氷河期セミリタイア日記

就職氷河期世代ですが、資産運用でなんとかセミリタイアできました。残りの人生は、好きなことをしながら自由に生きていきます。

昼食はパン2つ、貯金80万円…「安楽死」したい53歳男性の「絶望的現実」

九州地方に住む木村さんは1993年に地方の国立大を卒業。新卒採用ではスーパーを運営する会社に正社員採用されました。  

店長になって売り上げを伸ばしたが、30代前半の月給は手取り20万円程度。不景気の煽りを受けた会社全体の業績が下がり、ボーナスがカットされました。  

長時間労働は常態化し、木村さんは休みなく働いて体調まで崩し、これ以上は収入が増える見込みがないと悟り、転職を決めました。  

派遣社員として働きながら転職活動を続け、ある会社に正社員採用されたが会社は2年で倒産しました。40代後半になっていた木村さんは、就職活動の厳しさを肌で感じるようになりました。

正社員の求人があったとしても介護、建設、運送業が多いく、事務系の仕事は非正規しかなく、非正規の職を転々とせざるを得ませんでした。  

それでも2年前に働いていた職場は契約社員でも月給30万円が出て、交通費が月6000円支給されました。ボーナスは月給の4ヵ月分以上の支給で、木村さんには十分な条件だと思え、意気揚々と、同僚の嫌がる仕事は自ら代わって何でもこなしました。  

ただ、正社員ではないため、「給与が上がっても、地味な生活をしとかんと」と、昼食はパン2つだけの生活でした。給料日だけは600~700円の弁当を買って食べることが、唯一といっていい贅沢でした。できるだけ節約して月10万円を貯金に回しました。  

これからの生活に期待しましたが、次年度の採用枠がなくなり契約は更新されませんでした。  

就職氷河期世代向けの求人があっても、地元でブラック企業として有名なところばかりで、なんとかして自治体の外郭団体の「会計年度任用職員」という非正規の働き方で職を得ましたが、給与は月12~13万円と交通費が支給されるだけでした。  

「月給が30万円あった時の仕事に対するモチベーションは高かったです。きちんとした収入を得られるという『安心』は、大事な要素でした。朝、昼、晩と1日3回の食事をとることができてこそ、明日も仕事を頑張ろうと思えるのではないかと、改めて感じました」  

収入が限られ雇用も不安定では、出来る限りの節約をしながら生活していくしかありません。  

安いガソリンスタンドを見つけてガソリンを入れ、月に5000~6000円の節約につなげて、買い物はできるだけ自転車を使います。  

物価高の影響は大きく、卵も牛乳もティッシュもトイレットペーパーの値段も高くなり、10円でも違えば安い店を行き来して買います。  

ポイントカードを駆使してお得な買い物をしようと「ポイ活」(ポイント活動)にも励む。何種類もあるポイントカードは「楽天」に紐づけました。

なるべくポイントが何倍かつく期間に買い物をする。ガソリンスタンドでもポイントが溜まるため、侮れません。  

そうして溜まったポイントで、普段は4000~5000円する散髪代でもポイント割引を使って2000円に抑えます。

ちょっとした贅沢は、5食1000円のラーメンをポイント割引で400~500円で買って食べることです。

スーパーの正社員だった2000年頃、友人の勧めで株式投資をしていました。株価は上昇して配当金が年20万円ほどになり、重要な生活費の一部となりました。  

それでも貯金を取り崩している状態だ。貯金は70~80万円しかなく、いつ底をつくか分かりません。

冬はストーブをつけず、寒い夜は布団にくるまって本を読みました。  

写真を撮ることが趣味で、年に一度程度、大学時代に過ごした四国を訪ねます。

旅費を工面するため、背に腹は代えられないと抵抗感があったマイナンバーカードの登録を行い、ポイントを得ました。  

いつか四国に住めることならと思いますが、同居する父親は80代半ば、母親は70代後半だ。身体が弱くなった両親を置いて出ることはできません。

日常的に家事など木村さんが担う場面は少なくありません。

今は両親が健康でもいつ介護が必要になるかも分かりません。実家から通える範囲で仕事を探さなければならないことも、非正規雇用が続く一因になっています。  

「ヤングケアラーは問題視されていますが、僕らのようなミドルケアラーは見捨てられていると感じます。このままでは年金はもらえたとしてもわずか。自分の老後は生活保護を受けることになるのではないでしょうか」   

複数のキャリアカウンセラーが「非正規雇用が長く続いた場合、45歳以上の正社員採用は厳しい」と口を揃えるなか、職探しは年を重ねるごとに厳しくなります。

岸田政権では、「リカレント教育」「リスキリング」という言葉で社会人の学び直しを重視していますが、それは正社員として働くベースがあってこそできるものです。  

そもそも正社員と非正社員とでは、仕事を通じて技能を身につける機会や、業務時間外に研修を受ける機会ですら差が生じています。

厚生労働省の「能力開発基本調査」(2021年度)によれば、計画的なOJT(仕事を通じて技能を身につける)を実施した事業者の割合は、正社員については59.1%ですが、正社員以外については25.1%と少ないのです。

