人間は自分と似た相手に好意を持つと言われます。恋愛においても、趣味が同じであったり、好きな食べ物が一緒であるという点は重要です。
最近、婚活界隈では「同類婚が増えている」という話がよくされます。同類婚とは、年齢、学歴、職業、所得などが同じレベルの男女同士が結婚する形態を指します。
実態として同類婚が本当に増えているのかどうかを検証していきたいと思います。
まず、年齢から。人口動態調査の長期推移から、初婚夫婦の年の差の組み合わせを見ると、第2次ベビーブーム期にあたる1970年には、初婚の8割を「夫年上婚」が占めていました。
しかし、年々下降し続け、2022年には53.4%にまで激減しています。一方で、夫婦が同年齢の「同い年婚」の割合は、1970年の10.3%から2022年には24.3%へと2倍以上に増大しました。
これだけを見ると、この50年間で、「同い年同士の初婚が増えている」と思うかもしれません。しかし、そもそも初婚数自体が大幅に減っている中で、単に割合が増えているだけなので、実数として「同い年婚」が増えているわけではありません。
たとえば、よく最近のニュースで「マッチングアプリで結婚する夫婦が4人に1人にまで増えました」などと、まるでマッチングアプリが婚姻増加の救世主かのように報道している場合がありますが、そもそも、全体の婚姻数が激減している中で割合の数字だけで評価はできません。
増えたかどうかを判断するには、割合だけではなく実数も併せて見る必要があります。
年齢同類婚を実数で見てみると、1970年対比で2022年の「同い年婚」数は2.2万組減で、減少率は28%です。構成比は増えていても実数は減っているのです。
ただし、初婚数全体が同期間対比で53.7万組減の59%減であることを考えると、減少幅は抑えられているとは言えます。
何より深刻なのは、「夫年上婚」の減少のほうで、1970年対比で48.5万組減の78%減であることです。初婚全体の減少の9割がこの「夫年上婚」の減少によるものだとわかります。
つまり、この50年間の日本の初婚数が減った原因はそのほとんどが「夫年上婚」の減少によるものと言えます。 なぜ、夫年上婚だけがこれほどの激減をしたのか、については以前こちらの記事に書いた通り、お見合いと職場結婚という社会的な結婚のお膳立てシステムが崩壊したからです。
割合だけを見て「同い年婚が増えている。年齢の同類婚が増えている」などと判断するのは短絡的で、むしろ2010年以降は、どの形態も割合の変化はほぼありません。つまり、「年齢の同類婚が増えている」とは決して言えないわけです。
次に、学歴の同類婚について見てみましょう。
出生動向基本調査より、夫婦の結婚時期別(1985~2019年)にそれぞれの学歴組み合わせを「高卒同士」「高卒以上大学未満同士」「大卒(大学院卒含む)同士」という学歴同類婚と、「夫が学歴上方婚」「妻が学歴上方婚」の5つに分類したものです。各期間の初婚数と掛け合わせて、それぞれの実数を計算しました。
これで見ると、学歴同類婚とはいえ、高卒同士の同類婚は大きく8割以上も減少しているのに対し、大卒同士(大学院卒含む)の同類婚は6倍に増え、学歴別では唯一増えている組み合わせとなりました。かつて一番多かった高卒同士の同類婚が壊滅的に減少している点が深刻です。
これは、女性の大学進学率の増加とも関係するものですが、とはいえ、妻が夫の学歴より上の形態はそれほど増えていません。これは大卒以上の妻は少なくとも大卒以上の夫を選ぶようになってきていることを示唆します。
最後に、夫婦個人の年収同類婚についても見てみましょう。そのためには、実際に結婚するカップルにおいて、互いの年収の組み合わせを調査しないとなりませんが、結婚した時点でそれぞれどれくらいの年収同士で結婚したのかについて長期的に調査したデータは存在しません。
