国土交通省が作成した資料「マンションを取り巻く現状について」によると、20階以上のタワーマンション(タワマン)の新築竣工棟数は2000年代に入って大幅に増加しており、2021年末の累計棟数は全国で約1400棟に上るといいます。
しかし最近、そのタワマンに関して、否定的な記事や論説を目にすることが多くなりました。
十数年前、タワマンを否定するような言辞をメディアで目にすることはほとんどありませんでしたが、時代は少し変わったようです。
東京で目にする超高層ビル群にはちょっと驚かされますが、むしろそこはかとない威圧感に圧倒される思います。
それは、ちょっとしたカルチャーショックで、「人間はこんな異様なものを作ってよいのか」 そんな風に感じるようです。
日本と欧州の大きな違いは、正直に言うと、タワマンは「違和感の塊」です。
建築造形として、あるいはあまりにも強烈な威圧感が迫ってくる情景です。
もちろん、多様な価値感があることはわかっていますし、それを否定するつもりはありません。
ただ、多くの人が、タワマンを「カッコイイ」と崇めていることです。
タワマンのような集合住宅を「カッコイイ」と捉えるのは、人類共通の価値観なのか、という疑問が湧くものです。
ヨーロッパの大学院生を中心とした50人ほどの若者に「超高層住宅についてどう考えるか」というアンケート調査をしたところ、結論だけを先に言ってしまうと、「タワマンで子育てをしてもいいと考えている」との回答は皆無でした。
この結果から類推できることは、まず、G7の中でタワマンに関する意識調査をしたとして、「タワマンで子育てすることに抵抗感がない」と答える人が半数以上になる国は、おそらく日本だけなのではないでしょうか。
そしておそらく、タワマン的な集合住宅を肯定的に捉えているのは、日本や韓国、中国、シンガポールなどの東アジア圏と、ドバイなどの成金的新興国のみなのではないか、という点です。
2017年の6月、イギリスでタワマンの火災が発生しました。死者・行方不明が70人という大きな事件です。
日本のテレビでも大々的に取り上げられました。あの時、情報番組に出演していたコメンテーターたちは、火災が発生したタワマンが低所得者向けの賃貸住宅であるという事実に、明らかに戸惑っていました。
日本のタワマンは、賃貸向けであっても低所得者向けということはあり得ないからです。
しかし、タワマンのような集合住宅はあのイギリスでの事例のように、本来は低所得者向けの賃貸である方がふさわしいのです。
その理由は、まず、火災で話題になったイギリスのタワマンが、低所得者が多く居住するエリアにある「公的な賃貸住宅」であったのには、実に合理的な理由があるからです。
つまり、そのエリアの限られた敷地内で多くの住戸を建設するには、タワマン的な形態がふさわしかったのでしょう。
ところが、日本ではほとんどのタワマンが分譲タイプであり、都心であろうと埋立地であろうと、あるいは地方都市であろうと、行政がそれを認める限り、ところかまわず建設されています。
特に敷地的にはたっぷり余裕がある湾岸の埋立地にタワマンが林立している光景には、どこかアンバランス感が漂います。
さらに理解しがたいのは、そんなタワマンの住人たちが大方の欧米人とは真反対とも言える価値観でタワマンを捉えていることです。
タワマンを崇める人々が生み出した独特の感覚が「階層ヒエラルキー」という価値観を生み出しました。
これは同じタワマンの中でも「価格の高い上層階に住んでいる方がエライ」という、何とも戯画的な価値観です。
都心よりも湾岸エリアにあるタワマンの方が、「階層ヒエラルキー」がより濃厚に認められます。
その理由は、そこに居住する人々の属性が偏っているせいではないかと想像できます。
彼らの多くは「ニューカマーのプチ成功者」であす。
大学進学もしくは就職時に上京し、タワマンが買える程度の収入に達した人々だからこそ、社会的地位や収入の差異には敏感なのかもしれません。
それが「階層ヒエラルキー」という日本のタワマン居住者独特の価値観につながっているのでしょう。
これを外から見て笑っている分には他人事であり、お気楽です。
しかしタワマンの中に住んでいる子どもたちにとってこれは深刻な問題なのです。
「お前んちは8階だろ、ウチは35階だ」などと言う会話が、タワマン内の子ども社会では普通に交わされているといいます。
昭和的な「人はみな平等」という価値観が刷り込まれた人間には、やや背筋が寒くなる情景です。
タワマンの高層階に住むことは、そんなに素晴らしいことなのでしょうか?
タワマンに住むメリットとデメリットを上げながら考えてみたことがあります。
しかし、どう考えてもデメリットの方が圧倒的に多く、強烈です。
タワマンに住むメリットというのは、
1.眺望がいい
2.(物件によっては)共用施設が充実
3.(物件によっては)管理サービスが充実 と、この3点が思い浮かびます。
しかし、このうち2と3は、区分所有者が相応の対価を管理費というカタチで払っているので、厳密な意味でのメリットとは言い難いのです。
そうなると、メリットは1の「眺望」だけです。
その眺望も、毎日同じ情景を見ていると飽きるのではないでしょうか。
飽きれば、その人にとっての価値は失われます。
ということはつまり、眺望に飽きればタワマンに住むメリットは皆無になる、ということではないのでしょうか。
さらに、デメリットなら山のようにあるのですから。