氷河期セミリタイア日記

就職氷河期世代ですが、資産運用でなんとかセミリタイアできました。残りの人生は、好きなことをしながら自由に生きていきます。

全国に「おにぎり専門店」が急速に増加した理由

全国各地でおにぎり専門店が増加し、2010年代半ば頃からじわじわと始まっていた、おにぎりブームが加速しています。
ぐるなび総研が選ぶ「今年の一皿」では、ごちそうおにぎりがえらばれました。
ふんだんに乗せた具材など、華やかな見た目の「ごちそうおにぎり」として、SNSを中心に話題となっていることや、専門店が相次いでオープンし、外食としても人気になりました。
そしていまや「ONIGIRI」としてフランスなど海外でも人気となっていることから選ばれました。
コロナ禍で、テイクアウト需要が高まったことも、加速するきっかけになりました。
総務省の家計調査によれば、1世帯当たりの「おにぎり・その他」の年間消費支出額は、2014年から増加傾向にあり、2021年は「調理パン」より多く買われています。
いったいなぜ、古くから親しまれてきたおにぎりが、今になって流行しているのでしょうか?
きっかけの一つは、2010年代半ばに家庭料理の世界で、斬新なおにぎりが流行したことです。
その一つは、ぐるなび総研が選ぶ「今年の一皿」で2015年に選ばれた「おにぎらず」。
その後、SNSが発信源となり、ゴロゴロと具材を混ぜ込んだ「ごちそうおにぎり」が流行しました。
どちらの場合も、定番以外の斬新で多彩なレシピが注目を集めました。
おにぎらずはサンドイッチのように好きな具材を何でも挟む、ごちそうおにぎりはベーコンと菜っ葉炒めなど、好きなおかずを混ぜ込んで握る点に特徴があります。
そして、おにぎりという手間のかかる料理が、やりようによっては時短につながる点も、台所の担い手たちを引きつけたと考えられます。
おにぎらずは握る必要がないし、ごちそうおにぎりは皿数が減る、おかずを減らせるなどの魅力がありました。
おそらくこの頃に、おにぎりの具材は自由に選べることに気づく人が増え、おにぎり一つで栄養バランスが整う便利さと、派手な具材を使えば映える楽しさを求めるようになったと思われます。
「映え」は現代において、流行を加速させる重要なポイントでしょう。
流行の火付け役になることが多いバラエティ番組『マツコの知らない世界』(TBS系)では、2018年と2021年におにぎりが特集されています。
また、Z世代の間でも、数十種類も選べるおにぎり専門店が人気になっています。
それは、動画でも映える点と言われます。
おにぎり専門店は昭和の頃から存在していたが、ここ数年、そうした老舗の専門店がメディアで脚光を浴びていることも影響したのではないでしょうか。
行列店として知られる東京・大塚にある「ぼんご」は、2018年に放送された食ドラマ『忘却のサチコ』(テレビ東京系)に登場したほか、ドキュメンタリー番組などでも紹介され、2019年にはレシピ本まで出ています。
1954年創業の「おにぎり 浅草宿六」は、『ミシュランガイド東京2019』にも紹介されて話題を集めています。
さらに、2010年代後半、健康面から小麦粉の評価が下がりました。
小麦粉に含まれるグルテンのアレルギーが知られてグルテンフリーの食べ物が注目され、糖質制限ダイエットが流行して、悪者扱いされた小麦粉を摂らないよう心がける人が増えたのです。
さらにロシア‐ウクライナ戦争の勃発などで小麦の価格が上がり、コメや米粉の人気が急上昇していることも、おにぎりブームの後押しになっています。
日本人のコメ消費量は1962年をピークに減少を続け、近年は多忙さや個食化の影響もあって毎日お米のご飯を食べない人も増えてきています。
そんな中のおにぎりブームです。
背景には、近年の定番料理の再発見の潮流が影響しているように思われます。
目立つ流行の一つが、ハンバーグです。
高度経済成長期に定着した洋食を、ここ数年、和風に振り切った形でできたてを売りに、定食として出す専門店が次々に登場して流行しています。
誰もがなじんでいるモノだからこそ、新しい提案が新鮮に見えます。
おにぎりは、ハンバーグよりかなり長い歴史を持ちます。
『おにぎり読本』(ごはん文化研究会編、講談社)によれば、おにぎりの記録は鎌倉時代にまでさかのぼります。