よって、2012年と2022年の就業構造基本調査より、妻が20代の子無し夫婦を結婚したばかりの夫婦と仮定して、そのそれぞれの年収バランスのデータから、夫婦が同程度の年収同士の数だけを抽出し、「年収同類婚」の割合を推計することとします。
結果から言えば、妻が20代の「年収同類婚」の割合は、2012年で19%、2022年で20%であり、全体としてこの10年間でそれほど増えたというものではありません。
ちなみに、2022年において、夫のほうが年収の高い「上方婚」は70%、夫の年収が妻を下回る「下方婚」は10%でした。
しかし、「年収同類婚」の分布を夫の個人年収別に、2012年と2022年で比較すると、また違った景色があらわれます。以下がそれをグラフ化したものです。
2012年においては、夫の年収150万~300万円がもっとも年収同類婚数が多く、単純に夫婦で300万~600万円という世帯年収での結婚が多かったということになります。しかし、2022年になると、最頻値は400万~500万となり、夫婦で800万~1000万円の世帯年収に上昇してしまいました。
これは、「年収同類婚」として互いの相手に求める年収のハードルがあがったことを意味します。言い換えれば、ほんの10年前まで、個人で300万円の年収があれば、「年収同類婚」ができていたのに、今では最低でも400万円の年収が求められるようになったということです。
20代の若者にとって、これは厳しいハードルとなります。国民生活基礎調査によれば、2023年においても、20代若者(未既婚含めた全体)の年収中央値は、334万円に過ぎず、400万円以上となると上位20%に限られてしまうからです。
2022年就業構造基本調査での25~29歳の未婚率は、男77%、女68%であり、数字の辻褄は合っています。
SMBCコンシューマーファイナンス株式会社が定期的に実施している「20代の金銭感覚についての意識調査」では、「結婚しようと思える世帯年収はいくらか」を聞いていますが、2014年時点では379万円であったものが、最新の2024年調査では544万円にまで高騰しています。
実態としての個人の年収がそれほどあがっていないにもかかわらず、「結婚できる年収」だけがインフレを起こしているというのが今の若者を取り巻く状況です。
「年齢や学歴、年収が同じくらいの同類婚のほうが価値観が合うよね」などと喧伝され、「結婚は同類婚だ」などと若者が意識すればするほど、結果的に、大卒で若くしてある程度の年収を稼ぐことのできる大企業の若者だけが結婚できるだけの世界線ができあがることになります。
数字的には、大企業勤務比率と同等のせいぜい上位3割程度のものでしょう。
そこから漏れた7割を占める多数派の若者は、「20代の今はお金がないから結婚できない」「稼げるようになるまで結婚はしない」という方向に進み、運よく結婚可能年収を稼げるような年齢になったときには「もう相手がいない」または「今さら結婚するよりも自分のためにお金を使おう」と結果的非婚という道を歩んでしまうことになります。
何度も言いますが、今は1990年代までのような晩婚化は起きていません。晩婚化というのであれば、仮に20代で結婚しなかったとしても30代で後ろ倒し結婚して、20~30代トータルでは婚姻数は変わらないはずですが、20代で結婚機会を逃した若者は、30代になって晩婚化するのではなく、そのまま非婚化していっているのです。
20代の若者が20代のうちに結婚できなければ、生涯非婚になる。それが今起きている婚姻減の現象です。
結論としては、同類婚は増えてはいません。それどころか、かつて同類婚ができた高卒同士や年収300万円未満同士の同類婚だけが減少しており、一部の上位層の同類婚だけが進み、パワーカップルなどと注目されているにすぎません。
いわば、本来婚姻のボリューム層であるかつての中間層の若者の同類婚を含む婚姻全体が地盤沈下しているわけです。
「同類婚が増えている」と言う人は、自身も上位層である大企業社員や官僚や政治家である場合が多く、なるほど彼らの「同類」の話にすぎないのだなと感じます。