今、海外で「出稼ぎ」をする日本人が増えています。
例えば今、「短期で稼げる」といわれているのが、アメリカやオーストラリアです。
日本で3年間修行した後にアメリカで寿司職人をしているという男性が登場し、年収7000~8000万円だと明かしたニュースが流れていました。
また、ワーキングホリデーでオーストラリアを訪れて、そのまま工場で金属加工の仕事をしている32歳の男性も、現在の月収が日本円で80万円ほどで、プライベートの時間もたっぷりとある働き方だとして、「もう日本では働きたくない」と言っていました。
ただ、これはちょっと冷静に考えれば、驚くような話ではありません。
世界では賃上げのため、政府が最低賃金を継続的に引き上げていくのが一般的ですが、日本では「中小企業が潰れてしまう」という独特な経済理論に基づいて、最低賃金引き上げを抑制してきました。
その結果、日本の賃金は30年間ほとんど上がらずで、国税庁発表の「2021年分民間給与実態統計調査」では、平均給与は約443万円です。
G7の中で最下位まで落ちぶれたのです。
平均給与ではついにお隣、韓国にまで抜かれてしまったのです。
中国やベトナムの都市部では、東京や大阪よりも給料が高い仕事が山ほどあります。
アメリカ、オーストラリア、欧州などはそれ以上です。
かつて若者が短期間でガッツリ稼ごうと思ったら、工事の作業員や、高給で知られた佐川急便のドライバーなどでした。
今の「安いニッポン」でそれを不眠不休でやったところで、たかが知れています。
ならば給料の高い海外へ、というのは極めて自然な流れでしょう。
「失われた30年」に入る前、日本がバブル景気に沸いていた頃、日本の高賃金を求めて、東南アジアや南米から多くの出稼ぎ外国人が来日したものです。
30年の衰退期を経て我々日本人も彼らと「同じ立場」になった、というだけの話なのです。
ただ、それは裏を返せば、特に外国語を話せないなど、これからの「出稼ぎ日本人」は訪れた国で、低賃金労働や搾取、さらにパワハラやイジメなどの憂き目にあってしまう可能性が極めて高いということでもあります。
なぜなら、日本にやってきている「出稼ぎ外国人」を見れば一目瞭然です。
厚生労働省が2020年に行った調査によれば、外国人の技能実習生が働いている8124事業所のうち5752事業所で労働基準法や労働安全衛生法違反が見つかったといいます。
適切に働かせていたのは3割だけでした。
ルール違反どころか、暴力やイジメの被害も多数報告されています。
岡山県の建設会社で働いていたベトナム人の技能実習生は、来日から2年に及んで、同僚から殴る蹴るなどの暴行を受けて、肋骨を3本折られました。
このような劣悪な労働環境が故、職場から逃げ出す外国人も多く、2021年に失踪した外国人の技能実習生は7000人を超えています。
日本は欧米ほど人種差別が深刻ではないといわれ、労働環境もそれほど悪くはないとされています。
にもかかわらず、地方の小さな会社などで外国人を雇うと、このような問題が起きてしまうのです。
ということは、人種差別が根強かったり、人権意識が乏しかったり、労働環境が日本よりも悪いような国に日本人が出稼ぎをした場合、もっとひどい目にあう恐れがあるのは容易に想像できるはずです。
例えば欧米社会に出稼ぎをした場合、間違いなく直面するのが「アジア人差別」です。
心ない言葉をかけられるくらいならばよくある話で、暴力を受けたりイジメを受けたりする恐れもあります。
また、遵法意識の乏しい経営者などの場合、アジア人というだけで足元を見られて、「仕事があるだけありがたいと思え」と不当に安い賃金で働かされる恐れもあります。
特に懸念されるのが、中国人への反感が高まった際にそこに巻き込まれる危険性です。
米中関係が悪化して、アメリカ国内でアジア人へのヘイトクライムが多発した際、現地の日本人も多く被害にあったように、欧米社会では、中国人と日本人はひとくくりで「アジア人」なのです。
このような厳しい労働環境の中で、特に虐げられえるのが「弱者」である女性です。
豊かな国が、経済格差のある国から出稼ぎをしにきた女性たちの「性」を搾取するというのは、全世界で確認されている、人類社会の普遍的な現象です。
バブル期の日本でも「じゃぱゆきさん」と呼ばれるフィリピン人女性たちが人身売買的に扱われ、中には偽装結婚や、管理売春の被害者になることが社会問題となりました。
「出稼ぎ」が増えている「安いニッポン」でも、このような女性の性的搾取が深刻になっていく恐れがあるでしょう。
このような出稼ぎはアニメ産業やIT業界、製造業などさまざまな現場で起きています。
経済的に豊かになった中国人が、貧しくなった日本の出稼ぎ労働者の足元を見て、労働を搾取する問題が静かに進行しているのです。
よく「安いニッポン」という話になると、「日本は給料が安くても国民皆保険など生活インフラが充実している」とか「賃金が安くても物価も安いのでトータルで見ると、こんな生活しやすい国はない」と主張して、低賃金を肯定する人たちがいます。
しかし、賃金が安くなることの本当の恐ろしさは、内外格差によって、豊かな国から、「安い日本人の労働者」が不当に搾取されていくことなのです。
日本人の人権と尊厳を守るためにも、そろそろ日本でもおかしな経済理論は捨てて、他国のように、最低賃金を積極的に引き上げていくべきでしょう。
そのためには雇用の流動性を高めて、成長分野での生産性を上げ、利益を上げていくしかないのでしょうが、定年まで一つの場所でしか働かない日本人の固定観点を変えないとどうにもならないでしょう。