老後2000万円問題が話題になって以降、世間では老後の生活費を心配する声が後を絶ちません。しかし実は、統計によると60代以降で買い物が増えており、生活に余裕が出ているという傾向が見られるのです。
たとえば『総務省家計調査2023年』によると、年代別に見ても50代は6%以上も減少しているのに60代の減少率は1%台と低く70代はむしろ増加していて、消費の内容からは楽しみながら買い物をしているということがわかります。
「老後不安」のイメージとは裏腹に、なぜ高齢者にそんな生活ができるのでしょうか。詳しく見てみましょう。
まず、60代になると子どもの授業料などの教育費がうんと減ります。年代別でも『総務省家計調査2023年』では、50代前半は34万017円、50代後半は1万6418円ですが、60代前半になると4484円、後半はなんと705円に減少します(『家計調査2023』2人以上の世帯 世帯主の年齢階級別1世帯当たり1か月間の収入と支出)。
この毎月数万円分の支出が減ると、いかに助かるかがおわかりでしょう。
それに、持ち家の人は平均75歳前後で住宅ローンが完済しますが、それまでに退職金で払い終える人も少なくないでしょう。
賃貸住まいの人も子どもが巣立った後、夫婦2人用の狭い家に引越しする人も多く、家賃の支出も減少しています。住宅への支出は30代をピークに下がり続け、50代から60代にかけて半分に減り、70代はさらに負担は減っています。
実は思いのほかコスト負担が減る60代。では、高齢者は浮いたお金を何に使っているのか、詳しく費目を見てみましょう。よく中高年のツアー団体を見かけると思いますが、「元気なうちに、今、旅行に行きたい」と考えている人も多く、時間ができた定年後の60代後半はそのピークとなります。
支出は1カ月あたり3492円で、70代前半は2936円、70代後半は2715円と下がります。それでも50代後半2016円から60代前半の2002円より多くなっています。人気なのは温泉、高原、湖などの自然豊かな景色が広がるところです。
そして、定年後であっても、元気な人は引き続きバリバリ働く時代です。新たな仕事のための人脈作りも必要でしょう。それに同窓会の幹事なども回ってくることが多くなります。
したがって、高齢者の交際費は若い頃と比べて増加します。交際費は50代前半は1万4297円、後半は1万7559円ですが、60代前半になると1万9837円に増え、さらに定年後の60代後半になると、2万0970円にまで増えています。
健康に気を付ける人が多くなるためか、食費の支出にも特徴が見られます。たとえば、自宅で食べる食料品の買い物では魚類が急増しています。
50代前半は5284円、後半は5607円ですが、60代前半になると6251円、後半はさらに1000円も増えて7233円と増加しています。筆者の周りの60代は、飲食店も魚類が多い和食を選ぶようになっており、実際、エンゲル係数も増加しています(エンゲル係数は50代前半は24.8%、後半は25.4%ですが、60代前半は27.2%、後半は28.5%です)。
逆に言えば、これらの支出を増やさずに倹約すれば、さらに生活は楽になるでしょう。たとえば定年後、衣類や靴は若いときほど買わなくなります。
50代前半は1万2967円、後半は1万1862円から3分の1ほど減り、60代前半は9352円、後半は7889円と減少しています。
そう考えた場合、「身の丈に合った生活をする60代」なら、老後1000万円も備えがあれば、十分暮らしていけるはずなのです。世間で言われている「老後2000万円問題」には、実は大した根拠はないのかもしれません。
ちなみに、高齢者の毎月の支出の合計は、60代前半は31万1453円、後半は30万1705円です。年を取るほど、次第に数万円ずつ減少していき、70代前半は27万2657円、後半は24万5107円、そして80代前半は22万4648円に減ります。
つまり、80代は20万円あまりで生活できています。ということは、年齢にもよりますが、年金や個人年金などを合わせて15万円受け取れるとすると、月5万~10万円のアルバイトをすれば支出は賄えることになります。
老後の生活設計をきちんと行うのが重要であることは言うまでもありませんが、過度に不安を抱き、身を縮めた生活をする必要はないということがおわかりでしょう。
付け加えると、実は幸福度が高い層はそれほどお金があるわけではなく、「ほどほどのお金持ち」の層です。
「幸福度が最も高いのは400万円から600万円の年収の層」という調査結果があります(ネクストレベル2023年調査)。
一方、NRI『日本人の生活に関するアンケート調査」(2023)』では、幸福度は「家族」「仕事」「地域住民」「消費者」としての4側面の影響を受けるといい、推し活や旅行などの「消費」も幸福度に影響を与えていることがわかります。
幸福度10点満点のうち9点以上の割合は、50代は10.9%、60代は12.8%、70代は18%と上がっています。60代以降になると消費内容や方法で幸福度が上がっているのです。
つまり、お金を貯めるばかりでなく、何を買うか、何に使うかで幸福度も変わってくるのです。