「マイナンバーカード」のポイント付与第二弾の締め切りは、当初は2022年9月末でしたが、これが2022年12月末に延期され、さらに2023年2月末に延期されました。
そのたびに駆け込みで多くの方が申し込み、この山ができました。2月末の最終申し込みでは、大量の駆け込み申請が殺到し、自治体の窓口で5時間も待ったという人も出ました。
「マイナポイント第二弾」は、「マイナンバーカード」の作成で5000円、「マイナ保険証」作成で7500円、金融機関への紐付けで7500円分のポイントがつくキャンペーンだったので、ここで大勢の人が「マイナ保険証」も一緒に申し込んでいるのです。
この人たちが、5年後の同じ時期に一斉に「マイナ保険証」の更新期限を迎え、自治体の窓口に殺到するのですから、そこでどれほどの混雑状態になるかは、火を見るより明らかです。
しかも、駆け込みで申し込んだ人の中には、「マイナ保険証」の必要性や有用性を感じたというよりも、2万円のポイントにつられて申請している人も少なくないでしょう。中には、5年後に更新する必要があると知らなかったり、暗証番号を忘れてしまったりする人が出ることも考えられます。
覚えていたとしても、何時間も役所の窓口で待たされた苦い経験を覚えている人が多いことが予想されます。
そうなると、各種暗証番号を忘れて更新できない人や、長時間並ぶのが面倒だから更新しないという人が少なからず出てくる可能性があるでしょう。
そうなると何が起こるのかと言えば、すでに「健康保険証」が廃止されていますから、「無保険」になる人が続出してしまうのです。日本は国民皆保険なので、基本的には誰もが何らかの健康保険に加入しているはずですが、実は、無保険者も存在します。
厚生労働省のデータでは、国民健康保険の保険料を払えずに滞納している世帯が約245万世帯、滞納率は13.7%です。
このうち3割の世帯は、滞納を理由に保険証を取り上げられています。
滞納理由の一つは、国保の健康保険料が高すぎること。国保の保険料は、単身者で年収200万円なら年間約17万円、年収300万円なら約25万円、年収400万円なら約34万円。しかも、自分から納めなくてはいけない仕組みになっています。
現在は、健康保険組合などに「健康保険証」の発行・送付が義務付けられているので、保険証を手元で受け取るために、保険料が高くても保険料を支払わなくてはならないと考えている人も多いはず。
ところが、「マイナ保険証」は、本人が申請しない限り交付されないものですから、面倒で保険証を更新しないままだと、わざわざ高い保険料を支払いに行く気もなくなるでしょう。
もちろん、そうなれば自動的に「保険」に入っていない状態になるのですが、収入が低い人の中には申請をしない人がかなり出ることが予想されます。
特に若者層では、「病気になりそうもないから保険料は払わない」という人も出てくるかもしれません。
実際、若い人の中には何年も病院にかかったことがない人もいるでしょうから、結果的に保険が必要なかったと考える人が出ても不思議ではありません。問題は、こうした人が増えることで、「無保険でも大丈夫」という空気が拡散されていく恐れがあることです。
国民皆保険制度から脱落していく可能性が高いのは、若者だけでなく高齢者も同じです。5年後の2028年には、日本は高齢化のピークを迎えます。
1995年には、75歳以上が718万人でしたが、2025年には約3倍の2180万人になります。 75歳以上の多くは、介護施設に入居するということになるのでしょうが、全員が入所するのは難しいため、厚生労働省は自宅での介護を推奨しています。
その場合、本人がマイナンバーカードを管理しなければいけません。
カードを紛失したり、各種暗証番号などがわからず更新できないと、再発行や、番号の再交付など手続きが必要であり、そうしたしわ寄せが来るのは同居している家族です。
さらに厄介なことに、家族がいない「おひとりさま」の高齢者も急増することが予想されています。
東京都だけでも、現時点で75歳以上の単身高齢者が50万人以上いますが、こうした人たちがスムーズに「マイナンバーカード」を更新できるとは考えられません。無保険になる人が多数出てきても不思議ではないでしょう。
いざというときには直ちに医療を受けなければならない、申請漏れなどで無保険者をつくってしまうことは、皆保険制度のもとであってはならない、という現場の声を無視したまま、自民党の数の力で法案が通れば、国民皆保険から脱落して行く高齢者は、どんどん増えて行くことでしょう。
