今や世界中から富裕層がこぞって訪れる冬の高級リゾート地となった北海道ニセコ。どうやってニセコはインバウンドをものにしたのでしょうか。海外の富裕層を取り込む外国資本の戦略、日本の観光に足りていないものとは何なのでしょうか。
ニセコは開発と環境のバランスが崩れてきており、すでにオーバーキャパシティーだとの声も挙がっています。
「第二のニセコ」を探し、混雑し割高となったニセコから、ルスツ(虻田郡留寿都村)やキロロ(余市郡赤井川村)、富良野や長野県の白馬などで投資や開発機会を物色する動きも盛んです。
ニセコに限らず、開発と環境のバランスは多くのリゾート地の課題です。
上下水道整備、温泉枯渇、景観・森林破壊、交通渋滞、騒音など、どれも地元住民への負担を強いるのです。
このためニセコ町では、2004年に景観条例を定め、大型開発計画においては町との事前協議を課し、事業着手前に住民説明会を開催するように求めています。
また俱知安町では2008年、ひらふ地区での建築物の高さ規制を設け、2019年には宿泊税を導入し、現在、上水道整備に関して、一定規模以上の開発業者に対する負担金制度なども検討しているといいます。
上下水道や電気や道路など、法令に則り一義的には行政が対応すべき部分があるかと思うが、財政の制約もあり、議会や住民の意見などを踏まえ、相応の負担を民間の開発業者や利用者に求めることは、理解が得られるでしょう。
ある程度の規制や負担は、ニセコのブランド価値や利用者の利便性の向上につながり、開発業者などを含め、すべての当事者にメリットとなることです。
農林水産省が実施した「外国資本による森林買収に関する調査」によると、居住地が海外にある外国法人または外国人と思われる者による森林買収の事例は、2019年に全国で31件あり、買収された森林面積は163haとなりました。
このうちニセコエリア(俱知安町、ニセコ町、蘭越町)は17件と過半を超え、森林面積でも35・82haを占めるに至っています。
取得者は香港が最多の10件で、以下シンガポール、タイ、英領ヴァージン諸島、オーストラリアとなっています。
利用目的は、別荘用地や別荘地開発、資産保有が多いものの、未定、不明とされるものもあり気掛かりです。
2006年から2019年までの14年間の集計では、ニセコエリアでは172件、買収された森林面積580haとなっており、全国合計の264件の過半以上を占め、同面積(2305ha)でも4分の1以上を占めています。
ニセコエリアだけでなく、近隣のルスツ(4件)、洞爺湖(2件)に加え、富良野エリア(2件)でも外資による資産保有などを目的とした森林買収が進んでいます(2019年)。
ニセコエリアも含め、多くのケースが調査結果にあるように、別荘用地やリゾート用地としての取得とみられます。
華僑など富裕層が、円建て資産を資産運用や節税対策などで所有するケースもあるでしょう。
一方で、北海道や長崎、沖縄などで起きているとされる、外国資本による水資源確保のための山林の買い占めや、自衛隊基地や原発施設などの隣接地の土地取得など、安全保障上の懸念があると、話は違ってきます。
ニセコに同様の案件があるのかは承知しませんが、こうした事案には当然ながら厳粛に対応すべきであり、買収先が現在、政治的に良好な関係にあるとはいえない韓国や中国のような国の資本によるものであれば、なおさらです。
現在の法制度では対応や規制ができないのであれば、国が主導し、条例や法律によって規制を強化しないと、大事になってしまうのではないかと危惧します。
森林買収だけではなく、住宅地や商業地における不動産売買でも同様です。
ニセコにおいては、森林買収と同様、大部分は居住目的、商業利用、資産保有目的とみられますが、その所有者には英国領のヴァージン諸島やケイマン諸島など、税金が極端に低いタックスヘイブン(租税回避地)にあるペーパーカンパニーなども散見されるといいます。
不動産売買における純粋な投融資や合法的な節税は、市場経済における経済活動のベースとなるものであり、むやみに規制をすべきでありませんが、明らかな脱税行為だけでなく、マネーロンダリングやテロや治安、安全保障の観点からも規制を強化すべき部分があります。
ニセコの不動産売買における、国内外の富裕層や企業による海外への資産隠しや海外企業を利用した国際的な租税回避に対しては、地元の俱知安税務署や札幌国税局だけでなく、たとえば東京の国税庁本庁も含め、東京国税局や大阪国税局などにあるとされる「超富裕層PT」を札幌国税局にも設立し専門的に対応するなど、健全なる納税者や投資家が不公平とならないような国レベルでの包括的な対応が必要でしょう。