木村さんには、国がいうような「資格を取ってキャリアアップ」は絵空事にしか思えません。  

「正社員でなくても、せめて手取り20万円ないと厳しい。岸田首相が『所得倍増』と言った時は期待しました。非正規が多いなかでは最低賃金で時給1500円の実現も必要だと痛感しています。ところが首相はすぐに『資産倍増』と言い換えて絶望しました。そもそも資産を形成するだけの所得がないのですから」

労働者に占める非正規雇用の率はバブル崩壊前の1990年は約2割だったが、現在は約4割と倍増しています。

2022年の非正規雇用労働者は約2100万人。そのうち木村さんが該当する年齢層の45~54歳は20.8%を占めます。

就職氷河期世代が含まれる35~44歳でも15.3%が非正規雇用です。  

1991年のバブル崩壊、1997年の金融不安、2001年のITバブル崩壊、2008年のリーマンショックなど、不況が訪れると経済界は決まって雇用の規制緩和を主張し、国は労働者を見ずに経済界を見て非正規雇用が生まれる構造を作ってきました。  

かつて家計の補助の意味合いが大きかったパート労働などではなく、正社員に置き換わる形での非正規雇用が増えていったことが、就職氷河期世代の苦難となったのです。  

当然、賃金は減っており、国税庁が毎年発表する「民間給与実態統計調査」では、2021年の給与所得者の平均年収が443万円で、平均年齢は46.9歳。正社員と正社員以外で平均年収を見ると、正社員は508万円、非正規は198万円と差が大きいのです。  

平均年収443万円というのは、あくまで平均値で中央値は低く、年収の分布を見ると、最も多いのが「300万円超400万円以下」で、全体の17.4%を占めています。

次いで多いのが「400万円超500万円以下」の15.0%、3番目が「200万円超300万円以下」の14.8%で、3人に1人が200万~400万円の間の年収となっています。  

ここ何年と、その傾向は変わっていない状況について、木村さんは政治に対する不信感が募ります。   

「雇用について、国はずっと逆のことをしているのではないでしょうか。2001年発足の小泉純一郎政権の『構造改革』に始まり、今も『身を切る改革』『規制緩和』『雇用の流動化』というフレーズに人気が集まりがちですが、それで一体、誰が救われているのでしょうか? むしろ、苦しむ国民が増えているのではないでしょうか?   

雇用の流動化といっても、失業した時に希望が持てる仕組みは、ないに等しいと感じています。安定した雇用と収入が基本としてあり、明日に希望を持てたほうが、個人の生産性は上がるはず。そういう社会を目指すべきです。

木村さんは現在、53歳。「この年になって何も遺していないし、もう結婚はできんでしょう」と諦め顔です。  

今や日本の平均年収は443万円で他国から遅れをとるばかりでなく、中間層が沈みゆく状態にあります。そもそも岸田首相が『異次元の少子化対策』というのであれば、雇用の質を上げ、安定化させることが必要不可欠。それができないのは、長く続けた雇用の規制緩和を否定しなければならないからではないでしょうか。  

「今でも安楽死したいという気持ちが半分以上を占めています。ただ、もし叶うのであれば、今の私の希望は、四国に移住することです。それが無理なら、やっぱり……スイスに移って安楽死するしかないですね。死ぬ時は、自分でその時を選びたい」  

それでも、同居する両親の存在に支えられて日々の生活を送りながら、政治に関心を寄せています。  

まだ望みはあると思うのです。田舎だからかもしれませんが、高齢の母がスーパーで買い物をしていると、店の人が重いカゴを運んでくれます。道端で誰かが困っていると、周囲の人が自然と駆け寄って助けてくれます。政治が変われば、まだ社会が変わっていくチャンスはあると思うのです。

全国の自治体議員は、都道府県議会で約2600人、市・区議会で約1万8700人、町村議会で約1万800人もいます(総務省、2021年12月31日現在)。さらに国会議員は衆議院議員で465人(2023年2月13日現在)、参議院議員で242人(2022年7月25日現在)います。  

議員と名のつく人が全国に合計で約3万2800人もいるはずだが、何人の議員が真に人々の生活を守るための政治をしているのでしょうか。  

木村さんは、「今や日本は“衰退途上国”と言われていますよね。この国が滅んでいるのは、困っている人を助けるのではなく、自己責任論を植え付けた政治の結果なのだと思います」と語気を強めます。  

政治は生活に直結し、社会全体の風土をも作ってしまう。その政治を変えるには、諦めずに一人ひとりが票を投じることから始めるしかありません。

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