当たり前ですが、日本酒の原料は「米」です。米だけで作った酒を「純米酒」といいます。
ところが、この純米酒は値段が高くついてしまいます。
そこで登場するのが「醸造アルコール」です。
「醸造アルコール」とは、サトウキビや砂糖を作る際に副産物として生ずる「糖蜜」やでんぷんを原料に作られる蒸留酒のことです。アルコール度はほぼ100%です。
この「醸造アルコール」は味や香りのない無味無臭の酒です。ちょうど「甲類焼酎」みたいな感じです。
これを製造の過程で添加すれば「カサ増し」ができるのです。
もちろん無制限に添加していいというわけではなく、「本醸造酒」の場合は主原料の白米1トンに対し、120リットル以内と制限されています。
「醸造アルコール」を添加した酒は「普通酒」「一般清酒」とも呼ばれます。私たち業界人は「アル添(酒)」などと呼んでいます。
今、日本酒で最も多く出回っているのが、この「アル添酒」です。
自宅にある酒のラベルを見てみてください。
見分け方としては、原材料に「醸造アルコール」と書かれているのですぐにわかります。
【「清酒」(アル添酒)の原材料例】 米、米麹、醸造アルコール、糖類、酸味料 ちなみに、純米酒の原材料表示は「米、米麹」だけとなっているはずです。
「醸造アルコール」については「日本人が知らない『激安のお酢』のヤバすぎる裏側」にも書いているので、興味のある方は参照してみてください。
この「醸造アルコール」を使えば、「1本の純米酒」から「3本の酒」を作り上げることも簡単です。これが「3倍増」という作り方で、作り方は以下の通りです。
まず純米酒1本を用意します。
純米酒のアルコール度数が15%とすると、「醸造アルコール」を水で薄め、同じ15%にします。これを2本分加えれば、1本から3本の日本酒が出来上がるというわけです。
当然ですが、このままでは純米酒特有の味も風味も薄くなってしまいます。そこで「いろいろなもの」を添加して、味を調えます。
「糖類」(ブドウ糖、水あめ)で甘みを出し、「酸味料」(乳酸やコハク酸など)でさわやかな酸味を、「アミノ酸」(グリシン、アラニンなど)でうま味を加えるといった具合です。
この薄め方ですが、「出来上がった日本酒」を「醸造アルコール」で増量し薄めている、と思っている人もいますが、そうではなく、製造工程の中の「もろみ」の段階で増量します。そうしないと味が調わないからです。
この「3倍増方式」も、ただ糖類や添加物を入れればいいというものではなく、日本酒の繊細な味を作り出すためには、結構な技術がいるのです。
「『醸造アルコール』で薄める」というとあまりイメージが良くないかもしれませんが、醸造アルコールは適度に使えば品質が安定し、味がクリアになり、後味にキレが出るなどの効果があります。
人によっては「醸造アルコール」を添加した日本酒のほうがむしろ好きという人もいますし、ある銘柄の「特別本醸酒」も「醸造アルコール」を添加したものです。
要は、「醸造アルコール」も使い方次第で、たんに「カサ増し」のために使われることで、日本酒本来の味が損なわれることが問題なのです。
「醸造アルコール」を添加することで、コストダウンが可能ですが、これよりもっと安い酒があります。それは「合成酒」です。
「合成酒」は、「醸造用アルコール」に先の要領で「糖類」や「添加物」を混ぜて、酒らしい味に仕立てたものです。
添加物は20種類も使われているものもあります。風味付けのために醸造酒を少し添加することもあります。
酒店やスーパーで並んでいる一番安いお酒がこれです。
これもラベルを見ればわかります。「醸造アルコール」が最初に来ているからです。
【「合成清酒」の原材料例】 醸造アルコール、米、米麹、糖類、小麦たんぱく分解物、調味料(アミノ酸等)、酸味料
この「合成酒」は「激安の料理酒やみりん」にも使われています。
昔は、「合成酒」は一口飲んだだけでそれとわかったものですが、最近では本当に技術が進み、上手に作られていると思います。
とはいえ、「合成酒」は「合成酒」であって、純米酒には遠く及びません。なにより糖類や添加物が入った飲料をたくさん飲むのは、気が進みません。
しかし、「『合成酒』の値段の安さは、ほかに変えられない」という人もいるでしょう。
「ただ安いから」というだけで飛びつくのではなく、何が入っているのか、何が使われているのか「裏側」をきちんと知ったうえで選んでほしいということです。
ぜひ「値段」だけを見て選ぶのではなく、そして「ブーム」や「目新しさ」にとらわれずに、「自分の舌でおいしいと思う日本酒」を選び、上手に愉しんでほしい、と思います。
日本酒の味を引き立てるのは「おいしいおつまみ」です。ぜひ作って、おいしい日本酒とともに召し上がっていただきたいと思います。