住宅購入を検討する人が多い30~40代、憧れのマイホーム購入時には夢が膨らむものですが、「まだ先のこと」と老後のことまでイメージできずに購入を決断してしまうこともあります。
住宅を購入しようと考えるのは、主に30~40代が最も多く、なかでも夫婦で住宅購入を検討する際には、結婚からさほど年月は経ってなく、子供もまだ小さいというケースが多いでしょう。
この若い世代は、マイホームにどんな夢を描くでしょうか。広くて日当たりのいいリビング、快適な寝室、使い勝手のいいキッチンやクローゼット、子供全員分の子供部屋、素敵な夢を膨らませるものです。
しかし、自分たちが後期高齢者となったときのことをリアルに想像して家づくりを考える人はどれだけいるでしょうか。住宅購入時には、「いま感じている不安はなにか?」を明確にしておく必要があります。
さまざまな不安を抱えていても、「老後の生活」と答える人は皆無です。もちろん、若い世代の夫婦が老後のことを考えるほうが不自然かもしれません。しかし住宅購入時、老後のことを無視したり軽視したりすると、最悪の場合、老いてから家計破綻を起こしかねません。
それは単に住宅ローンを払い切れるかというだけの問題ではありません。いま買おうとしている住宅は、自分の寿命が尽きるまで無事に存在するものでしょうか。
健康でなくなり足腰が弱ってからもその家に住み続けることができるのでしょうか。現実が想像と異なったとき、老後生活は悲惨なものとなってしまいます。
国土交通省が推計した「滅失住宅の国際比較」というデータによると、滅失登記をした住宅の築年数は、日本は平均32.1年です。
つまり解体された家は約32年しか経っていなかったという意味です。一方でイギリスでは80.6年と日本の2倍以上です。なぜ日本の住宅はそんな短期間で解体されてしまうのでしょうか。理由は主に3つ考えられます。
1つ目の理由として挙げられるのが、建物の品質の問題です。日本では高度成長期に住宅が足りず質より量を追求した背景があります。なかには極端に劣化した建物があるのは否めません。
2つ目の理由に「中古住宅市場が活発ではないから」というものがあります。欧米では古い住宅にリフォームを施すことで資産価値を上げ、高く売却することも可能ですが、日本ではそういう考え方と市場は育っていません。
「古民家再生ブーム」は一部でありますが、それはあくまでも何十年も前にお金を潤沢にかけて建てられた立派な屋敷に手を入れる話です。
実際には高度成長期に建てられ躯体が激しく劣化した建物を再生するより、壊して新築にしたほうがよくなるのは当たり前です。
3つ目の理由として挙げられるのが「老後生活に不便な間取りだから」です。
若いころには問題なく住むことができた建物も、足腰が弱ってしまうと住みづらくなります。寝室が2階にあったり、トイレやお風呂が狭かったりするだけでも高齢者が自宅で生活するのは困難です。
それもあって同じ敷地で建て替えていることが考えられます。しかし間取りが不便でも、建て替えができるほどの経済力がある家庭は多くありません。
特にこれから老後を迎える世代にとっては、一生に2度も家を買うのは難しいでしょう。 30年前といまの時代が違うのは、住宅価格の上昇です。
建物価格は高くなっているのに給与はさほど上がっていません。そうなると、いまの30代は買う住宅物件を間違えると、「もう住みづらい家なのに借金だけは残っている」という状況になりかねないのです。
建物の性能が上がっている現代では、建物の寿命は80年程度であるという研究もあります。しかし建物そのものではなく、老後に不向きであるという事情で早くに寿命を迎えてしまうこともあり得ます。
狭小住宅購入で、老後にどんな問題があるか想像できるポイントをまとめてみます。
・足腰が弱ったら玄関前の階段を登れない
・坂道が多くスーパーに買い物に行くことも重労働になる
・2階に寝室があるがトイレは1階にしかない
・1階のリビングは狭く、不便な身体では転倒する危険がある
・自宅で倒れたら救急隊が運び出すのも時間がかかる
・建物の寿命に不安がある
介護状態といっても寝たきりであるとは限らず、家族の支えを借りてなるべく住み慣れた自宅で生活したいと思うでしょう。