しかも、こうして無保険者が増えてしまうことは、無保険になる本人だけではなく、きちんと保険料を納めている人にとっても、困った事態を引き起こすのです。
若者から老人まで、多くの人が国民皆保険から脱落していけば、残った人で保険を支えていかなくてはなりません。
支え手の減少が保険料のさらなる値上げを招くことは明らか。しかも、こうして保険料が上がれば、「保険料が高い」→「保険から脱落する人が増加」→「さらに保険料が上がる」という負の連鎖が続き、最終的に待っているのは、保険制度自体の崩壊なのです。
こうした手続き上の不安に加えて、さらに危惧されるのは、情報のハッキングの問題です。 日本のように、医療情報を一元化して国が管理しようとする国は多くありますが、こうしたところほどハッカーに狙われる恐れがあると言われています。
なぜなら、個人の医療データは、闇市場では高値で売買されるからです。
2018年、医療大国のシンガポールが大規模なサイバー攻撃を受け、リー・シェンロン首相をはじめ約150万人の医療情報が流出。首相がどんな薬を飲んでいるかという情報まで、ハッカーに盗まれたことがありました。
首相の健康状態がもれることは安全保障上の大問題です。
シンガポールは、2014年から、情報通信技術(ICT)を活用し保健省管轄下で公営医療グループ・シングヘルスが医療情報基盤を構築してきましたが、医療情報が中央集権化されていたために、これが裏目に出たのです 。
日本にもハッキングの脅威が 日本も将来的には「医療情報の中央集権化」を進めていますが、もしこれがハッキングされたら、事態はシンガポールよりも深刻になりそうです。
なぜなら、日本は医療情報に限らず、印鑑証明や運転免許証の情報まで「マイナンバーカード」で管理し、その全ての情報を「マイナポータル」を通じてWeb上で見られるように進めているからです。
こうした意見に対し、「マイナンバー」は、「一ヶ所にまとめて保管されておらず、民間活用も禁じられているので、情報漏れの心配はない」と反論されるかもしれません。国もそう言っています。
確かに、「マイナンバー」は分散管理されていますが、「マイナンバーカード」は、これとは別物と考えたほうがいいでしょう。
民間利用が可能な理由 「マイナンバー」と「マイナンバーカード」は別物だということは、デジタル庁の下記のQ&Aを見ると、よくわかると思います。
マイナンバーカードについては、マイナンバーそのものは使わずに、例えば、
1.オンラインバンキングをはじめ、各種の民間オンライン取り引きでの利用
2.医療保険のオンライン資格確認を行うことによる健康保険証としての機能
3.クレジットカード、キャッシュカードとしての利用についても検討
以上のような民間活用策が検討されています。(2016年2月回答) ----------
「マイナンバーカード」の裏面には、数字のマイナンバーだけでなく、ICチップ内のAP(アクセスポイント)があり、「電子証明書」「空き領域」「その他(券面情報等)」につながるようになっています。
つまり、「マイナンバー」があるだけでは単なる顔つき証明書にしかなりませんが、ICチップを搭載していることで、様々なところにアクセスできるようになっています。
しかも、「マイナンバー」は民間利用を法律で禁じていますが、ICチップの部分は、「マイナンバー」そのものを使わないので「民間も含めて幅広い利用が可能」なのです。
そして、この民間利用を誰が許可するかといえば、行政機関のほか、内閣総理大臣及び総務大臣です。
空き領域についても同じです。つまり、「マイナンバーカード」は医療情報に限らず、あらゆる個人情報を集めることができ、政府が管理する「情報の中央集権化」が可能なツールに他ならないのです。
ですから、これをハッキングされたら、ひとたまりもありません。
そうならないことを願うのみですが、日本の数歩先をいっていると言われるIT大国のシンガポールでさえ、ハッカーの餌食になっています。
最も情報流出を起こしてはいけないデジタル庁から情報が漏れるようなガードの甘いこの国のシステムを考えると、ハッカーに狙われないはずはないでしょう。
無保険者があふれ、個人情報がダダ漏れになるなどということは、あってはならない未来です。
そうした悪夢のような未来を子供たちに残さないためにも、拙速な「マイナ保険証」の義務化、「健康保険証」の廃止は、踏みとどまるべきでしょう。