「金融のプロにお任せ」「あなたに最適な運用を」このように謳うラップ口座は、金融機関がお客と投資一任契約を交わし、お客に代わって資産運用をするサービスです。
お客ごとに資産を包む(ラップ)ように専用口座を設け、運用目的やリスク許容度に応じた資産配分に沿って、専用ファンドを組み合わせて運用します。
金融機関によって名称はさまざまだが、一般的には「ファンドラップ」、富裕層向けは「SMA(Separately Managed Account)」が主に使われます。
このラップ口座が順調に増えています。
2021年6月末時点で運用残高が約11兆9000 億円、口座数は約 122万件。15年3月末の残高は4兆円に満たなかったことを考えると、かなりの急拡大であることが分かります。
普通の投資信託に投資する場合、お客自身が何を、どのタイミングで買うのかを決めなくてはなりません。
購入時には商品ごとに販売手数料も取られます。それに対して、ラップ口座は300万~500万円以上のまとまった資金があれば、大まかな方針を選ぶだけで、後は資産運用を金融のプロに“お任せ”できるので手軽なのは間違いありません。
金融機関にとってもいい話で、ラップビジネスはお客の資産残高にまるまるフィーをかける資産管理型のビジネスです。
かつてのように手数料目当てに短期間で投信の買い替えを促し、「露骨な販売手数料稼ぎ」「回転売買だ」とたたかれることもありません。
ところが、ラップ口座については、肝心の実態がよく分かっていなかったのです。
コストは一般的にファンドラップ手数料などと呼ばれる管理費用、投資一任受任料、それに投信そのものの保有コストである信託報酬が別にかかってきます。
投資一任受任料には固定報酬、実績連動などさまざまなパターンがあり、料金の仕組みは極めてややこしいです。
リターンについても、お客にカスタマイズされ、専用ファンドを組み合わせたポートフォリオで運用されるため、お客ごとにばらばらです。
先が短いシニアの資産運用や管理はどうしたらよいのか悩ましく、退職金や長年コツコツ貯めた預貯金は、何もしなければインフレで目減りしていくばかりです。
高齢になると怖いのが、ボケたり、ちょっとしたケガで寝込んだりすることです。残された家族が困らないためのお金の終活はどうしたらいいのか考えるでしょう。
定年で退職した方の話ですが、近所にある銀行の声のきれいな女性行員から、「資産を形成したいなら、お勧めしたい金融商品がある」と、何度も勧誘の電話をもらっており、強く勧めてきたのが「ファンドラップ」です。
複数の投資信託(投信)に分散して投資してくれる金融サービスで、言ってみれば、投信を集めた投信のようなものです。
「お忙しい方やマーケットを見て自分で判断するのが面倒な人のために、運用のプロがその人にあわせた運用を行ってくれます」
女性行員が流ちょうにファンドラップの内容や特徴を説明します。
投資金額は300万円からで、顧客の運用方針にあわせて「積極型」や「安定型」など6つの運用コースを設けているようです。
「確定利回りではありませんが、5年ももてば、安定型なら年2~3%、積極型なら年4~5%台の利回りが期待できます」
パンフレットには、太字で「ご契約時のお申込み手数料は無料です」と書いてあります。
だが、裏面には「ご留意点」として小さな文字がびっしりと並んでいて、「固定報酬型:基本報酬率/上限年率1.54%<消費税込>」とあるのがなんとか判別できます。
これは契約時の手数料はゼロでも毎年、残高の1%以上の金額が運用資産から差し引かれるということです。
プロが運用してくれるのだから、そのくらいの手数料は仕方がないかと思い女性行員に聞いてみると
「手数料はこれだけですか」 「これ以外にも、各投信に払う手数料が……」
それまで歯切れよく説明していた女性行員の口調がとたんに重くなったとのことです。
このファンドラップは15本の投信に分散投資していて、それらの投信の信託報酬もファンドラップの契約者が支払う必要があります。
顧客の資産配分の状況や各投信のその時の時価によって変りますが、追加手数料は1%ほどになるといいます。
つまり、基本報酬と合わせて運用資産残高の2.5%ほどの手数料を毎年支払わないといけないのです。
3~5%の利回りを求める投資で、この手数料は高くないでしょうか。
この銀行ではこのファンドラップや投信などの申込金額を上限に、年利1%の定期預金や年利4%の外貨定期預金を契約できることも売りにしています。
両方とも3カ月間の限定ですが、ゼロ金利が当たり前の日本では魅力的な水準です。
ただ、それだけ高い金利をつけるのは、抱き合わせ販売のファンドラップや投信でそれ以上の手数料を取れるからです。
話の途中で、「ドルMMF」を扱ってないか聞いてみると「手続きに手間がかかりますよ」と渋い顔をされたようです。
代わりに勧められたのが前述の外貨定期預金です。
ドルMMFは投資信託の一種だが、普通預金感覚で使えるうえに、安全性や税制の面で、ドル預金より優位性があります。2月末時点で利回りは4%を超えています。
説明の最期に、証券会社の社員の同席を了承する書面にサインを求められました。
実はこの商品、銀行が提供するサービスではなく、顧客は証券会社と投資一任契約を結ぶことになるというのです。
つまり、銀行は契約の代理人でしかないのです。
サインはせずに、「資料をよく読んで興味があれば年明けに連絡する」と回答したようです。
渡された説明書に羅列してあった「お客さま本位」という言葉がだんだんと「金融機関本位」に思えてきて、銀行に再度連絡することはなかったそうです。
ちなみに、銀行の持ち株会社の株価は、日本銀行の緩和修正期待もあって、2月末点で昨年12月の安値より30%近く上昇しています。
それでも、予想配当利回りは3%を大きく超えています。
結果論ですが、銀行の行員が強く勧める金融商品より、銀行の株を買ったほうが、老後資金は増えたことになります。
ファンドラップの問題点は、ファンドの管理手数料だけでなく、組み込まれている投信の運用手数料(信託報酬)もかかることです。
同じようなことを二重で行っているために、コストも二重にかかってくるのです。
運用コストの高さに対しては金融庁も問題視しているのに、金融機関が販売を続けているのは、儲かるからです。
ターゲットは、コツコツと貯めてきた預貯金や、退職や相続でまとまったお金を持っているシニア層です。
ネット取引やネット検索での情報収集に慣れている若い世代と比べて、金融の知識に疎く、判断力も衰え始めています。
投資信託協会のアンケート(2022年)によると、金融機関に勧められて投信を買った人は全体の36.1%。高年齢になるほどその比率は高く、60代では48.6%、70代では58.5%になります。
インターネットで見たり調べたりして買った人は全体の25.1%。30代は41.9%だが、70代は10.7%でしかない。
ネット取引に慣れていない高齢者は 金融機関の言いなりになりやすいので注意が必要です。