日本社会の根底には、経済的不安が絶えず渦巻いています。『民間給与実態統計調査』(国税庁・令和4年)をもとに、日本人の給与額の現状を見ていきます。
人生100年時代となった今、60歳は「リタイアの年齢」ではなくなりました。2021年より高年齢者雇用安定法が改正され、70歳までの定年引上げや継続雇用制度の導入などが始まり、「生涯現役」の現実味がより一層増してきています。
老後資金2,000万円問題が取り沙汰されてからも久しく、国民全体の危機意識は高まっていると考えられますが、『民間給与実態統計調査』(国税庁・令和4年)を見ると、日本人の「働いてお金を稼ぐ現状」の悲惨な実態が明らかになりました。
まず全体の平均給与。1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たりの平均額は458万円(男性563万円、女性314万円)です。内訳としては、平均給料・手当が386万円(男性472万円、女性270万円)で、平均賞与は72万円(男性92万円、女性44万円)となっています。
年収458万円となると、概算で月収38万円。手取りとしてはざっと30万円ほどになります。最新の2人以上の世帯の消費支出が約32万9,518円ですから(令和5年12月分/総務統計局家計調査)、共働きでなければまずやっていけないことがわかります。 上記はあくまで平均額。構成比別に見ると、また違った様相が明らかになります。
「300万円超400万円以下」が最多という事実。年収400万円を超えたら、相対的には「高給取り」ともいえるわけです。多くの日本人にとって、「2,000万円の貯蓄」が、改めて途方もない数字であることを痛感するデータです。
ちなみに平均給与を業種別にみると、最も高い業種は「電気・ガス・熱供給・水道業」の747万円です。次いで、「金融業・保険業」の656万円。最も低いのは「宿泊業・飲食サービス業」の268万円でした。少し意外に思われた方もいるでしょうか。
生活の根幹を支えるインフラ系は、景気変動の影響を受けにくく、高給を安定して受け取ることができます。
業種によって定義は異なりますが、日本に存在する会社の9割以上が中小企業です。特に飲食サービス業の場合は個人経営の店も多く、「生活ギリギリ」の採算を取っている場合も少なくありません。
1人当たりの平均給与を年齢階層別にみると、男性では60歳未満までは年齢が高くなるにしたがい平均給与も高くなり、55~59歳の階層が最も高い給与を受け取る傾向にあります。「真面目にコツコツ働き続ければ、お金は増えていくんだな」。
そう信じたいところですが、昇給コースには、とんでもない落とし穴が待ち受けています。税金です。 納税額について給与別に見てみると、年間給与「800万円超」の給与所得者は554万人であり、全体の10.9%しか存在していません。
しかし彼らの納税額の合計は「7兆8,256億円」。全体の66.5%を占めています。 日本は累進課税。「年収1,000万円あたりが一番損をしている」というのは一説として語られています。
年収が1,000万円あっても、税金や社会保険料の重たい負担のために手取りは600~700万円にまで減ってしまうのです。
家計調査より作成された内閣府の資料によると、直接税・社会保険料等がもっとも多いのは45~54歳。実収入のおよそ20%にあたる金額が引かれています。
稼ぐも地獄、稼げずも地獄。日本政府のおびただしい財政支出は、遅かれ早かれ「徴税」という形を以て国民から回収されることでしょう。
日本での「資産形成」は、困難の一途をたどっています。