「仕事で心が疲弊してしまう」 最近よく聞くようになりました。
それはいまの世代の人たちの心が弱いとか、精神力がないということではありません。苦しくてもがんばるという状態が慢性化すると、実際に脳の健康を損ねるのです。
そして、うつになることもあると脳科学で解明されてきました。
脳には、危険なものなどの自分にとってよくないものをキャッチしたり、物事を悪いほうに捉えようとしたりする「ネガティブバイアス」が備わっています。
この特性は、もともとは過酷な環境の中で人類が生き延びていくために必要なものでした。
そして人は危険なものを察知すると、「Fight or Flight状態」、略して「FF状態」になります。
Fightは闘う、Flightは飛ぶ。要は、危険を察知すると「全力で闘う」か「一目散に逃げるか」のどちらかを選ぶのです。
この苦しくてもがんばる状態は、脳が「FF状態」になっています。
たしかに一過性の力は発揮できるのですが、非常に苦しい状態です。
FF状態が慢性的になると脳の健康を損ね、脳細胞が破壊されることにもなります。
たとえば、パワハラ的な人がいて、その人の顔を見るのもつらくなることがあります。思い出すだけでトラウマ反応を起こして、体が震えたり、涙が止まらなくなったりといったことがあります。
これは、FF状態に追い込まれているということ。それはけっして心が弱いとか根性がないとかということではないのです。
人間は本来、皆で心をひとつにして助け合いながらより高みを目指すことをしていくと、フロー状態に入り、すごいパフォーマンスが発揮できるのです。
それを「集合知性」といいます。「集合知性」は皆でフローに入っている状態です。 そういう集合知性が発揮できるようなリーダーがどんどん世の中に育ってきて、「今日も仕事に行くのが楽しい」という人が増えきてほしいものです。
そして、力を合わせて社会に貢献していく、素晴らしいものを提供していく、そういう職場が世の中にもっともっと増えてくれたらと願っています。
「やるべきことが続けられない」 「成果がなかなか出ない」 このような悩みはよく聞きます。
そもそも、好きだから続けられて、成果が出せるのでしょうか。
それとも、使命感があるからこそ続けられて、成果が出せるのでしょうか。 あるいは、自分にとっていいことがある――給料が上がる、昇進できるから、続けられて、成果が出せるようになるのでしょうか。
アメリカ・イェール大学の研究で、「好きだから続けられる」というのが、長期的に見て成果が出せるということがわかってきました。
「苦しくてもやるのが仕事だ」のように、教えられることがあるかもしれません。
しかし脳科学の研究から見ると、一番大切なのは仕事を好きになることです。好きだから続けられる、そして、続けることで脳の成長サイクルが回って成果が出せるということです。
もしかしたら、皆さんの部下や一緒に仕事をしている仲間に、「好きで就いた仕事でない」という人も多いかもしれません。
そういうときは、まずは深い信頼がある人間関係を作ることを意識するといいでしょう。親しみを感じる人、尊敬できる人がいると、職場に行くのが楽しみになり、仕事にも愛着を感じられるようになるからです。
親しみを感じる仲間がいて、それが心の安全基地になることはとても重要です。「この仲間と一緒にこの仕事ができることがありがたいな」となると、だんだん仕事が好きになっていきます。
親しみを感じる人、尊敬している人に、「いまやっていることはとても大切なことなんだよ。あなたはそれだけ大切なことをやっているんだよ」と言われたらさらにモチベーションが上がりますよね。
そもそも、いま自分が好きなものというのは、時間を戻して突きつめていくと、一生懸命にやっていたのを親がほめてくれたとか、友達が「すごいね」と言って一緒に喜んでくれたとかがあることでしょう。
ちなみに、心の安全基地というのは、もともと心理学で「子どもは親との信頼関係によって心の安全基地を育む」というのがありました。
この心の安全基地が大人にも必要ということがわかってきました。 子どもの場合は、母親などの大人が「心の安全基地」、子どもが「冒険者」というように役割が固定されていますが、大人の場合は心の安全基地と冒険者の役割が固定されておらず、場面に応じて入れ替わります。
この心の安全基地があるかどうかが、脳や体の健康に影響を与える、ともいえる研究結果もあります。 皆さんの心の安全基地はありますか? また、仲間の心の安全基地になっていますか? 物事を成し遂げるには情熱が必要です。
脳科学の研究で、情熱にも大きく分けて2種類あることがわかってきました。ひとつは「個分離思考の情熱」、もうひとつは「共同体思考の情熱」といいます。
もともと「個分離思考」とは「共同体思考」と共に、数々の論文や研究結果をもとに僕が見つけ出し、名づけたものです。個分離思考は相手と自分を個として分離して捉えます。このため、二元対立の関係を作りやすくなってしまいます。
つまり、「個分離思考の情熱」とは、強迫観念で「自分がこれをやらねばもう命がない」といったように、完全にFF状態(Fight or Flight:闘うか・逃げるかの状態)に入って、一生懸命やろうとしている状態です。
この情熱では、一時はうまくいっても、長く続かなく、何よりとても苦しい。それに対して「共同体思考の情熱」は、仲間と調和を保ちながらみんなでお互いにエネルギーを高め合って新しい道を切り開いていくことです。
この状態だと、リラックスした集中のフローに入りやすいので、物事がサクサク進められます。