日本が人口減少とともに“輝き”を失えば、すべてが悪い方向へと向かいます。
いつまで先進国でいられるか分からないのに、人口減少対策の動きは鈍く、人口減少など「別世界」とばかりに、国内シェア争いにまい進している企業が多いのです。
現在の需要しか見ていないような大規模な開発計画も全国各地に目白押しです。
空き家問題が深刻化しているのに、新築住宅はいまだ建てられています。
人口が増えていた時代の「拡大」による成功体験が染みついているのです。
しかし、国内マーケットは確実に縮小していくので、このまま「拡大」のみで突き進めば必ず破綻します。
内需だけで経営を成り立たせている企業は死活問題に直面します。
人口減少社会で豊かさを維持していくには、経営手法をはじめ、思い切って社会の仕組みを変えるしかなく、「戦略的に縮む」ことです。
まずは企業が国内マーケットの縮小を前提とし、それでも成長し得る経営モデルへと転換することです。
いや応なしに消費者が減ります。売上高を増やすことで利益を拡大させる経営スタイルは人口減少社会では通用しません。
少子化が進むにつれて、人手不足も恒常化する。配送するドライバーや販売する小売店の店員も含め、関連する業種がすべて縮小するので、1社だけが拡大路線にこだわろうと考えてもうまくいくはずがありません。
とはいえ、単純に売上高を減らせば、当然ながら企業は存続しません。
そこで目指すべきは少量販売でも利益を増やす経営モデルです。そのためには、付加価値を向上させることです。
消費者は自分にメリットがあると思えば多少無理をしてでも購入します。
例えば、スマートフォンだ。その利便性の高さは多くの人に「生活に必要なモノ」として認められ、決して安い買い物ではないですが、瞬く間に普及しました。
企業の生産能力に応じた数しか製造しませんが、経営が成り立つには十分な利益を獲得しています。顧客のニーズをしっかり把握し、必要とされるモノやサービスを、必要とされるタイミングで提供することで付加価値を高めているのです。
消費者が必要とするモノやサービスを提供しさえすれば、マーケットの縮小で売上数がこれまでより少なくなったとしても、単価を高くすることによって利益をむしろアップさせることは可能です。
そもそも、人口減少が止まらない以上、日本はいずれ海外に活路を見出さなければなりません。
しかし、新興国をライバルとしたままやみくもに打って出ても“負け戦”に終わるだけです。
それよりも、高付加価値化によって「なくてはならない存在」となった上で、勝負したほうが成功確率は高くなります。
もちろん、安価で安定的な提供を求められる日用品メーカーなど高付加価値化にそぐわない業種もあります。
こうした業種は、経営の多角化を図ることだ。高付加価値化の製品やサービスを扱える部門を創設したり、企業合併をしたりすることで企業全体として採算がとれるようにするのです。
高付加価値化には、まず独創性が不可欠だ。だが、それを生み出す若い人材は、少子化の進行でどんどん減っていきます。こうした状況を打開するには、従業員一人一人のスキルを底上げし続けるしかありません。
政府も旗を振りはじめたリスキリング(必要なスキルの獲得)などが重要となります。
二つ目にすべきは、個々のスキルアップによって労働生産性を向上させ、「稼ぐ力」を高めるのです。
資源に乏しい日本が、人口が減ってもなお経済成長を続けるためには、世界が必要とする分野において他国を圧倒するアイデアを生み出し、技術力で差別化を図っていくことに尽きます。
それは人口が増えていた時代においても求められてきたことであり、人口が減る時代においてはなおさら傑出した分野を作ることが求められます。
そうした意味においても人を「コスト」と捉えてはならない。「資本」として投資していくことが非常に大事です。
三つ目は、マーケットの掘り起こしである。 高齢化率はどんどん上昇し65年には38.4%となります。
高齢消費者が増え続けるのに対し、多くの業種ではシニア向けビジネスに本気で取り組めていません。
高齢者の暮らしぶりが十分理解できておらず、高齢者マーケットのニーズに対してイメージを描けていないのです。
例えば、ファッション業界を例に挙げると、若い世代向けにはセンスの良さや素材の新しさが付加価値となってきましたが、高齢消費者が服を買うときの基準はこれらに加えて、脱ぎ着のしやすさや、洗濯のしやすさなどが加わります。
「着て行く場所」の提供も必要で、「買っても着て行くところがない」となると購買そのものをしなくなってしまいます。
日本に圧倒的に不足しているのは“大人の社交場”で、高齢消費者のみならず、中高年にとっても「ハレの場」は少ないのです。
このように、高齢者マーケットを掘り起こすには、付加価値を高めたり、新たな需要を創出したりする必要があります。
その際に異業種と連携することで、思わぬ効果が生まれるかもしれません。
四つ目は商圏規模の維持で、縮小していく国内マーケットを分散させたのでは、一つ一つのマーケットの勢いが削がれていきます。
とりわけ、人口減少がすでに始まっている地方圏では重要なポイントとなります。
今後は過疎エリアが広がっていくとみられるためです。
国土交通省の資料によれば、00年から20年までは人口5万人未満の小規模自治体において人口減少が進んみました。
しかしながら、40年までに著しく減るのは人口5万~10万人の自治体で、00年比22%減となります。
10万~30万人といった地方の中心的都市も14%減となり、商圏人口が減れば多くの民間企業が撤退を始め、電気やガス、水道といった公共サービスは割高となります。
民間企業が撤退すれば、地域の雇用は減ると都会への人口流出が激しくなり、それによってさらに民間企業が立地できなくなる悪循環を生みます。
政府や地方自治体は東京一極集中を是正すべく、デジタル田園都市国家構想総合戦略において27年度に地方と東京圏間の転出入者の均衡を図ることを打ち出しました。
年間1万人の地方移住を図る方針ですが、人里離れた場所に思い思いに住む人が増えれば過疎地を拡大させる結果にもなります。
地方移住自体を否定するつもりはありませんが、企業が立地しうるだけの人口規模を維持できなければ、そこに住む人の生活は不便となります。
撤退を余儀なくされる民間企業の側に立って考えると、そこに消費者がいることが分かっていながら費用対効果が悪くて販売機会を逸するということにほかなりません。
国内マーケットがさらに縮むようなもので、地方圏で商圏規模の縮小スピードを緩めるためには、既存の市街地などに「集住」することが求められます。
残念ながら、日本の衰退の背景となっている人口減少を止める方策は見当たりません。
瀬戸際に追い詰められている以上、過去の成功体験を捨て去り、思い切った改革に取り組むしかないのです。
現状維持バイアスにとらわれ続けるならば、日本に明日はないでしょう。