関東近辺の各地で、高齢の一人暮らし宅などを狙った荒っぽい連続強盗事件が多発しています。なかには被害者が死亡したり、誘拐監禁されたりするきわめて悪質な事案も発生しています。
警察は威信をかけて総力で捜査をしているはずですが、それをあざ笑うかのように、今でも次々と各地で同様の事件が発生し続けています。
しかし、逮捕されているのは末端の実行犯にとどまり、主犯と見られる指示役などにはまだ逮捕の手が及んでいません。
こうした一連の事件が同じ犯罪組織によるものかはわかりませんが、「匿名・流動型犯罪グループ」(トクリュウ)が大きく関与していると見られています。
同様の事件としては、2022年から翌年にかけて起こったいわゆる「ルフィ」を名乗る男が首謀した連続強盗事件が想起されます。
この事件では、首謀者たちは、遠くフィリピンから日本国内の実行役を募り、彼らに指示を出していたことが明らかになっています。
今年相次いでいる事件でも、SNSなどで「闇バイト」を募り、それに応募してきた若者たちが実行役となる構図は、ルフィ事件と酷似しています。
末端の実行役は、軽い気持ちで「楽で儲かる仕事」に応募し、自ら重大な犯罪に手を染めたわけで、職業的犯罪者や古典的な組織犯罪者とは違って、その手口のずさんさ、荒っぽさが目立っています。
このように、「犯罪の素人」とも呼べる者たちの犯行であるがゆえに、メディアでは「普通の若者たちが安易に闇バイトに応募した」「途中で犯罪と気づいても、家族に危害を加えるなどと脅されて後に引けなかった」などと、ともすれば実行役も一種の被害者だと言わんばかりの報道が目立ちます。
やはり、彼らは根本的には反社会的で、犯罪をいとわない人々なのです。
最近では、逮捕された実行役の一人に子どもを持つ母親がいて「普通の母親までもがこんなことを」という報道ぶりが目立ちました。
しかし、これもまた同様に、一見普通の母親に見えても、私は彼女が決して「普通の」母親であったとは思いません。
この事件では、ある女性週刊誌はすでに「普通の母親がこんなことを!」というストーリーを作って報道をしたかったようで、心理学的な事実などはどうでもよかったとみえ、いつもながらの「ストーリーありき」の報道姿勢には呆れるばかりです。
第1に、普通の人々なら、仮に金に困っていたとしても、SNSなどで素性のよくわからない求人情報を見てバイトを探すということはません。
ましてや、匿名性の高いサイトに誘導された時点で、相当な不審感を抱くはずです。
そもそも、「楽して儲かる仕事」などそう簡単にあるわけはないし、怪しいうたい文句を見ると、そこでも「不安」のシグナルが鳴って「このような仕事にはかかわらないほうがよい」と思うはずです。
このように、応募するまでの段階でも、心理的ハードルがいくつもあります。
しかし、だまされやすい人や鈍感な人はどこにもいるわけで、こうした不安のシグナルが鳴らずに飛びついてしまった軽率な人々は一定数いるでしょう。ただ、その後にもう一段大きな心理的ハードルがあります。
つまり、犯罪の実行です。
応募した後に、仕事内容を聞かされ、「ブラック案件」、あるいは「犯罪」とわかった時点で断ったり、逃げ帰ったりするのが「普通の人」です。
事実、闇バイトに応募した何人かは「自分にはできない」と逃げ出しています。
しかし、実行にまで至った人々は、そこでも思いとどまることなく、心理的ハードルを乗り越えて、残虐な犯罪行為を遂行したわけです。
メディアでは、身分証明書の写しなどの個人情報を相手に送っていたため、素性を指示役に把握されていて、逆らうことができなかったと報じられています。
しかし、指示役にいくら脅されても、人を殴ったり、死に至らしめたり、金銭を奪ったりすることには、「普通の人」なら、生理的なブレーキが働き歯止めがかかるはずです。
人間とはそういうふうにできているのです。
一方、生理的な歯止めが利かず、法律を破ることや人を傷つけることに抵抗感がない人々が一定数おり、彼らに共通しているのは、「反社会的パーソナリティ」を有していることです。
程度の差こそあれ、事件に加担した人々のほとんどが、こういう問題を抱えた人々なのだと推測できます。
一昔前ならば、このようなパーソナリティを有する若者は、暴走族に入ったり、不良グループに関わっていたりして、犯罪に加担していたケースが多かったのです。
今は犯罪集団というものがほぼ壊滅に近い状態であるため、バーチャルな世界でつながってこうした犯行を重ねているのです。
いつの時代でも、反社会的パーソナリティを有する人々は人口の数パーセントはいるとされています。
そうした人々は、仕事が長続きしない、衝動的である、目の前の快楽に飛びつき長期的な結末を考えない、共感性が欠如し人の痛みがわからない、良心の呵責がない、自己中心的であるなどの特徴を共通して備えています。
今回の実行犯のパーソナリティにもこれらがぴたりと当てはまります。
実は、犯罪心理学において、犯罪の最も大きなリスクファクターとされるものが、これら反社会的パーソナリティや反社会的態度なのです。
例えば、実行役の一人は、弁護士に「何年くらいで刑務所を出られますか」と聞いて「一生出られないよ」と聞いて驚愕したと報じられていますが、このエピソードはまさに象徴的で、彼の自己中心性や長期的な見通しが持てない愚かさがよく表れています。
「普通の主婦」にしても同様で、報道によると、彼女は夫から繰り返し闇バイトに応じることを頼まれて断り切れなかったといいます。
夫は振り込め詐欺などにも関わっており、「トクリュウ」とも何らかの関係があったとされています。
夫が組織犯罪に関わっており、犯罪で生計を立てていた主婦のどこが「普通の主婦」だというのでしょうか?
やはり、そもそも犯罪と親和性の高い人物だったと見るべきです。
かつて、「主婦や学生にも覚醒剤が蔓延している」などというニュースが世間を驚かせたことがありましたが、それも同じです。
普通の主婦や学生は覚醒剤などには興味を抱きません。
むしろ嫌悪感や恐怖を抱き、違法薬物などからは距離を置くのが「普通の人」です。
それに対して、興味関心を抱くのは、やはり反社会的なパーソナリティや態度の表れにほかなりません。
一連の事件で最も責められるべきは、もちろん首謀者であり、いまだどこにいるか影もつかめていない指示役であることは間違いないありません。
しかし、だからといって、実行役の責任を過小評価したり、ある意味で被害者であるかのような報道をすることは、被害の大きさや社会的影響を考えると厳に慎むべきです。