企業による投資と言えば、今まで工場における機械設備の設置を意味していましたが、頭脳資本主義が到来している中で、今や研究投資に比重を移しつつあります。
しかし、巨大IT企業の存在しない日本は、AI研究に投資する資金が圧倒的に不足しています。
AI革命(第4次産業革命)は、IT革命(第3次産業革命)と地続きになっているので、IT革命に成功した企業は続いてAI革命にもお金を使えるのです。
だから、「AI研究をリードするグローバル機関」のトップはIT革命の勝者であるグーグルであり続けています。
そして、巨大IT企業を数多く抱えるアメリカと中国が、AI研究でトップを競い合っています。
IT企業の時価総額ランキングのトップ20に入っている企業は、ほとんどがアメリカと中国の企業です。
このようなIT企業がAIなどの研究に資金を惜しみなく注ぎ込んでいたら、とてもではありませんが日本はアメリカや中国には勝てません。
資金力だけの問題ではありません。日本は数学的な思考力や国語の思考力は他国に比べてかなり高く、調査によっては1位ですが、デジタル技術スキルは63カ国中なんと62位です。
日本人が他の理工系分野に比べて比較的ITが苦手というのは事実でしょうが、ITさえなんとかすれば済むという話でもありません。
問題はもっと根深く、日本人の大人は他の国の大人と比べてぶっちぎりで勉強しません。
まず、日本企業は人材投資をしなくなっており、主要国最低レベルです。新人研修に熱心なイメージがあるせいか、社員教育に力を入れていると思われがちですが、実際にはそんなことはありません。
社外で勉強しない人が46%もいます。「自分の実感と合わない、自分も周りの人もみんな勉強している」と驚く人もいるかと思いますが、納得の数字です。
というのも、大学生でも、講義に関わること以外は一切勉強しませんし、知的な本を一切読まないという学生が半分くらいいます。
小説だけでも読む学生はまだマシに思えます。
比較的時間のある学生時代に本を読まないくらいなので、社会人になったらどうかは推して知るべしでしょう。
実際、文化庁の平成30年度「国語に関する世論調査」によれば、月に1冊も読書をしない人の割合は47%です。
日本の子供達は「勉強嫌いのガリ勉」、「日本の会社員はぶっちぎりで勉強しない」となどというと、「ふざけるな! 経済停滞を労働者のせいにするな」という反論も多くあるようです。
「仕事に疲れ切っていて勉強や読書をする余裕がない」という意見もあります。
当然、そういう人も少なくないと思いますが、主因は他にあると思います。
というのも、多くの調査が、日本人の知的好奇心が他国に比べて圧倒的に低いと指摘しているからです。
例えば、日本の子供達は、他国と比べて科学を楽しいと感じていません。そうかと言って、全然勉強しないというわけではない。
それどころか、数学的リテラシーランキングは1位、科学的リテラシーランキングでは2位で、大変優秀です。
一言で言うと、日本の子供達は「勉強嫌いのガリ勉」ということになります。
テストがあるから勉強するが、大人になったらテストはないので一切勉強しない。それが半分くらいの日本人の姿です。
実際に大学も勉強を試験でいい点をとるための修行としか思っていない学生が多いことです。
講義の終了時に受ける質問は、「テストには何が出るんですか」とか「テストは選択式ですか、論述も出ますか」というものばかりのようです。
知的好奇心を満たすことではなくテストでいい点をとるための対策が勉強と考えているのなら、そうなるのも不思議ではありません。
そういうわけで日本人は、20歳ぐらいまでは勉強せざるを得ない環境に置かれるので学力が高いものの、それ以降は、20歳ぐらいまでに身につけた学力でなんとか残りの全人生を乗り切ろうとするのです。
ところが、科学技術が社会や経済に与える影響は大きく、毎年のように、ブロックチェーン、フィンテック、AI、NFT、DAOなどと新しい概念が出ています。
だから、大人になっても勉強し続けなければもはや変化に追いつけず、新しいビジネスをうまく展開することもできないはずです。
知的好奇心が低ければ、そうした変化にキャッチアップする能力もおのずと低くなり、時代にもついていけなくなるでしょう。
1970年から95年までの25年間は、比較的科学技術が社会や経済に及ぼす影響が少なかった時期です。
その時代であれば20歳までの知識で乗り切れたかもしれませんが、今では難しくなっています。
このように知的好奇心が低いままでは、日本の相対的な没落は避けられないでしょう。
詰め込み教育が絶対にいけないわけではないにせよ、子供達の知的好奇心を育てられなかったのは、はっきりと教育の大失敗と言っていいでしょう。
さらに日本は科学力の低下も顕著で、2000年くらいから日本の科学論文の数はゆるやかに減少しています。
他国は当然論文数を増やしていて、なかでも中国は指数関数的に増えています。
研究者の世界では科学技術の成果を論文として発表するので、その数の減少は科学技術の衰えとも言えます。
つまり、一般的な労働者の勉強意欲も低いうえに、科学者の成果も減少傾向にあるということで、日本はかなりピンチです。