日銀が金融政策決定会合で利上げを決め、今月1日から政策金利が0.15%引き上げられて年0.25%になっています。
3月のマイナス金利解除から約4ヵ月。政策金利が0~0.1%の「金利がほぼない状態」を脱し、日本は16年ぶりに「金利のある時代」を迎えました。
日銀が追加利上げを決めた直後、大手銀行は普通預金の金利を5倍に引き上げると相次ぎ発表。三井住友銀行は今月6日から0.02%の普通預金金利を年0.10%に引き上げ、三菱UFJ銀行とみずほ銀行は9月2日から適用します。
もっとも、現役世代にとっては、住宅ローンや教育ローンなどの金利が気になるところだろう。 住宅ローンの場合、金利タイプは大きく分けて、金利が一定の「固定金利」と半年ごとに金利が見直される「変動金利」の2種類があります。
今回の利上げで動向が注目されるのは、住宅ローン契約者の7、8割が利用しているとされる変動金利だ。 変動金利は、日銀の政策金利を基に決まる「短期プライムレート」(以下「短プラ」)に連動するケースが少なくありません。
多くの金融機関は短プラに1%程度上乗せする形で、住宅ローン金利の「定価」に当たる基準金利を独自に設定しています。基本的に、日銀が政策金利を引き上げると短プラの金利は上昇し、そこに連動している変動金利も上がります。
今回の日銀の利上げを受けて三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行のメガバンク3行は、短プラを年1.475%から1.625%に引き上げると発表。他の金融機関も追随すると見られている。短プラが引き上げられることにより、変動金利の上昇は必至と言えそうです。
メガバンクや地銀は’09年1月から約15年半、短プラを年1.475%で据え置いてきました。今回は政策金利が0.1%から0.25%に上がったことで、メガバンクがそうしたように、他の金融機関も短プラを0.15%引き上げるはずです。今回の利上げでは、変動金利の基準金利は0.15%上がると考えていいでしょう。
ただし、すべての銀行が変動金利を短プラに連動させているわけではなく、住信SBIネット銀行、楽天銀行、イオン銀行の3行は、3月のマイナス金利解除を受けて変動金利の基準金利を引き上げました。
このうち、変動金利を短プラに連動させているのは住信SBIネット銀行だけで、楽天銀行とイオン銀行は市場金利に連動して基準金利を決めています。
また、ソニー銀行は日銀の利上げとは関係なく、8月から変動金利の基準金利を引き上げました。ソニー銀行も楽天銀行などと同様、市場金利の動きを踏まえて基準金利を決めているようです。
今回の日銀の追加利上げで、それらのネット銀行が再び変動金利を上げてくる可能性について、住信SBIネット銀行は、10月から短プラをさらに0.15%引き上げることを発表しています。
ネット銀行は基準金利を採算ラインぎりぎりに設定してきたので、今回の利上げでも引上げに動くと思うんです。
短期金融市場からの資金調達のコストを考えても、ネット銀行はメガバンクより日銀の利上げの影響を受けやすいですし、変動金利を引き上げざるを得ないんじゃないでしょうか。
ここ2、3年、ネット銀行で住宅ローンを組む人が増えていると聞きます。もしかすると、ネット銀行で住宅ローンを変動金利で借りている人は、今回の利上げによる影響が大きいかもしれません。
最悪のシナリオは「スタグフレーション」 先月31日の金融政策決定会合終了後、日銀の植田和男総裁は記者会見でこう述べた。物価上昇率が見通しに沿って推移していけば「それに応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」と。
植田総裁の会見から1週間後の今月7日、日銀の内田真一副総裁は北海道函館市での講演で「金融資本市場が不安定な状況で、利上げすることはない」と話し、追加利上げに慎重な姿勢を示した。ただ、「総裁との間に考え方の違いがあるわけではない」とも述べており、市場関係者は「市場が落ち着けば利上げにかじを切るだろう」と見ているようです。
