氷河期セミリタイア日記

就職氷河期世代ですが、資産運用でなんとかセミリタイアできました。残りの人生は、好きなことをしながら自由に生きていきます。

政府のリスキリング戦略からみえるもの

岸田内閣は、以前から「学び直し」に力を入れるとしていました。
とは言っても、企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるなど、業態転換する場合に、自社の従業員のスキルを高める訓練を行う、リスキリングを後援するのか、それとも転職を前提に、個人が学び直しをする「リカレント」を推進するのか、用語も方針も曖昧でした。


ところが、6月に入ってまず「失業給付の申請前にリスキリングに取り組んでいた場合などについて、会社都合の離職の場合と同じ扱いにする」などという方針が出てきました。
用語には混乱が見られますが、政府としては、正確に言えば、転職を前提にした「リカレント」を推進するということらしいのです。
更に続報としては、「社会人の学び直しから、転職までを支援する、政府の新制度の概要」が伝わってきました。


この新制度では、希望者は専門スキルが身につけるための、民間の講座を最大で1年間受けることができ、「1人あたり平均24万円を助成」するといいます。
また、今後3年間で、総計、約33万人の転職を後押しすることを目指すそうです。


では、具体的にはどんな「専門講座」で、「学び直し」をするのかというと、プログラミングとビジネススキルが6割程度、更に医療・介護やウェブデザイン・動画編集といった分野になるといいます。
キャリアコンサルタントという、国家資格を持つ専門家に意見を聞き、転職に必要なスキルや職探しの支援を受けることもできるのだそうです。


政府はこうした施策は、「新しい資本主義」の一環だとして、終身雇用や年功序列といった、日本型雇用システムの転換を目指しているというのですが、全く意味不明な政策です。
2点、非常に気になる点を指摘しておきたいです。

学び直しの内容とは
1点目は、キャリアアップ、スキルアップを目指す上昇志向に乏しいことです。
この「学び直し事業」の「担い手」として、最初に名前が出てくる企業のサイトを見ましたが、月2回更新される学び直しのウェブマガジンに出てくるトピックは、エクセルの使い方や、電話応対講座といった、社会人の初歩向けのものばかりです。

これでは、より大きな付加価値を生産し、自身も十分な収入のあるキャリア形成につながるような、「学び」とは言えません。
日本経済は、バブル崩壊後約30年にわたり、恐ろしいほどの低生産性に苦しんでいるのです。
資源のない日本において、唯一の資源は人材であり、明治維新以降は、ひたすらに人材に投資をすることで、国家を成り立たせて来ました。
1人24万円の税金を投入して、「エクセル」と「電話応対」では全く話にならないでしょう。
例えば、シンガポールの場合は、とにかく国民のすべてが、先進こく型の付加価値を生み出すように、社会人向けのやがく講座を多数用意し、そこに補助金を投入して、経営学修士MBA)や公認会計士CPA)などを取らせ、こくみんがキャリアップを目指すようにしてきています。
その結果として、年収6万ドルの人材が、12万ドル稼ぐようになれば、全体的に国も豊かになるというわけです。
そのようにしてシンガポールは成長し、一人あたりの国内総生産GDP)では、日本には全く手の届かない超先進こくになりました。

今回の企画では、プログラミングなども「学び直し」の一環に上げていますが、そもそも行列や微分方程式の理解が怪しい中では、最新のコーディングは難しいのです。
更に言えば、実際に求められているのは、AIの利用や仮想現実(VR)の実用化など、テクノロジーを文明論のレベルで議論し、世界を変える人材です。
それ以前の問題として、24万円のコースを受講して、プログラム言語の初歩を学んだとして、英語圏やインドなどの人材と競争できるはずもありません。

2番目は、現在しっかり現場を回して、日本経済に貢献している事業会社のことが、かえりみられていないということです。
実務がしっかりしているが、より踏み込んだDXを進めたい、そのために社内人材の底上げをしたいというような、本物の「リスキリング」を推進するような、企業への助成については、今回の構想は対応していません。


それどころか、せっかく現場で責任を果たしていても、「隣の芝生は青い」という錯覚から、勤めている企業を飛び出してしまうような若者を、この「政府事業」は後押ししてしまうという懸念もあります。
24万円分の講習を受けて、プログラミング言語の初歩を学んだとか、エクセルを学んだからといって、キャリアアップになるはずもないのですが、勘違いから現在の職責を捨ててしまうひとが続出するようでは、もともこもありません。
それにしても、不思議なのはこの「学び直し」事業の中に、現在もっとも日本経済が必要としているスキルである、英語、データサイエンス、財務会計国際法務といった内容が除外されているということです。

なんとも首をひねる内容なのですが、もしかしたら岸田政権は、次のようなシナリオを思い描いているのかもしれません。
それは、「これから給与が上がっていく正社員」で、現状に不満を抱えているが、「高付加価値人材に成長する可能性は薄い層」を、自ら「終身雇用システム」から「降りる」ように仕向けて、日本経済全体としてのコストダウンを図るというシナリオです。

つまり、本来は最先端のレベルでの個人と、全体の競争りょくを高めるための「人材の流動化」とか、「終身雇用制度からの脱却」ということを、まずは中間層をターゲットとして実施する、つまり全国レベルの壮大なリストラを計画しているのかもしれません。

この学び直し事業は、「非正規労働者」も対象としているといいます。
そのこと自体は悪いことではありませんし、非正規の人は制度をうまく活用すれば、年収増につながる可能性はあるかもしれません。

しかし、その一方でこの制度のメインターゲットは、「生産性の上がらない正規雇用」の人材であり、悪く言えば自分で辞表を書かせて、終身雇用契約から自分で降りて、将来高コスト人材になる可能性から、外れてもらうという意図が感じられます。

かつて昭和の時代の日本は、分厚い中間層が当時の世界のニーズに合致する、高付加価値製品の製造に高い生産性を発揮していました。
今は、国家レベルで経営が誤っているために、こうした分厚い中間層は消えました。

そんな中で、今回の企画は、中間層を鍛え直して、世界と戦うのを諦め、グローバリズムに適応できるのは一部のエリートだけで、それ以外はコストダウンの対象という、実に後ろ向きで敗北主義の思想からできているように思えてなりません。
これにより一層、階級社会への固定化が進みます。
何故このタイミングかというと、一つの仮説が成り立ちます。

日本銀行は、やがて「異次元緩和」の出口を模索するでしょうが、その際に一定の期間、日本は円高に直面する可能性があります。
そうなれば、特にたこくせき企業の場合は、「日本語と紙とハンコと対面」に縛られた、国内の「事務コスト」は国際的な連結決算の中で、一気に削減が求められるでしょう。

その時に備えて、用意しておくべきコストカットの一つが、この「33万人転職構想」なのかもしれません。
岸田政権はそんな意図はないと言い張るかもしれませんが、結果的にそのような推移となる可能性は十分にあります。
更に、日本経済全体の生産性、あるいはGDPへの影響ということでは、33万人を転職させたことで、かえって全体としてはマイナスの効果となる危険性も否定できません。

にほんブログ村 ライフスタイルブログ セミリタイア生活へ
にほんブログ村