1221年に勃発した承久の乱で、梅干し入りおにぎりが武士たちに配られたようです。
おにぎりは、戦国時代にも兵糧として重宝されています。
海苔の養殖が始まった江戸時代には、海苔で巻いたおにぎりが登場しました。
この頃には、現代と同じく、ふたつきの釜で水分がなくなるまで加熱する炊き干し法のご飯が定着していたことや、精米技術が進化したことも、おにぎりが広まるうえで貢献しました。
私たちが「和食」として認識する料理の多くが、江戸時代に完成し広がったことを考えれば、おにぎりもまさに、この時代に和食とともに日本人の暮らしの定番になった一つと言えます。
具材の発想が広がったのは、1970年代に登場し、1980年代に広まったコンビニの貢献が大きいです。
アメリカから導入したセブン‐イレブンは当初苦戦していたが、1978年に日本オリジナルの商品としておにぎりを置いたことから人気が出始めた、という歴史があります。
そして、ツナマヨの原型「手巻おにぎりシーチキンマヨネーズ」(現「手巻おにぎりツナマヨネーズ」)を出しヒットしたのが、1983年です。
近年のコンビニおにぎりの進化は目覚ましいものがあります。
『コンビニおいしい進化史』(吉岡秀子、平凡社新書)によれば、高級化や本格化の時代は2000年代初頭から始まります。
平成時代に活躍が目立つのがローソンで、2017年には同チェーンが新潟県コシヒカリを使った「おにぎり屋」ブランドを15年ぶりに刷新し、ご飯のおいしさが際立つよう工夫しました。
そして翌年、「悪魔のおにぎり」を出して大ヒットしました。
それは、天かすやゴマ油などを混ぜ病みつきになる味に仕上げたおにぎりです。
『おにぎり読本』によれば、令和時代で目立つヒットは2021年にファミリーマートが出した「SPAMむすび」です。
スパムおにぎりについては、2014年に那覇市で誕生した専門店「ポーたま」が、2022年に東京ミッドタウン八重洲に進出しています。
食のブームで、利用者が多いコンビニの影響は大きいのです。
発売1年で5600万個を突破したローソンの悪魔のおにぎりも、おにぎりブームの導火線の一つではないでしょうか。
いくつかのきっかけを経ての、令和のおにぎりブームです。
その背景には、ふだんの食事が外食・中食などの外注頼みになった人が多いこと、個食化が進み、家でご飯を炊いて食べることが少なくなったことがあります。
おにぎり自体を家で作る人も、減ってきているのではないでしょうか。
『サラメシ』(NHK)をテレビで見ていると、手作り弁当でおにぎりを入れている人はそれほど多くありません。
だからこそ、おにぎらずやごちそうおにぎりなどの変わり種がヒットしたのかもしれません。
しかし、食べ手の視点で見てみると、コメやおにぎりが嫌いという人はあまりいないでしょう。
専門店の増加は、好きだけどなかなか作れないおにぎりを気軽に食べるきっかけになるのではないでしょうか。
そして、多彩な具材は、おにぎりの新しい魅力の発見にも結びつきます。
また、外食・テイクアウト店やコンビニで、炊き方やコメの品種選びなどで、コメの味にこだわる商品が多いことも人気の要因と思われます。
炊飯器も10万円台の炊き方にこだわった高級品がすっかり定着しています。
食のセレクトショップなどでは、高級ブランドのコメを少量販売する時代です。
もしかすると、コメが毎日食べるものというより嗜好品となってきたからこそ、味の追求が進み、味で勝負したおにぎりの人気が高まっているのではないでしょうか。
庶民的な要素に目を向けると、専門店などで具材の種類を選べる今は、おにぎり数個で食事を済ませても罪悪感が少なくて済みます。
からあげブーム以降、和風のテイクアウト商品、小腹を満たす軽食にも食事にもなる料理は、求められていたのではないかと思います。
手軽に片手で食べられることも、忙しい現代人にはぴったりです。
若者にはエネルギー源になります。
シニアには、料理がめんどうなときでも慣れ親しんだおにぎりはうれしいでしょう。
売る側にとっては、多彩な料理を展開しなくて済むので資金や技術力についてのハードルが低くなります。
全方位型のおにぎりがヒットするのは、当然ではないでしょうか。

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