この夏はとにかく株価が不安定で、8月上旬には、米国の景気先行き不安などもあり、わが国をはじめ世界的に株価が暴落しました。その後、株価は回復しつつあるものの、足元で再び大幅安となる展開になっています。
米国の国債の流通利回りは低下し、外為市場でドル安・円高が進んみました。
そうした株価の動向に、動揺する個人投資家も多いでしょう。1月から新NISA(少額投資非課税制度)が始まり、内外の株式で積極的に資金を運用する人は増えました。
年初以降、円安、株価上昇が続いたこともあり、株価の安定的な上昇が続くと考えた投資の初心者は多いはずですが、株価というものは基本的に長期間上がり続けることはななく、株式市場を取り巻く環境の変化によって、株価は上がったり下がったりするものです。
だから、株価が急落したからといって慌てふためくのは全く得策ではありません。
相場が下落した局面(押し目)で、長期の目線で株式投資するのも一つの選択肢でしょう。今後、世界経済の下方リスクが少しずつ高まることも懸念され、投資家自身のリスク許容量を考えて、市場の動きを冷静に判断することが重要です。
日本証券業協会によると、1~5月の新NISAの買い付け金額は6兆6141億円に達しました。成長投資枠への資金流入額は、前年同期に比べて4.7倍にも膨れました。新NISAを活用して多くの個人投資家が内外の株式に資金を振り向けた表れといえるでしょう。円安進行による物価上昇の懸念などから資産を守るため、実物資産の金(きん)を買い求める個人投資家も増えています。
特に、米国株への期待は高く米国の旺盛な個人消費、AI(人工知能)業界の成長などから、エヌビディアなどのIT先端銘柄が大人気となりました。
中には新NISAの投資枠を、全てエヌビディアに振り向ける個人投資家もいたようです。また、S&P500連動型のETF(上場投信)を買う人も増えました。
AI関連銘柄では、「買うから上がる、上がるから買う」という投資家の強気心理が連鎖し、株を買って価格が上がると、自分の投資戦略は正しい、人は自信過剰に陥りがちです。
6月以降、海外の投資家は、それまで上値の抑えられた日本株に短期目線で資金を振り向け、円安も進みました。
米国株に投資する個人は、円を売ってドルを買います。財務省の対外及び対内証券売買契約などの状況(指定報告機関ベース)によると、1~5月の間、対外証券投資額(ネット)は5兆円を超え、1~7月の累計は約7兆円でした。
個人の投資行動は円安の一因だったと考えられ、円安によって業績がかさ上げされる期待もあり、わが国の半導体銘柄や日本株のETFを買う人も増えました。
7月、そうした群集心理の高まりから、日本株の中長期的上昇は間違いないという見方が増え、11日に日経平均株価が最高値を更新しました。
資産運用の選択肢は、株式以外にも国債などいくつかあります。特に、一定期間ごとに利回りが変化する、個人向け国債はそれなりのメリットがありそうです。
8月30日時点で10年物の利率は0.61%(税引き前)だった。株式と個人向け国債を組み合わせる人もいます。
リスクとリターンを考えると、説得力のある組み合わせといえるでしょう。
7月半ば以降、割高感などから日米の株を売る機関投資家は増え、米国の景気先行きに対する不安が上昇し、米国の国債流通利回りは低下しています。
リスク回避的な動きは増え、日米の金利差縮小により、外国為替市場ではドル安・円高が進み、8月5日、日経平均株価は1970年以降で最大の下落を記録しました。
あまり予想しなかった相場の調整に、慌てて株を売ったのが個人投資家です。株価が乱高下する値動きから、投資家の動揺が読み取れます。
「上げ100日、下げ3日」といわれる、相場の下落スピードの速さを体現したといえるでしょう。
株価下落に直面し、「株価はどこまで下がるんだ」と思う人もいるでしょう。
「売るから下がる、下がるから売る」という弱気も連鎖しやすいのです。
8月5日の国内の投資信託の取引は、ネットベースで1600億円もの売却になりました。一転して翌6日、株価は反発しました。
世界的な金融市場の変動に驚き、証券会社のコールセンターに電話を掛けた個人投資家も多かったそうです。
この夏の教訓は重要で、資金の運用にはそれなりの経験則が生きます。一般的に、投資の対象を分散する人は多く、株式なら複数の銘柄に投資します。株式と国債などを組み合わせたバランス型の運用を心がけるのもいいでしょう。
それに加えて、手元の余裕資金を一度に株式やETFに投じるのではなく、タイミングも分散するといい。将来がどうなるか予測できないのであれば、「毎月▲日に○万円買う」とか、「相場が〇%下落した時に株式に投資する」など、マイルールを決めておきましょう。
そうすれば、「株価が上昇している間に投資しなくちゃ」といった焦りは抑えられるでしょう。
自分なりの投資のルールがないと、周囲の大勢の行動に同調してしまいがちです。
短期間で資産の価格が急速に上昇すると、富への欲求が過度に高まり、買い急いでしまうこともあるかもしれません。
大切なお金を運用することは、時として強欲になる自分の心との闘いといってよいのです。
金融機関に勤めるプロのファンドマネジャーは、基本的には四半期ごとに運用の結果が、TOPIXなどのインデックスを上回ったか否かで評価されますが、個人投資家は、単月だったり四半期ごとだったりの期間損益を気にする必要はないのです。
ファンドマネジャーは詳細なリサーチを重ね、調べれば調べるほど、自分は成功すると思いたくなります。
実際に株や債券に投資し、予想外の損失に直面すると「こんなはずはない」と自分の見方にこだわることもあります。
その結果、挽回を目指して価格が下落する資産に追加の資金を投じるなど、時として合理的ではない選択を取ってしまうことが増えます。
一方、個人投資家は、四半期ごとの運用結果にこだわらなくてよく、気持ちを安定させ、資金をゆっくり自分のペースで運用すればよいのです。
ゆとりのある範囲で、無理なく、自分のやり方で長期の資産形成を目指し、想定外の相場下落などに対するストレス(認知的不協和)を緩和することにつなげましょう。
その上で、時期をとらえて投資することを心がけ、価格が大きく下げた局面で資金を投じることができれば、中長期的な損失のリスクは抑えることができるでしょう。
いつ、リスクをとるか。これは個人の意思決定です。
リスクテイクの量(投資の金額)とタイミングは自分で決めることができる一方、いつ、どの程度の収益が発生するかは分かりません。
自己責任の範囲内で長期の資金を運用するため、経済環境の変化などで資産の価格が下落した場面をとらえ、種々の資産に資金を振り向けましょう。
うまく資産を購入できたなら、後は忘れるくらいの気持ちでもいいかもしれません。
今後、米国の労働市場は軟化し、景気が減速する懸念は高まるでしょう。
世界的に株式、国債の価格変動性が高まるリスクもあります。周囲に振り回されず、自分自身の行動を確認し、自らに適した投資のルールを決めましょう。
さもないと、投資が人生を豊かにする一助になるどころか、個人を苦しめることになってしまうはずです。