「日経平均株価4万円超え」「バブル超えの株高」──メディアでは連日“好景気”が報じられていますが、果たしてそれを実感できている人がどれだけいるでしょうか。
日本人の9割は株高の恩恵を受けられていません。
個人で好景気を実感できているのは、基本的に“株を持っている人”だけで、これは日本人の1割程度にすぎません。
例えば高級品を扱うデパートや旅行関連など、株価が上がることで心理的な余裕が生まれて消費が増加する業界には、お金の流れが見込めます。
また株価と不動産は相関関係が非常に強く、実際にこの株高を受けて公示地価はバブル崩壊以後最大の伸びを見せているので、不動産業界は大きな恩恵を受けるでしょう。
そもそも、株価だけがいくら上がっても、肝心の賃金が上がらなければ、豊かさを実感できるはずはありません。
今年の春闘は満額回答ラッシュで、33年ぶりに平均5%以上の賃上げとなり、中小企業でさえ平均4.5%の賃上げ率となりました。この数字だけを見れば、さも賃金が上がって豊かな暮らしに近づいているかのように錯覚しますが、実態は大きく異なります。
この5%には、ただの昇給分も含まれているのです。日本企業の多くは年功序列で、年次が上がれば自動的に賃金も上がる。その分も合わせての5%なので、厳密には賃上げとは言えません。
定期昇給分を差し引いた給与水準を底上げするベースアップ(ベア)は3%台。前回のベアは2%台だったので賃上げ率は上昇しているように見えますが、この2年で10%近く物価が上がっているのには、まったく追いついていません。
事実、厚生労働省が3月7日に発表した毎月勤労統計調査によると、物価上昇分を除いた実質賃金は22か月連続のマイナスとなっています。
岸田政権は声高に「賃上げ」を叫んでいますが、実現しているとは到底言えません。株価がいくら高騰しても、春闘が満額回答だったとしても、大多数の国民は「貧しいまま」ということなのです。
このままでは国民の不満が高まって政権がますます危うくなるのは想像に難くありません。岸田政権としても、賃上げを切に望んでいるのは本当でしょう。
しかし、充分な利益を出せずに賃金を上げたくても上げられないような“ダメな企業”ばかりが生き残っているのがいまの日本の現状です。
それこそが低賃金の温床になっているという面があります。
なにより、いまの株価高騰は、企業の業績がよく、株価も賃金も右肩上がりだったバブル期のような「実態を伴うもの」とはかけ離れています。
円相場は2021年初頭には1ドル=100円台だったものが、ここ1年の間は150円台で推移することも珍しくなくなりました。
わずか2年ほどで、日本円の価値は3分の2に暴落したといえます。諸外国からみれば、いまの日本は株も不動産も、それまでの3分の2の価格で買える大バーゲンセール状態です。
つまり、外国人投資家たちがこぞって日本の株を買い集め、その結果株価が上がっているだけです。
そのため、今回の株高でいちばん利益を得ているのは外国人投資家なのです。
この株高で儲けを得て金持ちになったのはごく一部の富裕層と外国人だけなのです。
1980年代は多くの国民がその恩恵を受け、誰もが「もっと景気がよくなるに違いない」と期待しすぎた結果バブル崩壊につながりましたが、株高に実態が伴っていないいまはもはや、崩壊するほどのバブルすらありません。
ほとんどの日本人にとって「実感なき株高」なのです。