日本経済が落ち込んでいるのは「非正規雇用」の増加も大きな要因です。非正規雇用とは派遣社員や契約社員のことです。
今や日本の労働者の37%ぐらいが非正規雇用者です。
非正規雇用の人たちは給料が安く、年収は平均で200万円台から400万円台ぐらいで、正規雇用の人よりかなり低くなっています。これは、この人たちの親世代に比べると、半分から3分の1ぐらいの水準です。
非正規雇用の人は正規雇用の人とは違い、福利厚生が制限されていて、契約がいつ切られるかもわからないので、生活不安が常につきまといます。
そのため、将来が不安なので結婚できない、子どもをつくれないという人がどんどん増えているのです。来年仕事があるかどうかわからない中で、子どもをつくれないという心情はとても理解できます。
非正規雇用が多いのは、今の40代ぐらいの「氷河期世代」と呼ばれている人たちです。 この世代の人がもっとたくさん結婚し、子どもを持ち、家を買えば、日本経済はもっと上向いていたでしょう。
子どもは成長するに従って新しい服やおもちゃが必要で、ご飯もたくさん食べるので、自然とお金がかかるからです。
しかし、氷河期世代の人たちは子どもがおらず、自分の将来も不安なので、あまりお金を使わず、つつましい生活をせざるを得ません。
つまり、氷河期世代の人たちを非正規雇用にしておくことで、日本では消費が落ち込み、デフレ一直線になってしまったのです。
企業としては、人件費を削減するために、積極的に非正規雇用を増やしていったわけですが、それにより、自社の製品やサービスが売れなくなってしまったわけで、本末転倒の感があります。
海外では、給料が安すぎたり、働く環境がよくなかったりしたら、会社に対して文句を言って、それでも改善がされなければ、サクッと転職をします。
中には、仲間を募ってストライキに入る人たちもいます。そうすると経営者側は生産活動がストップして困るので、社員たちの要求を飲むしかなくなります。
ところが、非正規雇用の人たちが管理職や経営者に文句を言ったり、会社を辞めてしまったりするのはなかなか難しいことです。
彼らは文句を言って契約を切られたりするのではないか、今の会社を辞めて次の仕事が見つかるかという不安があるので、ハードな交渉ができないのです。
また、日本では非正規雇用の人が次の仕事を探すには、人材派遣会社に登録し、勤め先を紹介してもらうことが多いので、今の会社でトラブルを起こしたとみなされたら、次の仕事先を紹介してもらえないのではないかという不安もあります。
しかも、非正規雇用の人たちは会社で働く期間が短いので、同じ会社の中につながりのある人が少なく、ストライキを起こす仲間を集めるのも難しいことが多いのです。
日本には労働組合がある会社も多く、この組織が社員を代表して会社と交渉を行います。しかし、労働組合は性質上どうしても正社員で働いている人や会社に長くいる人の意見を優先するようになっています。
労働組合はその会社にいる人たちが組合員になるので、給料が高くて、雇用が安定している正社員が発言力を持つことになりがちです。
もし、非正規雇用の人たちの給料を上げれば、正規雇用の人たちの給料が減る可能性があるので、労働組合としては、非正規雇用の人たちの待遇をよくするような交渉はできないのです。
このように、非正規雇用の人たちが、経営者や管理職の人に対して交渉ができないことを「バーゲニングパワーがない」と言います。
本当は日本政府が非正規雇用の人を増やしすぎてはいけないというルールをつくればよかったのですが、日本政府は大企業からたくさんの税金を集めているので、規制をしていません。
これからも非正規雇用の人をどんどん使い倒して儲けてくださいという姿勢でいるわけです。しかし、政府と大企業のそういった姿勢が日本経済をダメにしているのです。
スイスのビジネススクール「IMD」が毎年発表する「世界競争力ランキング」では、ビジネス効率性などのさまざまな指標を元に算出した各国の競争力をランク付けしています。
日本は1989年から1992年まで1位だったのですが、なんと2022年には過去最低の34位になってしまっています。
日本はマレーシア(32位)やタイ(33位)よりも競争力がないとされています。
ランキングの元となった指標を見てみると、経済状況は20位、政府の効率性は39位、ビジネス効率性は51位、インフラは22位と特にビジネス効率性が足を引っ張っていることがわかります。
日本企業が生産性向上のための投資や改革をほとんど行ってこないために、国際的な競争力を下げていることがよくわかります。
このように、データでは海外と比べて日本がいかに生産性が低いかが明確なのですが、ほとんどの日本人経営者は海外のビジネス環境や国際機関の出しているデータなど全く見ていないので、日本企業がどんなに遅れているかを知らないのです。
日本企業の多くはバブル崩壊のときに苦境に陥ったので、「またそんなことが起きたら倒産してしまう。とにかく何かあったときのためにお金を貯めておこう」と考えています。
また、日本人は事なかれ主義の人が多いので、「何か新しいことをやって失敗したら評価が下がるから、前任者と同じことをやろう。そうすれば、前にこのやり方を考えた上司のメンツをつぶすこともないし、安全に会社員生活を過ごせる」と考えているのです。
しかも、今、日本企業の中で権限を持っているのは、高度経済成長期に子ども時代を過ごしてきた人ばかりです。
彼らの親たちも毎年のように給料が上がり、海外旅行を楽しんだり、最先端の家電製品を買ったりしていました。経済がどんどん成長していたので、毎年同じような仕事をしていれば、自然と結果が出ていました。
一生懸命働いて何か新しいことをやろうという発想はなく、今の日本企業で上の立場にいるのは、なんとなく今までと同じようにやっておいて、子どもの頃と同じように時々旅行したり、おいしいものを食べたりすることができればいいなと思っている人だらけなのです。
そのため、日本の会社はどんどん儲からなくなっていきました。たしかに、内部留保を貯めておけば、経済が落ち込んだときに瞬間的には倒産を免れることができるでしょう。
しかし、そうやって投資に消極的でいると、結局競争力を失い、ゆっくりと倒産に近づいていくのです。それが今の日本企業、日本経済が陥っている現状です。