春闘の賃上げ率は5.24％(連合第3次集計、4月4日公表)と33年ぶりの高い水準となっています。もっとも、春闘の結果よりも重要なのがそれぞれの「年齢以上」の賃上げ幅であり、冷静にみる必要があります。
「賃金カーブ」はフラット化している可能性が高いからです。
賃上げの大合唱をどこか遠い国の話のように感じている人も多いはずです。
会社ごとに違いはあるものの、これまで低く抑えられていた若手の賃金を重点的に引き上げ、管理職などは仕事内容と成果に応じて昇給を決めるという考え方が目立ちます。
賃金アップにメリハリをつけることで、勤続年数によって賃金水準がどう変化するかを示す賃金カーブの傾斜は一段と緩やかになる可能性があります。
賃金カーブの「フラット化」傾向が強まっている可能性があります。
過去の賃金カーブの推移をみると、実際にフラット化が著しいのです。
例えば、20～24歳の年収の水準を「1」としたときの45～49歳の水準は、2003年が1.89だったのに対して、23年は1.58にとどまりました。
むろん、賃金カーブのフラット化は悪いことばかりではありません。
例えば、若年層は貯蓄が少ないために流動性制約、資金不足に陥りやすく、需要が満たされにくい、つまり、消費が抑制されると考えられるため、賃金上昇に対する消費の弾力性（しょうひせいこう）が高いでしょう。
しかし、あまりにフラット化が進むと、「このままフラット化傾向が続くと不安だ」という気持ちになってしまうかもしれません。
フラット化傾向が続く場合、キャリアを重ねるごとに賃上げの恩恵が小さくなりやすいのです。
賃金カーブの水準をみると、過去のフラット化は35～39歳くらいを境に進んでいることがわかります。(グラフが35～39歳くらいを軸に回転しています。
すなわち、すでに35～39歳になってしまった人々は、賃上げの恩恵が限定的になります。
過去の賃金カーブの推移から、各年齢の「20歳の時の期待生涯賃金」および「実現賃金+現時点の期待賃金」を比較しました。
前者は20歳の時の賃金カーブの合計値であり、後者は実際に実現してきた賃金の合計と、現在の賃金カーブから想定される60歳までの残りの期間の期待賃金を加えたものです。
現在60歳の人は20歳時点の生涯賃金の期待値は1.03億円程度だったが、実際には1.45億円を得ることになりました(39.7％)。
しかし、現在40代の人は、20～30代は低めの賃金にとどまり、その後はフラット化によって期待賃金が伸びず、20歳の時に期待された生涯賃金を下回る可能性が高くなっています。
最も下振れが大きい現在43歳の人は、想定よりも2.9％減となる見込みです。
この傾向は、20～24歳の賃金水準(≒新卒年収)を「1」として指数化するとわかりやすいです。
賃金カーブはほぼ一貫してフラット化してきたことから、すべての年代で生涯年収は初任給を基準とすると下振れとなりますが、やはり40代の下振れ傾向が目立ちます。
例えば、43歳では、20歳の時の期待生涯賃金は64.4でしたが、現時点の実現賃金と期待賃金の合計は57.0となり、下振れ率は11.5％です。
言い換えると、20歳の時は「生涯で新卒年収の64.4倍程度はもらえる」と思っていたが、現時点(43歳になってみると)「57.0倍程度にとどまりそうだ」という状況です。
重要なのは、「新卒年収」で換算しなくても、名目金額ベースで40～49歳は「20歳の時の期待生涯賃金」に現時点の期待値がとどいていないことです。
奇しくも、この世代は就職してからしばらくは、株価低迷を長く経験してきた世代です。
株価と実体経済の連動性を考えると当然なのですが、金融所得と労働所得の双方が格差を拡大させています。
社会では中堅からベテランに差し掛かっている氷河期世代のマインド底上げは、明るい世代が自然と増えるタイミングを待つよりも即効性があるでしょう。
賃上げ率だけでなく、「賃金カーブ」のフラット化がはらむ問題にも対処が必要なように思われます。
