良い意味だけでなく、悪い意味でも使われる「まじめ」。正直で責任感がある「健全なまじめさ」と、まじめすぎて不寛容な状態「不健全なまじめさ」があります。
なぜ、二つに分かれるのか。健全なまじめさを手に入れるにはどうすればいいのでしょうか。
辞書で『まじめ』を引くと『嘘がなく本気であること、誠実であること』とあります。本来の意味であれば、まじめであるのは素晴らしいことです。
しかし、いまはまじめの定義が広く、ポジティブな意味でもネガティブな意味でも使われます。
そこで、正直で責任感があり、物事をきちんとこなすといったポジティブなまじめを、私は『健全なまじめさ』と表現することにしています。
このまじめさは、災害のときでもきちんと列を作って救援物資を待ったり、お互いに助け合ったりする日本人の多くが持っている性質だと思っています。
一方で、カスハラや自粛警察などに見られる、まじめすぎて不寛容になってしまった状態を『不健全なまじめさ』と表現します。
同じまじめでも健全・不健全に分かれてしまうのはなぜでしょうか? 性格的なことが要因ではなく、実は脳の使い方が違うんです。
ウェルビーイングな脳の使い方を 、健全なまじめさと不健全なまじめさを分けている脳の領域のひとつが、大脳の内側に位置している「島皮質」の働きなのだという。 「島皮質が活発に活動していると、共感力が高まり、相手を思いやり、助ける気持ちが強くなることがわかっています。
一方、ここの動きが鈍くなると、扁桃体(側頭葉という脳の中心近くにあり、不安や恐怖などの感情にかかわる神経群)が過剰反応し、『他人を責める』『融通が利かない』『人の言うなりになる』『損得のために嘘をつく』といったネガティブな反応が出るようになります。
掲載図の縦軸にあるように、“まじめすぎ”と“ふまじめ”は、行ったり来たりする関係性。脳の動き方も、実は同じなのだそうです。
多くの人は、縦軸の中でうまくバランスを取ろうとするのですが、島皮質の動きが活発化しない限り、不健全なまじめさから抜け出せません。
不健全なまじめさの特徴は、「個分離思考」という脳の使い方をしている点だといいます。
個分離思考とは、自分と相手の考えが分離している状態。自分のことに執着し、他人への理解ができていない。たとえば友人に『あなたのために言ってるのよ』と忠告しても、個分離思考の人は相手のことを思いやっているのではなく、自分の意見こそが正しくて、それを押しつけたいだけ。当然、相手に響くはずがありません。相手の迷惑になっていることにも気づかないのが特徴です。
知人や家族に正義の押し売りをしていないか、振り返ってみなければ……。それに対して、健全なまじめの脳は、「共同体思考」という状態になっているといいます。
共同体思考とは、相手を認め、受け入れられている状態です。お互いが精神的に対等で信頼関係が築けているので『あなたのため』は額面通り相手に伝わります。
世界保健機関(WHO)が自分やまわりの人、共同体、社会全体が健全で健康な状態を『ウェルビーイング』と定義しています。
健全なまじめさを持つ人は、まさにウェルビーイングな脳の使い方をしています。まわりの人たちが無意識のうちにその健全さに影響され、ほかの人たちにも波及していくのです。
ちなみに、相手の言うなりになりがちな人は、一見共同体思考のように見えますが、気持ちのうえでは完全に分離しています。不健全なまじめさは閉塞感を生むだけ。ぜひ、健全なまじめさを目指しましょう。
ちなみに、島皮質は脳の中継基地の役割もあり、活動が活発になると、脳内のネットワークがつながっていくため、脳全体の機能も上がるといううれしい副産物もあります。 「いま、不健全な思考に陥っている」と思ったら、変わるチャンスかもしれません。
脳を健全にする日々の習慣とは では、実際どんな脳のトレーニングをすれば、健全なまじめさを手に入れることができるのでしょうか?
何だ、そんなこと?と言われるかもしれませんが、『感謝の気持ちを持つこと』です。
これが最も取り入れやすく、効果も期待できます。
あまり大げさに構えず、感謝のタネを探す程度でOKです。
たとえば、コンビニのレジの店員さんに『ありがとう』と言うのを習慣にすればどうでしょうか。
店員さんがいてくれるからいつでもモノが買えるわけだし、元気に挨拶してくれるとうれしい気分にもなれます。
以前『こちらは金を払っているんだから当然だ』くらいに思っていたのですから、ずいぶん変わります。
人間の脳には《集合知性》という機能が格納されていて、深い信頼関係で結ばれた仲間が心をひとつにすると、《天才知性》を超えるパフォーマンスを発揮できる』という論文があり、おおいに興味をそそられました。
実際、感謝の気持ちを持ち続けることで成長志向となり、自制心が増す、物事を前向きに捉えるよう脳が活性化するという研究結果も出ています。
別の研究では、ダメ出しする人よりも、感謝の気持ちを感じられる人の方が、成長意欲が高く、心が折れにくいということもわかっているそうです。
感謝をする相手は家族でなくても、神社仏閣でも、ペットでも、推しでもOKです。見返りを求めるのではなく、常に感謝の心を持ち続ける普遍性が重要。毎日の習慣にできれば、大きな一歩です。
「自分が嫌でたまらない」「あの人が許せない」といった負の気持ちを育てるより、「ありがとうのタネ」を探した方が、脳も幸せになれます。