昇で、逆イールドは急速に縮小しています。
7月時点では107.5ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の逆転だったが、現在は31.7bpにまで縮小し、逆転の度合いは約1年で最も小さくなりました。
逆イールドはリセッション(景気後退)が始まる直前に解消される傾向があります。
明らかに景気後退が迫っている時は、中央銀行が利下げを開始し短期債利回りを低下させるからだと考えられます。
SMBC日興セキュリティーズ・アメリカのジョー・ラボーニャ氏による以下のチャートは、景気後退の前にイールドカーブが逆転し、全米経済研究所(NBER)が公式に定義する景気後退が始まるまでには逆転が解消されていることを示しています。
これは恐ろしいことのように聞こえます。
しかし、ここでもう一つの要素を加える必要がある。前述の通り、カーブの逆転解消は短期債の利回り低下によって起こることが多いのです。
専門用語では「ブルスティープニング」と呼ばれます。
今回は違います。
長期債の価格下落(利回り上昇)による「ベアスティープニング」が原因です。
さらに、逆イールドの状態から始まる特殊なベアスティープニングです。
このような条件が重なることは非常にまれだが、そうなった場合は通常、近いうちに景気後退に入ることをキャピタル・エコノミクスの以下のチャートが示しています。
このようなベアスティープニングの後には一般的に「長期債利回りと株価指数の大幅な下落が起こる」とキャピタル・エコノミクスは結論付けています。
しかし、イールドカーブを気にするべき理由は、理論的には、逆イールドで銀行が利益を上げるのが難しくなるため、景気後退をもたらす要因になり得ます。
ただ、銀行はかつてほど金融システムの中心ではなくなっています。
逆イールドは金融関係者にとっては問題だが、ほとんどの家計や企業の日常的な金融環境に大きな影響を及ぼしていません。
逆イールドが誤ったシグナルを発している可能性すらあります。
逆イールドの重要性が知られるようになった今、それが人々の行動を変え不況のリスクを軽減することもあり得ます。
とは言えイールドカーブはそれだけで存在するわけではなく、コンファレンスボードの景気先行指数(LEI)は、ほぼ既知の情報の組み合わせだとして批判にさらされてきました。
その中にはイールドカーブも含まれていますが、イールドカーブが指標として破綻しているとの指摘もあります。
現在測定されているLEIの前年比と、イールドカーブを除外したLEIの前年比を計算しました。
世界金融危機後の10年間の大半で、イールドカーブはLEIが誤った景気後退の警告を出すのを防いできたように見えます。
この間に景気はしばしば低迷しましたが、金融環境が極めて緩和的だったため実際には景気後退は起こりませんでした。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)以降、LEIはイールドカーブの有無にかかわらず、ほぼ一致している様子です。
これは信頼できる指標で、景気後退の予想を裏付けていると考えるべきでしょう。
結論として、 景気後退なしに今回の経済低迷を脱することができたとしたら、非常に驚くべきことです。
逆イールド縮小のスピードは、景気後退が迫っていることを示唆しています。
しかし、確かなことは何もありません。