氷河期セミリタイア日記

就職氷河期世代ですが、資産運用でなんとかセミリタイアできました。残りの人生は、好きなことをしながら自由に生きていきます。

都心マンション「1億円越えの物件がバンバン売れる」ことが暗示する、日本経済のヤバい未来

都市部を中心に1億円を超える高額物件ばかりが売れるなど、マンション業界に異変が起こっています。
これは景気が良いことが原因ではなく、継続的な物価の上昇、つまりインフレによる弊害のひとつといえます。
なぜ異様なまでにマンション価格は高騰するのでしょうか。
その背景を知ると経済の本質が見えてきます。
不動産経済研究所の調査によると、2023年上半期(1~6月)における、東京23区の新築マンション平均販売価格は1億2962万円となり、前年同期を何と6割も上回りました。
上半期の数字としては調査を開始した1973年以来、始めて1億円を突破したといいます。
それにしても、約8000万円だった前年同期と比較して、一気に5000万円近く上がるというのは尋常ではありません。
昨年と一昨年の比較では、わずかな上昇だったことを考えると、ここ1年の経済環境の変化がいかに激しいのかが分かります。
首都圏全体で見た時の平均販売価格も、前年同期比36.3%増で約8800万円と、23区ほどではないにせよ異様な水準まで高騰しています。
マンションの平均価格が6000万円台というのも、日本人の給与水準を考えるとかなりの異常事態と言えるが、8000万円超や1億円超となると金銭感覚が狂ってしまうレベルです。
多くの人にとって、億ションあるいはそれに類する物件ばかりが売れるというのは理解しがたい状況かもしれません。
しかし、今発生しているインフレという経済現象を冷静に分析すると、一連の値動きも予想の範囲内ともいえます。
好景気を伴わないインフレというのは、単純に物価が上がるのではなく、所得格差や資産格差を助長するという作用があり、国民生活を直結することになるのだが、不動産価格の異様な高騰はその代表的な例といえるでしょう。
日本の消費者物価指数は、デフレが続いていると言われていた10年前からすでに上昇を続けており、上昇率がマイナスだった月など全体からするとごくわずかしかないありません。
デフレというのは、順調な物価上昇が発生していないという意味であり、厳密には物価は上がり続けていました。
物価上昇に伴い、マンションの販売価格もここ20年で1.5倍ほど上がっているのだが、これらは全て資材価格の高騰や物価上昇に伴ったものです。
東京オリンピック直前には、オリンピック特需で価格が跳ね上がっている、あるいは中国人など外国人投資家が価格をつり上げているといった噂話が飛び交い、メディアにもそうした記事が溢れかえっていたが、これらは事実ではありません。
分譲マンション購入者のほとんどが投資目的ではなく、自己居住用に購入しています。
利便性の良い場所にマンションを買いたいという層は常に一定数存在しているので、こうした実需は大きく変動しないのが一般的です。
これまでは実需を背景に、資材価格の高騰を受けてジワジワと販売価格が上昇するという流れだったが、ここに来て、一気に1億円というレベルに跳ね上がったことの背景にはインフレの激化という経済環境の変化があります。
ではインフレが激しくなると、なぜ物価の上昇幅を大きく超えてマンション価格が上がるのでしょうか。
その理由は、マンションを販売するデベロッパーの収益構造に起因しています。
マンションの建設に必要な各種資材の価格は年々上昇が続いており、デベロッパーとしてはコスト上昇分を価格転嫁しないと利益を確保できません。
しかしコスト上昇分をそのまま転嫁すると、販売価格が高くなりすぎてしまい、売れ行きが低下するリスクがあります。
このためデベロッパーは、設備のクオリティを落としたり、工数(完成までにかかる時間や作業人数)を削減するといった工夫を重ねて、販売価格の引き上げを抑制してきましたが、こうした取り組みもそろそろ限界に来ています。
加えて言うと、6000万円台まで値上がりしてしまうと、多くの庶民にとって新築マンションはもはや手が出ない水準となり、実需での購入客が減ってくるリスクが増大します。
今、こうした6000万円台のマンションを買っているのは夫婦共働きで、それなりの収入があり、かつ親などが頭金を援助した上で、35年間のペアローンを組むなど、かなり背伸びをした人たちです。
これ以上、マンション値段が上がってしまうとこうした購買者も賃貸に切り替えてしまうので、購入者が劇的に減るという事態になりかねません。
デベロッパーは、一定期間に一定の棟数を販売し続けなければ事業として成立しないので、販売件数の低下は大きな逆風となります。
こうした状況下では、一棟あたりの利益を大きくし、販売件数の低下を補う必要があり、そのためには利幅の大きい高級物件にシフトせざるを得ません。
こうした事情からデベロッパー各社は、こぞって1億円超の高級物件にシフトするという仕組みです。
6000万円台の一般的なマンションと、1億円超の高級物件では、立地や内装などが大きく異なり、同じ不動産といっても別のカテゴリーに分類されます。
富裕層の場合、資金に余裕があるため、多少値段が高くても、立地条件がよい、ほかにない設備があるなど希少価値があれば、購入を決断します。
デベロッパーにしてみれば、資材価格が高騰していても、それを上回る価格設定が可能となるのです。
単純な話、6000万円のマンションで20%の粗利益しか得られないと仮定すれば、一戸あたりの利益は1200万円(ここからデベロッパーは宣伝費や自社の営業利益などを捻出する)ということになります。
しかし、1億2000万円の高級物件であれば、もっと高い利益を設定できます。
例えば25%の粗利益を確保できるのであれば、一戸あたりの利益は3600万円となり、6000万円のマンションを2戸売るよりも利益が大きいのです。
もちろん富裕層向けの物件は数が少ないため、当該分野での競争は激しくなりますが、価格が上昇し、多くの庶民にとって手が出なくなっている平均的なレベルのマンションを売るよりもビジネス効率は上がります。
こうした事情から、6000万円台のマンションには実需が存在するにもかかわらず、デベロッパーは高額物件の方にシフトしてしまうのです。
現在の日本は物価が上昇しているにもかかわらず、賃金がそれに追いつかない状況が続いています。
この状況が長期にわたって継続すると、不景気下でのインフレ、つまりスタグフレーションとなります。
日本経済が本格的なスタグフレーションに陥るのかは現時点では何とも言えませんが、物価だけが上昇するパターンが続いた場合、事業者の売り方は大きく変わらざるを得ません。
マンションに限らず、多くの製品やサービスの分野において、高級品へのシフトが顕著となり、中間層向けの商品が減少する可能性が高いのです。
最終的には低所得者向けの低価格商品と、富裕層向けの高額商品への二極化が進むことになります。
こうした二極化の現象は、所得の世界にも波及し、高い賃金を獲得できる一部の高所得者層と、なかなか賃金が上がらない低所得層の分断が発生してしまいます。
こうした経済環境は多くの国民にとってメリットがあるものではなく、経済の二極分化は可能な限り回避すべきです。
一時期はデフレさえ脱却すれば、すべて解決するかのような安易な楽観論が支配していましたが、それは経済の原理原則としてあり得ません。
ひとたびインフレが始まってしまうと、それを止めるのは容易なことではないし、物価を超える賃上げを実現するには、企業の収益拡大が必須要件となります。
つまり企業の経営改革を同時に進めていかなければ、良いインフレにはならないのだ。
不動産価格の異様な高騰は、日本が良くないインフレになりつつあることを端的に示唆する現象であり、望ましいものではありません。
できるだけ早く企業の賃上げを実現する政策が求められます。

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