それが物理的に無理であれば、介護施設などで生活することになります。もう少し自宅で過ごしたかったと後悔が残るかもしれません。
「その建物の寿命は何年と想定しているか」、「自身が80歳になったときもその家に住み続けるのは想像がつくか」これらのことを考える必要があります。
建売の狭小住宅は80歳になるまでの49年ももたないでしょう。
さらに80歳になるときには、2階が寝室であるため、階段は大変負担になることが想像できます。
この自宅を売って早めに高齢者マンションなどに移ることも考えられますが、建物のクオリティ面から、40年後に中古住宅として売却するのは難しいかもしれません。
劣化がひどいため、解体し更地にして売るしかなくなれば、手元に残るお金は減ります。老後にも住宅ローンが残っていれば売却しても残債を相殺するだけです。
安い買い物といえるかもしれませんが、大きなリスクとなりうる物件です。
老後の対策が取れる住宅を検討するほうが今後の利益が大きいかもしれません。
検討する際のポイントは次のようなものです。
・建物が長寿命であること
・外壁や屋根のメンテナンスが安価であること
・建て替えが不要であること ・1階に寝室を設け、リビングを広く取ること
・徒歩で生活できるよう、近隣にスーパーなどがあること
・人口減となっても売却しやすいであろう立地であること
これらは快適な老後生活への投資ともいえます。
予算は大幅に上がりますが、メンテナンスが安価で、建て替えも不要であるため生涯支出はむしろ抑えられます。
しかし老後生活の半分は、健康ではない状態として過ごす時間です。いわゆる健康寿命が尽きたあとで、どう過ごせるかが人生の最後の豊かさともいえます。
旅行に行けるような体力、体調でなかったとしても自宅を中心としてどう快適に暮らしていけるのか、夫婦で何度も話し合うべきです。
介護を受けながらどう生活をしたいのか、どう自尊心を保つのか、若いうちに話し合うことで対策が取れると思います。
この快適性を叶えるのが住環境、そして資産の余裕です。家を買うときに不安から目先の予算に気を取られてしまうと、人生の最終局面での住環境と資産が崩れてしまいかねません。
30代、40代のうちから快適な老後のために準備しておくべきポイントを3つまとめます。
ポイント1:余裕のある資産づくり(預貯金、資産運用、保険)
2019年に金融審議会市場ワーキンググループの報告書をもとに、老後は2,000万円の貯蓄が必要であるという報道がなされ話題となりました。
2,000万円という金額に驚いた人も多いと思いますが、よく考えるとそれも「コロナ以前」の話です。
コロナ禍以降の急激な物価高により、2,000万円では済まなくなっています。 その家庭の状況によりいくらの貯蓄が必要なのかは分かれますが、公的年金だけで生活するのは困難なのは確かです。
物価高や自分たちの健康が崩れたことも考えて、相当な額の資産を形成していく必要があります。つみたてNISAやiDeCoなどの制度を利用して資産運用を行っていくのはもちろん、保険を使って大病や介護に備えておくことも重要です。
ポイント2:住宅ローンをリタイア後に残さない
家の間取りや立地の問題以外にも、老後に住宅ローンを残さないことも重要です。80歳まで住宅ローンが残るような返済計画では、大病・介護となったときに悲惨なことになります。
定年退職時に繰り上げ返済を行えることが理想です。その返済資金も着実に貯蓄や投資で増やしておく必要があります。
ポイント3:家族やコミュニティでの良好な人間関係 日本には「お金のある孤独なお年寄り」がたくさんいます。資産形成だけに囚われていると人生の根本的な幸福度が下がってしまいます。
特に家族関係が壊れてしまうと老後生活は精神的に不健康なものとなります。お金は自分で何とかするとしても、介護の初期にはやはり家族の協力が必要になります。 またコミュニティでの助け合いがあると大変助かります。
若いころに家庭やコミュニティで身勝手に振舞っていては、いずれお金では解決できない心の問題を抱えてしまいます。現役時代から積極的にコミュニティの活動に参加したり、配偶者や子供達との交流を深めたりしておきたいものです。