短期金融市場では、年内の追加利上げも2、3割程度、予想されてはいます。 でもメインシナリオは、’25年の3月か遅くとも4月までには0.25%引き上げて0.5%に、そして、’25年の9月か10月にも利上げをして0.75%にするというものです。
さらに、’26年の3月末頃には1%パーセントに上昇すると見る金融市場の専門家が増えてきている印象です。
政策金利が1%に上がった場合、すでに低い変動金利で借りている世帯は返済額が大きく増えます。
政策金利が1%になった時の変動金利に、果たして耐えられるかどうかです。
これまでは大体、変動金利の基準金利は2.475%、適用金利が0.3~0.5%前後でした。適用金利というのは、基準金利から優遇幅を差し引いた実際の負担金利です。
政策金利が1%に上がれば、適用金利は1%を大きく超えてきます。 適用金利が0.3~0.5%なら、ローン残高の0.7%が所得税から控除される住宅ローン減税で戻ってくる額のほうが利払い分より多いのです。
でも政策金利が1%になると、住宅ローンの利払いがローン減税の控除額を上回ることになります。 融資の限度枠ギリギリでローンを組んでいる人は、おそらく固定金利への借り換えもできないはずです。
そうなってくると、政策金利が1%に上がった先のシナリオが気がかりです。
仮に1%が続くと、その後、日本経済は不況になる可能性があります。 一番悪いシナリオは、政策金利が1%に上がってもインフレが収まらず、不況が深刻化し、スタグフレーションに陥ることです。
金利を下げることも上げることもできない状態で、景気がどんどん悪くなって物価だけ上がっていく。そうなると、ローンを払えなくなる人が続出しても不思議ではないです。
今のところは、’26年の3月末までに政策金利は1%に上がり、それからどのくらいのスパンになるかはわからないけれども2%に向かっていくだろうと、市場関係者は捉えていると思います。
2%が現実味を帯びてきた感じなので、30年のローンを組んだ人は頭に入れておいたほうがいいでしょう。 ネット銀行でローンを組んだ人は特に、借りた時の金利が低かっただけに、金利が上がると返済が苦しくなりそうです。
住宅ローン減税で戻ってきたお金や毎月の黒字は使わずに、将来の繰り上げ返済や変動金利の引上げに備えて貯蓄に回すことが大事です。
個人向け国債は3ヵ月に一度見直されて、金利の上昇分だけ利息が上がるんです。
NISAなどの投資はやめたほうがいいでしょう。5年ぐらい続ければ必ず儲かるみたいな話になっていますが、そうなる保証はありません。
個人向け国債で少しずつ増やして、繰り上げ返済に当てるほうが賢いと思います。
住宅ローンの変動金利利用者が、低金利の恩恵にあずかることができた時代は終わりつつあります。
ローンの返済を終えた、預金などの金融資産を持った高齢者に有利に働く一方、現役世代は、住宅ローンの返済額は上がるし社会保障の負担も増えているしで、ますます経済的に苦しくなっていきます。
財務省によると、’24年度の国民負担率(租税負担率+社会保障負担率)は45.1%(推計)だ。ゼロ金利政策が初めて実施された1999年の国民負担率は35.4%、マイナス金利政策が始まった’16年は42.7%だった。負担が増加していることは一目瞭然でしょう。
今、SNSには「現役世代の社会保険料を削減すべきです」「さっさと社会保険料を下げる政策とれよ」といった声が上がっています。
昨年度の国の税収は72兆円余りで、4年連続で過去最高を更新しました。それでも社会保障費は上がります。
税収が上がっていれば、普通の政策としては消費税とか社会保障費を下げます。でも岸田内閣は、定額減税4万円でお茶をにごしました。
住宅ローン金利が上がってマイホームの夢は遠のき、社会保障の負担が重くて賃金は上がれど生活費はかつかつ……。これでは日本の婚姻率アップも少子化の解消も望めるはずがないでしょう。